竹取翁と万葉集のお勉強

楽しく自由に万葉集を楽しんでいるブログです。
初めてのお人でも、それなりのお人でも、楽しめると思います。

キンドルで遊んでいます。

2019年11月04日 | 遊び
そろそろ、万葉集の読み直しも終わりです。
そこで、今までの記事を再編集してキンドル本として出版しています。ただ、1冊100円と有料となっていますのは、ご容赦下さい。
コメント

本、出しました

2016年12月17日 | 遊び
ブログの記事を集めて、本の形にしました。
ただ、アマゾンのオン・デマンド版です。つまり、ある種の遊びです。

古代史から山上憶良 日本挽歌を鑑賞する - コダイシカラ ヤマノウエノオクラ (MyISBN - デザインエッグ社)
土方 賀陽
デザインエッグ社



「万葉難訓歌」を読み解く - 万葉集鑑賞 西本願寺本万葉集から (MyISBN - デザインエッグ社)
クリエーター情報なし
デザインエッグ社
コメント

明日別れなむ

2011年11月29日 | 遊び
明日別れなむ

六日の土曜日、今日は忙しい。朝から和也の部屋に行って引越しの準備。二時が引越し屋さんの約束。それで、四時に私の部屋でその荷物を受け取る。今回は梱包は開けないから、ただ、段ボールと衣装ケースを部屋の隅に積み重ねるだけ。
その和也は月曜日には赴任ってことで、金曜日の三時過ぎに部屋に帰って、赴任の準備と引越しの準備をしているはず。
朝、九時に和也の部屋に行った時、ほぼ、準備は終わっていた。片付いていないものは、引越し屋さんが処分してくれる。和也は私とこれから暮らすから、引越し荷物は、結局、PCなどの器具類と衣類や本類が中心で、冷蔵庫や家具類等は処分をし、それを引越し屋さんにお願いするようになる。そのために和也と私で処分をお願いするものを最終的に決めた。そのあと、私、先行して自分の部屋に戻って来た。和也は引越し屋さんに荷物を任せて、あと、管理会社に部屋の引き渡しをしてから私のところに来る。和也の引越し荷物は約束通りに四時に来た。
その和也は、ちょっと、遅れて六時に来た。うんん、今日からは私のところに帰って来たかな。

和也は、今日と明日の日曜日、ここに居て、月曜日の夕方、海外の現場に六カ月の予定で赴任する。
でもね、これ、和也には秘密なんだけど、右手のリングと和也のネットバンキング事件以来、和也が海外に赴任するのは淋しいけど、一方で、それが仕方のないことなら、二人の将来のためにしっかり稼いで来いって感覚がある。今、あのネットバンキング事件以来、見始めたインテリアコーデの本とかが、その私の云い訳を正当化する。それと、なぜだか、通勤の往き帰りの電車でマンションの広告に目が泳いでしまう。
だからなのか、明後日から三カ月の間、もう、和也には逢えない。それって、とっても淋しいし辛い。でも、昔みたいに酷くへこんだり目を泣き腫らしたりすることはない。
私、変わったみたい。そして、強くなったみたい。
あと、悔しいのだけど、和也は和也で、私と逢えなくなることと現場で待っている初めて経験するだろう仕事への期待とを天秤に掛けているような雰囲気がある。だからか、和也の部屋でのことなんだけど、和也にはホイホイと楽しそうに荷作りをする姿があった。私的には、もうちょっと、ドラマとか小説みたいに、私に逢えなくなることが淋しいっていうオーラを全開で出して欲しかったなぁ。そうすれば少女漫画じゃないけど、私も淋しく泣きながらすがるって姿を見せられたんだけど。和也がテキパキ、ホイホイじゃ、私だって、それがうつっちゃうし。

和也、六時に私のところへ帰って来た。で、とたん、お腹が空いたってオーラを全開で「ね、理沙。今日の晩ご飯って、なに?」って聞いて来た。私、「よし、判った。和也、今日は、送別の宴会だよ」って云ったら、和也、めちゃ喜んでいた。
「でねぇ、今日は匂いの通りのおでん。ただし、関西風のおでんで、牛筋が入っているやつ。お清ましの関東煮じゃないよ」
「おれ、それ、すげー好き。おでんには、やっぱ、牛筋でしょ」
「あと、和也、お稲荷さんもあるから、足りなかったら云ってね」
「なんなら、締めにおでんの汁でおうどんってのもありだからね」
関西風のおでんって、これ、見た目より手間が掛かる。お清ましの関東煮のおでんは市販のおでんの素で具を煮込めばお仕舞いだけど、関西のは牛筋を二回ほど下茹でして洗うとかダイコンの下茹でとかの下処理に手間が掛かる。でも、牛筋や練り物からのだしがたっぷりでなかったら、下茹でしたダイコンも玉子も美味しくない。それに、お餅の巾着も、味がスカスカになる。西日本じゃ、ゆずダイコンとおでんのダイコンとは、まったく、違うものだからね。本当、関東のコンビニおでん、どうにかならないかな。
で、今日も七時から、良く冷えた日本酒で宴会のスタート。白味噌の練り辛しが良く合う。
「どうだ、和也。私からもう、逃げられないだろう」
「うん、おれ、絶対、理沙の晩ご飯からは逃げ出さない」
あのねぇ、和也。私が聞いたのは「私から」であって「私の晩ご飯」じゃないの。晩ご飯は私の“おまけ”で、私は晩ご飯の“おまけ”じゃないの。
「ねぇ、理沙。やっぱり、関西のおでんって最高だよね。おれ、あっちに行く前に食べられて、超ーうれしい。すっげー、美味しい」
「理沙、出来たら、締め、おうどんにしてくれない? このだし、牛筋のあぶらとか、味とかが出て、コクが最高!」
うーんん、私、和也を怒るタイミングを外したじゃない。もういい、さぁ、しっかり食べて、がんばって来るんだよ。

今、二人のお約束になったみたいだけど、いつものように私が先にお風呂に入っている間に、二次会の席の準備が出来ている。その和也が追っかけでお風呂を使っている間に、白いワインに合うように短冊ダイコンの叩き梅干しにキャベツとニンジンの甘酢漬けの酒の肴を用意した。
これもお約束のようにテレビは形だけ点けて、私は和也にごろにゃんしてる。ただ、この頃、少し腹が立つのだけど、和也、ドキュメンタリーとかをやっていると、それを最後まで見てる。ねぇ、和也。あなた、最初、二人がエッチするようになったころ、そんな余裕って、全然、無かったじゃない。私がお風呂から出るのを待ち構えるようにしてエッチしてくれたじゃない。ねぇ、和也。
私、和也のにキスしてテレビタイムを強制終了しようとした。その気配に気付いたのか、和也からそれをお願いして来た。それから、和也、明日はやさしいのをするから、今日は激しいのをさせてと予告した。和也、私のキスで暴発した後、余裕を持って激しいので、いっぱい、私に愛をした。今の和也、回数ではなく、私にその愛の行いのなごりを楽しむ間を持たせてくれる。でも、そのなごりが薄れる前に、つぎの愛を与えてくれる。ちょうど、嵐の大波が間を持って色々な方向から打ち寄せるように、和也、色々な愛を大波が打ち寄せるようにしてくれる。なにか、今日のは、和也の愛の期末試験のよう。今までしてくれた愛の形をおさらいするようにしてくれる。そして、それ、私のリズムに合わせるかのように愛を重ねてくれる。

朝、私の脚とか和也の腰のまわりにキラキラしているものが付いていた。きっと、これ、私の愛のなごり。昨日、今までで最高の愛をしてくれた。だから、私、今、ベッドから出たくない。それで、私、和也にお願いした。このけだるい感じの私をやさしく包んで、そして、私の髪に指遊びをして、それから、キスもしてって。
私、お昼近くまで、和也の胸の中で昨日の愛のなごりを楽しんでいた。和也は月曜日の夕方六時に私の部屋を出発する。和也の願いで駅までで見送りはお仕舞い。だから、今日と明日の夕方まで時間はある。

ブランチのような早いお昼ご飯は、前に評判が良かったシンプルなぺペロンチーノ。それにマギーのチリソースをお好みで掛ける。サイドとしてのサラダは無しで、金麦だけ。
お昼が終われば、二人、また、だぼだぼなシャツ姿で、まったりしている。今日はなにもしないし、外にも行かない。ただ、まったりする。そして、お約束のように、どちらかが愛が欲しくなったら、それをする。
三時のおやつは和也がコーヒーをドリップしケーキの準備もした。
飽きないな、おやつが終わったら、また、二人、まったりしている。和也は私の本箱から伊藤博の万葉集を引っ張り出して読んでいる。私は、和也に寄り掛かってパッドで遊んでいる。肩に副えられた和也の手が暖かい。

カウントダウンが二十四時間を切った時、私、しゃきっとした。
和也のお尻を叩くような雰囲気で送り出してあげる。私、もう、うじうじしない。これからずっと和也といっしょなら、これが日常。さあ、しゃきっとしよう。
「ねぇ、和也ー。晩ご飯、何時に食べたい? それでねぇ、今日はすき焼きだよ」
「うん、やっぱり、七時ぐらいかな」
「ただね、カップのお酒ならあるけど、白いワインは売れ切れ。要るのなら、コンビニに走っておいで。どうする?」
「えぇー、おれ、走ってくる」
和也、あわてて着替え、もう、寒い街へと走って行った。私、その間に晩ご飯の準備をした。私のすき焼きは、私の好みで玉ねぎ、春菊と青ネギが入る。これについては和也に文句は云わせない。私的には関東の深谷ネギは邪道じゃ。あれは、焼いて食べるのじゃ。鍋で煮るものじゃない。あと、きのこはシイタケでなきゃだめ。許してあげて、本しめじが限度。
野菜、焼き豆腐、湯通ししたシラタキが準備できたころあいに和也が帰って来た。手に提げたコンビニ袋には金麦に白いワイン、それにケーキとか、カットフルーツとかもある。うん、これで明日も出発までは引き籠りが決定。和也、三時のおやつに冷蔵庫を開けた時、中を確認したみたい。和也って、優秀な男の子だ。
お肉は特売のファミリーパックで、スペシャルな日としては御免なんだけど、二人分としてなら、お肉はたっぷりあるから、しっかり、食べてね。

晩ご飯の時、私、和也に引越しの話をした。二十一日の土曜日に決めた。だから、スカイプでの会話はその前後、出来なくなるって説明した。和也は、そのころのイベントのことを心配してくれたけど、私、その日は出勤だから心配しなくても大丈夫って答えた。それに今、私のビッグイベントは次に和也が帰って来るまでに二人の部屋を作ること。それも私のテイストで作る。この楽しみを和也がプレゼントしてくれたから、私、大丈夫。
それで、「私が考えているお部屋って、こんなイメージだよ」って、今まで集めた写真なんかをパッドに呼び出して和也に見せた。それなのに、和也、こいつ、男の子のせいか、和也自身の性格なのか、部屋のコーデにはあまり興味を見せなかった。逆に、和也、それを楽しそうに話している私に興味を示した。そして、一生懸命に話しをしている私の横顔が素敵で惚れちゃったと云ってキスしてくれた。どうも、和也は私のお父さんと同じで、自分のスペースさえ確保できれば、その周りには興味が湧かないみたい。だからなのか、着ているものも冬は暖かく、夏は涼しければいいって感じ。その内、こっちの方も和也を教育して行かないといけないだろうな。私、いつまでも綺麗でいたいから、連れて歩く和也も素敵でいて欲しい。
今、和也的には「和也の理沙」になっていると思うけど、「理沙の和也」にするのなら、生活のことやファッションのこととか、もう少し教育しないとだめだな。和也、帰って来たら、もっと、私好みの男の子に染めて行くからね。ちゃんと、するんだよ。

晩ご飯を食べ、パッドを使ってお部屋のコーデの話をしているときまでは、和也、普通だった。でも、私の横顔が素敵と云って大人のキスをしてくれてから変になった。いつもは、晩ご飯の片づけをしてお風呂に入り、そして、まったりしてという決まった順番があるのに、今日は違った。和也、大人のキスの途中、いきなり、抱き上げてベッドに連行した。そして、だぼだぼなシャツ姿のままの私を、それをやさしく脱がしてくれるのではなく、下の方のインナーを片足に掛かったままというような姿で、とっても焦って切羽詰まった感じで愛をした。でもね、今日の私、すべてが和也のものだから和也のしたいようにしていいよ。明日、赴任しちゃうと三か月も逢えないんだから、しっかり、和也に私を刻みつけてちょうだい。

お母さんが漁に出る前のお父さんのことを話していたみたいに、今、和也、私にすがるような感じで寝ている。
最初、和也、初めて私の潤いを確かめることなく、この女を抱きたいって感じの焦るような雰囲気で愛をしたけど、そのあとは、いつものやさしい和也になって、昨日の約束通りのやさしい方の愛をしてくれた。それでも、今日の愛はいつもの和也のじゃなかった。タイミングもフィーリングも、和也、いつもより早かったし、わがままだった。
でもね、今、私、そのような和也の気持ちが判るようになった気がするし、その和也がこうして私にすがりついて眠ってくれているのが嬉しい。だって、今のこの和也の姿を知っているのは私だけだもん。和也、最後には私のところに帰って来るし、すがって来るんだよね。お母さんじゃ、ないけど、和也、留守は私に任せなさい。だから、心配しないで頑張っておいで。

そう云えば、万葉集にも恋人の地方への赴任の時、女の子が男の子へ詠った歌があったなぁ。
この歌の世界、男の子の赴任の前日の夜、女の子は男の子に抱かれて月を眺めてお話しをしている。きっと、この歌が詠われたのは新年の任官式の時だと思う。厳しい寒さの分、月は青く美しく輝く。その月を男の子の胸の中から眺めているのだと思う。
でも、この歌には、なにかしら、女の子に余裕がある。きっと、この女の子、私と同じで、離れていても二人の気持ちは繋がっているし、男の子はお仕事が終われば、絶対、自分の許に帰ってくると確信していると思う。だから、女の子に「これが最後の日」って感じで男の子に泣いてすがりつく姿はない。それに、ひょっとすると、二人に児がいたのかもしれない。それぐらい、女の子に余裕があるような気がする。

歌番3207 荒玉乃 年緒永 照月 不厭君八 明日別南
訓読 あらたまの年し緒長く照る月し飽かざる君や明日別れなむ
私訳 年の御霊が改まり新たな年に、その毎年、夜を照らす月のように、久しくお逢いしても飽きることない愛しい旅立つ貴方と、明日、別れるのでしょうか。

歌番3208 久将在 君念尓 久堅乃 清月夜毛 闇夜耳見
訓読 久(ひさ)あらむ君し思ふにひさかたの清き月夜(つくよ)も闇(やみ)し夜に見ゆ
私訳 御無事で好く久しいでしょう、その愛しい貴方を恋い焦がれるとき、遥か彼方にある清らかな月夜も闇の夜かのように眺めることでしょう。

私、和也と離れ離れになるのは淋しいけど、この女の子と同じように、だからと云って和也の後ろ髪を引っ張るような見送りはしない。にっこり笑顔で送り出してあげる。
和也、元気で行っといで。
そして、帰って来たら、また、二人して宿題にした万葉集の勉強をしようね。私は人麻呂の歌物語、和也は報凶問歌。これ、忘れちゃだめだよ。
コメント

歌物語

2011年11月29日 | 遊び
歌物語

二十二日金曜日、和也は夜九時過ぎに来る。和也の赴任前に逢うのはこれが最後になる。あとは、赴任の前日。
お父さんとお母さんが桜の季節に八カ月の別れが毎年有ったように、私、和也と付き合うなら和也の海外赴任は日常になる。だから、今回も普通の事とする。もう、へこんだりしない。私、こっちに出て来て、丸三年間、たった独りだった。それに比べれば大したことない。今はスカイプのビデオ電話って誰でも使える時代だから、顔を見たり、声を聞いたりすることは簡単だもん。だから、今回の赴任も普通のこと。
ただ、ご飯は、なにか、考えてあげよう。和也の部屋じゃ、まとものものは作れないから、赴任前に逢ってもお弁当か、外食になっちゃうだろうから。

おれ、どうしようかなぁ、アパートの管理会社に「アパートを早めに返却したい」って云ったら、「一か月のペナルティーを取らないから早く返して」って云われた。なんか、電車の便利がものすごく良くなったので地域の人気が上がったから更新の時に家賃を上げるつもりだったみたいだし、問い合わせも結構あるみたい。それで、おれの打診を喜んでいた。理沙、十二月から、おれの荷物、預かってくれないかなぁ。そうすると、おれ、助かるんだけど。だめって云われたら、一旦、田舎に送り返そうかな。やっぱり、土曜日の機嫌のいいときに相談しようかな。理沙、近頃、浅田さんじゃなくて理沙は理沙なんだけど、たまに理沙がおっかない時があるんだよな。怒ると、キスもさせてくれないし、それに、機嫌が直るまで晩ご飯が遅くなるし。でも、生活のことで相談しないと、もっと、怒るし。やっぱ、正直に相談するか。

和也が来るのは十時過ぎだから、私、六時ぐらいからカレーを作り始めた。お肉は牛筋が手に入ったから、これ。二回ほど下茹でしてから、じっくり、煮込む。牛筋は西日本の方じゃ当たり前の食材なんだけど、関東の人はお金持ちが多いから安い食材ってあんまりスーパーには出てこない。お魚の馬ずらカワハギもそう。ただ、牛筋だけだと煮込んでいる内に形が溶けちゃうから、和也のために骨付き鶏肉のぶつ切りも入れている。そうすると見た目にはお肉があるでしょう。でも、味は牛なのよ。私の好みは、ややとろりタイプ。和也も、とろりタイプが好きだったから、喧嘩しなくてよかった。で、今日は、カツカレーにダイコンのサラダ。サラダドレッシングはタバスコマヨで、ちょっと辛くしてある。簡単だけど、ワインとか、金麦には合うはず。

十時ちょっと過ぎ、和也が飛び込むようにやって来た。
今日は、行儀が良く、最初に軽くキスと抱っこをしてくれた。そう、ちゃんと、女の子への敬意を表して貰わないと、晩ご飯、お預けにするよ。この間のお預けの効果かな、今日は、とっても良く出来ました。お腹を空かせて飛び込んで来た和也に何時までも晩ご飯をお預けにすると可哀想なので、最初の軽いキスの後、私、「ご飯、食べよ」ってかわいく云ってあげた。もう、入って来た時の匂いで判っているように、今日は和也が大好きなカツカレー。大盛りで盛ってあげた。でも、しっかり、お替りをした。和也、最初は骨付き鶏肉をもぐもぐしていたのでチキンカレーと思っていたみたいだったけど、途中で牛筋のビーフカレーだと気が付いた。和也、がっつくだけじゃなく、結構、判っているじゃない。
今日は、和也が遅く来るのは判っていたから、私、和也が来るまでにお風呂に入って、例のだぼだぼシャツのスタイル。それで、和也、晩ご飯の後半では別の食欲がすごかった。いつもなら、和也が片づけをしてくれるけど、今夜は私が片づけをしている間に、お風呂に入って貰った。和也がお風呂から出たら、いつもの二次会のスタートってことになる。その私の計画では夜遅く十一時からの二次会のスタートのつもりだったけど、今夜は、急遽、中止になっちゃった。和也のお願いで和也の別な食欲を満たすのが先になっちゃった。
今日の私、お料理の都合とかでだぼだぼシャツの下にブラを着けていたから、立ったまま抱き合って大人のキスの最中に、お乳から始まって膝ぐらいまでキスをするような感じで、生まれたままの姿にしてくれた。ベッドの中で背中から囁きながら抱っこして色々なところに愛撫をしてくれていたんだけど、和也、いきなりお尻を抱えるような形で愛をした。いつもと、愛をする形の順番が違う。いつもなら最初は普通ので愛をこれから楽しもうねって感じなのに、今日は、いきなり、激しくする。和也、若いから、ちょっと休憩しただけで、クッションを私のお尻の下に入れて、また、深ーい愛をする。最初も今回も和也の体が遠いから、私の手、和也に届かない。私、和也の重みが欲しいって手で顔を覆って泣いていた。そうしたら、次は和也、今度はじらすような、ゆったりしたので、私に重みを与えて愛をしてくれた。やっと、私、和也の体をしっかり抱き寄せた。
愛の間は、もう、許してって思っていたのに、私、和也の胸の上で私の右手の指先を見、左手は和也のを触れている。そして、体の奥底には愛の余韻が漂っている。その私の背中を和也が包んでくれる。癖になっちゃったみたい。指先のものも触れているものも、すべて、私のもの。それが私をこんなに幸せにしてくれている。
確か、万葉集に男の子に、心底、惚れちゃった女の子の歌があったなぁ。この女の子、歌番603の歌で詠うように、恋した男の子に今の私みたいに死んじゃうんじゃないかと思うぐらいのエッチの喜びを教えて貰ったみたい。そのエッチの後もやさしくして貰ったら、その男の子は私一人のものって思うだろうな。そして、「こんなに私は貴方が大好きなんだから、貴方も同じようね」って、当然のように聞くだろうな。

歌番595 吾命之 将全幸限 忘目八 弥日異者 念益十方
訓読 吾が命(いのち)し全(また)幸(さき)限り忘れめやいや日に異(け)には念(おも)ひ増すとも
私訳 私の命がこの世にある限り貴方のことを忘れることがあるでしょうか? いいえ、日に日に貴方への想いは増すことはあっても、そんなことはありませんから。

歌番596 八百日徃 濱之沙毛 吾戀二 豈不益歟 奥嶋守
訓読 八百日(やほか)行く浜し沙(まなご)も吾が恋にあに益(まさ)らじか沖つ島守(しまもり)
私訳 何百日も歩いていけるほどの広い浜にある砂の数も、私が貴方に恋する想いに勝るでしょうか、ねえ、沖の島守さん。

歌番603 念西 死為物尓 有麻世波 千遍曽吾者 死變益
訓読 念(おも)ふにし死しするものにあらませば千遍(ちたび)ぞ吾は死し返(かへ)らまし
私訳 (人麻呂に愛された隠れ妻が詠うように)閨で貴方に抱かれて死ぬような思いをすることがあるのならば、千遍でも私は死んで生き返りましょう。だから、お願い。

ただね、この女の子、笠女郎って云うだけど、最後には相手の男の子の大伴家持に「しつこい」って云って逃げられちゃうんだ。和也、たぶん、今、和也の中でも私の比重、エッチと晩ご飯が同じぐらいになっちゃっているかな。若いかわいい女の子としては、ちょっと、残念だけど、晩ご飯の時の和也の顔を見ていたら、私、笠女郎と違って和也を逃がさない自信はある。
だから、この幸せは半年のお休みの後も、ずーっとずーっと、続くの。

今朝も前回と同じ、明日もう一日あると思うと、朝、起きようとは思わない。それで、互いが勝手って感じで朝ご飯を食べて、また、ベッドに潜り込む。和也はカフェオレでクロワッサンを食べたみたい。私も同じ。ただ、固めにパリパリに焼いてあるクロワッサンをジワーッと浸すようにして食べたけど。
一時過ぎにやっと、お昼ご飯にした。今日は、ペペロンチーノ。それに、マギーのチリソースをお好みで追加する。私はたっぷりが好き。和也、初めてみたいだったが、たっぷりがいいみたい。それと、やっぱり、金麦。今日の晩ご飯までのお買い物は済んでいるから、今日は一日、引き籠りをする。それで、二時ぐらいから、いつもの万葉集の勉強会をすることになった。
でも、和也がなんだか、もじもじしているので、追求した。
「和也。何か、あなた、隠し事をしていない。それとも、何か、私にお願い事があるの?」

あぁ、助かった。理沙から、先に聞いてくれた。どうやって、切り出そうかなぁって思っていたから、話を出しやすい。小学校の時、先生からお袋に三十点のテストを見せて「ハンコを貰って来い」って云われているような感じだったのだけど、先に「隠し事があるだろう」って云われると、逆にほっとするんだよな。
「うん、あのー、理沙、聞いてくれる。おれのアパートなんだけど、実は・・・」
おれ、理沙に説明した。おれ、頑張れば、今のアパートに三月まで居られるんだけど、「出来たら、ペナルティーを取らないから、すぐにでも出て行って欲しい」って管理会社に云われたって説明した。
理沙、案の定、怒っていた。「それ、早く、云え」って。「二十万を超えるお金じゃない。あなた、そんなにお金持なの」って怒られた。確かに、そう。おれにとって、それ、大金。でもね、理沙には内緒だけど、半分以上は会社の補助なんだ。これ云うと、お袋みたいに「口答えをするな」って、もっと、怒るだろうな。でも、理沙の決断は早かった。「ペナルティーがないのなら、早く、部屋を返してしまえ」って。それから、「和也の荷物なら預かってあげる」って。それで、理沙、すぐ、この間、目星を付けていたアパートをインターネットから呼び出して管理会社に電話した。「今、空いているから、興味があったら見に来ない」ってことになって、明日の午後に見に行くことになった。おれ、服は通勤スタイルだけど、まあ、いいか。電話では「今、二年契約すれば一か月はタダにしてあげる」って云っていた。
そう云うことで、明日、午後にここから二つ先の駅にあるアパートを見に行くことになった。ただ、営業所が理沙のところの駅にあって、そこから車で連れて行ってくれるってことなので、一時半に駅前の営業所に行く。それから、理沙に、インターネットで眺めた間取りで広い方が理沙の部屋で、狭い方がおれの部屋って念を押された。女の子はお洋服が大変なんだからってことだった。おれ、四畳半とか六畳とかの部屋が独りで使えるのなら、なにも文句は云わない。理沙の方は前の計画通りだと二月の末頃に引っ越す予定だったけど、場合によっては年末の引越しになるかも知れないって。その場合、二人の家賃の差額が出るから家具を買い替えるかってことになった。明日、アパートを見て気に入ったら、家具屋にも行こうかってことになった。
アパートの話をしている時、理沙におれのところの住宅手当は上限付きの率で支給か、それとも一律って聞かれた。おれ、良く判らないけど、確か、契約の写しを提出してから会社規定での支給って答えた。理沙の所は家賃に関係なく定額一律だから、二人で住むとしても契約主は和也がなるんだよって命令された。おれ、良く判らないから、ただ、「はい」って答えた。やっぱり、女の人って、頼りになるなぁ。

うーんん、もう、和也のやつ。大きなお金の話だったら、早く云わなきゃだめじゃないの。前に一緒に住んで、これらのためにお金を貯めようねって約束したじゃない。これだから、男の子って生活感がないんだからぁ。でも、いいか。最初の一か月がタダの約束だと、私の一カ月分のペナルティーの家賃が戻って来るみたいなものだから。こっちの話は今日の晩ご飯はお鍋料理だからその時にするとして、せっかく、万葉集の勉強会の準備をしたから、こっちをするか。
「ねぇ、和也。アパートの件は、晩ご飯がお鍋だから、続きは、その時に、しようか。それで、いつものように万葉集の勉強会をしよ」
「うん、勉強会しようか。で、ところで、今日のお鍋ってなに?」
「もうー、しょうがないわねぇー。今日は鶏肉だんごのお鍋。和也、ご飯のこと、忘れてこっちの方をしなきゃ、だめじゃない」
「それじゃ、するからね」
「最初はね、人麻呂の歌じゃないの。これを見てくれる」
「あれ、これは万葉集の巻二の冒頭に置かれた磐姫皇后の歌だろう、どうして、これ?」

磐姫皇后思天皇御作謌四首
標訓 磐姫(いはひめの)皇后(おほきさき)の天皇(すめらみこと)を思(しの)ひて御(かた)りて作(つく)らしし謌四首
歌番85 君之行 氣長成奴 山多都祢 迎加将行尓 待可将待
訓読 君し行き日(け)長くなりぬ山尋ね迎へか行かに待ちか待たらむ
私訳 貴方が帰って往かれてからずいぶん日が経ちました。山路を越えて訪ねて迎えにいきましょうか、それともここでずっと待っていましょうか。
注意 原文の「迎加将行尓 待可将待」は、一般には「迎加将行 待尓可将待」とし、句切れの位置が違い「迎へか行かむ待ちにか待たむ」と訓みます。ここでは原文のままとします。
右一首謌、山上憶良臣類聚歌林載焉。
注訓 右の一首の謌は、山上憶良臣の類聚歌林に載す。

歌番86 如此許 戀乍不有者 高山之 磐根四巻手 死奈麻死物乎
訓読 かくばかり恋ひつつあらずは高山(かくやま)し磐(いは)根(ね)し枕(ま)きて死なましものを
私訳 このように貴方の訪れを恋焦がれているよりは、故郷の傍の香具山の麓で死んでしまいたい。

歌番87 在管裳 君乎者将待 打靡 吾黒髪尓 霜乃置萬代日
訓読 ありつつも君をば待たむ打ち靡く吾が黒髪に霜の置くまでに
私訳 このまま貴方の訪れを待っていましょう。豊かに流れる私の黒髪が霜を置いたように白髪になるまで。

歌番88 秋田之 穂上尓霧相 朝霞 何時邊乃方二 我戀将息
訓読 秋し田し穂し上(へ)に霧(き)らふ朝霞(あさかすみ)何処(いつ)辺(へ)の方(かた)に我が恋やまむ
私訳 秋の田の稲穂の上に霧が流れて朝霞のようにはっきり見えない私の恋。いついつも私の貴方を慕う気持ちに休まる場所もない。

「あのね、今日の人麻呂の歌の作業員って人の試訓と試訳は、この連作の歌にヒントがあるの。それでね、この四首の歌についての解説を見てみて」

伊藤博 万葉集相聞の世界 塙書房
 四首を一読して誰もが気づくことは、・・中略・・、絶句起承転結の法さながらに、連作の形態顕著である。(一三一頁)
 前代の相聞歌のいくつかが、ロマンスとして宮廷サロンでもてはやられているころと察せられた。(一三三頁)

伊藤博 万葉集(集英社文庫) 釋注一
 四首仕立てにした“最後の埋もれた作者”は、持統朝の柿本人麻呂ではないかと思われるふしがある。(二二三頁)

古橋信孝 物語文学の誕生 角川書店
 相聞歌は、物語では語りえない男女の心をあらわすものとして部立てされたのではないか。磐の姫が相聞の最初に位置づけられていることから、そう読みとれるのである。(六〇頁)
 しかし、それらは恋の物語ではない。なぜなら、物語として書かれた物語ではないからだ。書かれる物語と物語を想像させるものとははっきりと区分されなければならない。(六四頁)

「古橋信孝って人の立場は、物語は見ただけで誰でも物語と思える記述の仕方をしたものが物語で、物語を想像させるものは“歌物語的なもの”と考えているみたい。でも、この磐姫皇后の歌には歌物語的な要素は認めているの」
「当然、伊藤博って云う人は、起承転結の文学性とロマンスを認めているから、理解では歌物語なのよね。それで、伊藤博って人は、持統天皇の時代に宮廷でロマンスな相聞歌や連作の歌物語的なものがあったと考えているの。それも、柿本人麻呂が中心的なメンバーじゃないかと思っているみたい」
「でね、次の人麻呂歌集の歌を見て、」
「歌番2333の歌と歌番2334の歌は、石見国から奈良の都に住む軽の里の妻に贈った歌みたいなの。でね、歌番1782の歌と歌番1783の歌は、人麻呂が地方に赴任したお役人の人が任期の中間で業務報告の為に奈良の都に帰って来る、“中上がり”って上京の時のもので、人麻呂と軽の里の妻とが上京の時に逢うことを打ち合わせた時の歌みたいなの」
「つまり、人麻呂と軽の里の妻とは、人麻呂が石見の国へ五年から六年の任期で赴任していた時も、ずーっと縁があったみたいなの」

歌番2333 零雪 虚空可消 雖戀 相依無 月経在
訓読 降る雪し虚空(そら)し消(け)ぬべく恋ふれども逢ふよし無(な)みし月し経(へ)にける
私訳 降る雪が途中で空に消えるように、ひたすら貴女を慕っているのですが、このように空しく逢う機会が無いままに月日が経ってしまった。

歌番2334 沫雪 千里零敷 戀為来 食永我 見偲
訓読 沫雪(あはゆき)し千里(ちり)し降りしけ恋ひしくし日(け)長き我し見つつ偲(しの)はむ
私訳 沫雪はすべての里に降り積もれ、貴女を恋い慕ってきた、所在無い私は降り積もる雪をみて昔に白い栲の衣を着た貴女を偲びましょう。

与妻謌一首
標訓 妻に与へたる歌一首
歌番1782 雪己曽波 春日消良米 心佐閇 消失多列夜 言母不往来
訓読 雪こそば春日(はるひ)消(け)ゆらめ心さへ消(き)え失せたれや言(こと)も通はぬ
私訳 積もった雪は春の陽光に当たって解けて消えるように、貴女は私への想いも消え失せたのでしょうか。私を愛していると云う誓いの歌もこの春になっても遣って来ません。

妻和謌一首
標訓 妻の和(こた)へたる歌一首
歌番1783 松反 四臂而有八羽 三栗 中上不来 麻呂等言八子
訓読 松(まつ)返(かへ)りしひてあれやは三栗(みつくり)し中(なか)上(のぼ)り来(こ)ぬ麻呂といふ奴(やつこ)
私訳 松の緑葉は生え変わりますが、貴方は体が不自由になったのでしょうか。任期の途中の三年目の中上がりに都に上京して来ない麻呂という奴は。
貴方が便りを待っていた返事です。貴方が返事を強いたのですが、任期の途中の三年目の中の上京で、貴方はまだ私のところに来ません。麻呂が言う八歳の子より。

「でね、さっき、伊藤博って人の『宮廷でロマンスな相聞歌や連作の歌物語的なものがあった』って説を紹介したよね。それも、その中心メンバーに人麻呂がいたのじゃないかって」
「するとね、宮廷の人たちは人麻呂と軽の里の妻とのロマンスを知っていて、その宮廷サロンでロマンス的な歌を詠う中心的なメンバーに人麻呂がいたら、なにか、二人に関係するか、石見の国に関係するようなロマンスの歌を求めるのが自然じゃない」
「うん、おれだって、それを聞く立場なら、それ聞きたいよ。特に、昔って、女の人は旅行ってしないだろうから、なおさら、遠く離れた石見の国に行って来た人麻呂の話を聞きたいよ」
「でしょ。で、この人麻呂の作業員って人のを見て、そういう背景なら、これは有りでしょ」
「当然、和也君が知っているように、これらの歌は万葉集の中では依羅娘子の歌であったり、人麻呂の自傷歌だったりしているから、本来の解釈とは全く違うけどね」

作業員より、柿本人麻呂年賦 人麻呂の石見恋物語 帰京編
歌番140 勿念跡 君者雖言 相時 何時跡知而加 吾不戀有牟
試訓 な思ひと君は言へども 逢はむ時何時と知りてかわが恋ひずあらむ
試訳 そんなに思い込むなと貴方は云いますが、貴方と逢うのは「今度は何時」と数えながら私は貴方に恋をしているのではありません。いつも、貴方に逢いたいのです。もう、貴方は旅立つのですか。

歌番225 直相者 相不勝 石川尓 雲立渡礼 見乍将偲
試訓 直(ただ)逢ひは逢はずに勝る 石川に雲立ち渡れ見つつ偲はむ
試訳 直接、貴方に逢うことは、会わずに手紙を貰うことより勝ります。逢えない私は、雲が想いを届けると云う、あの石川精舎の大伽藍の上に立ち昇る雲を見ながら貴方を恋しく偲びましょう。
説明 石川は、現在の橿原市大軽町の隣の石川町付近とし、その地に比定されている蘇我馬子の石川精舎から雲と霊魂を想像しています。また、一般に「相不勝」の「不」は「ましじ」と特別の訓みをし「あひかつましじ」と訓みますが、ここでは「相不勝」を「あはずにまさる」と訓んでいます。

歌番227 天離 夷之荒野尓 君乎置而 念乍有者 生刀毛無
試訓 天離る夷し荒野に君を置きて 思ひつつあれば生けりともなし
試訳 大和から遠く離れた荒びた田舎に貴方が行ってしまっていると思うと、私は恋しくて、そして、貴方の身が心配で生きている気持ちがしません。

歌番224 旦今日ゞゞゞ 吾待君者 石水之貝尓 交而 有登不言八方
試訓 今日今日とわれ待つ君は 石見し貝(かひ)に交りてありといはずやも
試訳 貴方に再びお目に懸かれるのは今朝か今朝かと恋しく思っているのに、その貴方は、なんと、人の噂では、まだ石見の国にいて、女を抱いているというではありませんか。
説明 「貝(かひ)」も「谷(かひ)」も、意味は同じで女性の陰部を示します。

歌番223 鴨山之 磐根之巻 有吾乎鴨 不知等妹之 待乍将有
試訓 鴨山し巌根し枕(ま)けるわれをかも知らにと妹し待ちつつあるらむ
試訳 丹比道の鴨習太(かもならいた)の神の杜(やしろ)のほとりで旅寝をする私を、そうとも知らないで私の愛しい貴女は私を待っているらしい。
説明 歌は人麻呂の石見への旅の歌物語の一部と解釈し、そこから鴨山は丹比道の大阪府河南町神山の鴨習太神社の杜付近とし、磐根は巌座のほとりと解釈しています。

歌番226 荒浪尓 縁来玉乎 枕尓置 吾此間有跡 誰将告
試読 荒波に寄りくる玉を枕に置き われこの間(ま)にありと誰か告げなむ
試訳 石見の荒波の中から手にいれた真珠を枕元に置き、私は貴女のすぐそばまで還ってきましたと、誰が貴女に告げるのでしょうか。
説明 一般に原文の「吾此間有跡」の「間」の字は「に」と読み「われここにありと」と訓みます。ここでは「間」を「ま」と訓み、原文を「われこのまにありと」と訓んでいます。

「でもね、これだと、人麻呂の石見への赴任が決まってからの、別れ、赴任地での無事を祈る姿、帰京の連絡、帰京、帰京してのお布団の中での二人の愛って、感じで物語は進行するから、宮廷のサロンでそこにお勤めしている女の人たちにロマンスを見せるにはピッタしだと思うの」
「浅田さん、これ、例の人麻呂の最後の場面で、人麻呂は伝承とか歌番226の歌の本来の解釈から、彼、水死したって云うやつがあるよね。でも、『水死した人に辞世の歌がなぜ存在するのか』って云う論争からの、派生した解釈じゃないんだっけ」
「うん、そう。普通には歌番226の歌は、こんな風に解釈するし、山口県長門市油谷に残る伝承からも人麻呂の死亡は海難死か、水死ってことが想像されているの」

辞世の歌とされるもの
柿本朝臣人麿在石見國時臨死時、自傷作歌一首
標訓 柿本朝臣人麿の石見国に在りし時の臨死(みまか)らむとせし時に、自ら傷(いた)みて作れる歌一首
歌番223 鴨山之 磐根之巻有 吾乎鴨 不知等妹之 待乍将有
訓読 鴨山し岩根し枕(ま)けるわれをかも知らにと妹し待ちつつあらむ
私訳 鴨山の岩を枕として死のうとしている私のことを知らないで妻はまっているであろう。

水死か、海難死を疑わせるもの
丹比真人(名闕)擬柿本朝臣人麿之意報歌一首
標訓 丹比真人(名(な)闕(か)けたり)の柿本朝臣人麿の意に擬(なぞら)へて報(こた)へたる歌一首
歌番226 荒浪尓 縁来玉乎 枕尓置 吾此間有跡 誰将告
訓読 荒浪により来る玉を枕に置き吾れここにありと誰れか告(つ)げけむ
私訳 荒浪の中をよって来る玉を枕もとに置いて自分がここにあるということを誰が知らせたのであろう。

「でもね、水死とか、海難死って、普通は突然死だよね。常識的に突然死の人には辞世の歌なんてないはずじゃない」
「そりゃ、そうだよ。戦争に行くとか、暗殺されるのを覚悟している人とか、重い病気の人じゃなきゃ、普通、辞世の歌ってないし、あったら、それ、代作だよ」
「それで、梅原猛って人が『水底の歌』って本で、刑罰による水没刑で殺された説を唱えたの。でも、当時は、建前上、法治国家になっていたから、当時の日本の刑法でも、そんな刑罰はないから、私刑による殺害ってことになるんだけど」
「そこで、作業員って人って、とっても、面白いの。人麻呂の死亡を水死とか海難死とかの突然死を前提にしようって仮定したの。するとね、人麻呂の辞世の歌が存在するなら、さっき、和也君が云った『代作だよ』ってことになるよね。でも、柿本人麻呂って人は、奈良時代でも和歌の先生みたいな人だから、作業員って人は、『じゃ、誰が代作を作るの?』ってことになるって想像したの」
「うん、その時代の和歌の大先生の辞世の歌を代作するって難しいって思うよ。だって、誰もが納得しなきゃ、非難、ゴウゴウになっちゃうだろうから」
「それで、作業員って人、確かに人麻呂の作品なんだけど、編集で、あたかも辞世の歌のようにしたのではないかって想像したの。ここがユニークなの」
「その発想って面白いね。でも、何か、その発想の元を検証が出来るんだろうか?」
「それがね、有間皇子とか、大津皇子とかの歌物語や挽歌がヒントになるかもしれないの」
「浅田さん、それと人麻呂の歌物語と、どのように繋がるの? なんか、すっごく、興味が出て来たんだけど」
「すっごく、長いよ。和也君が、晩ご飯が無しでいいなら続けるけど。どうする?」
「うーんん、それ、だめ。晩ご飯が最優先。おれ、晩ご飯が食べたいもん。その後・・・、うん、その後は、もっと、たぶん、理沙とで忙しいから、・・・、明日も、ダメだし。じゃ、半年先の次回まで、おれ、楽しみにしてる」
「そうね。和也君の『報凶問歌』も次回にお預けになっているから、これも、続きは次回ってことにしよ」
「で、理沙ー、今日の晩ご飯って、なに?」
「今日は、鶏肉だんごのお鍋。最後の締めはそのスープで作るおうどん」
「なんだか、それ、美味しそうだね」
「和也、三十分、待って。そしたら、今日の宴会をスタートしよ」

本当に理沙の晩ご飯って、手早いな。鶏肉のミンチにパックの刻みネギをもうちょっと細かく刻んで入れて、それにショウガのみじん切りと片栗粉を加えてマゼマゼしたら出来上がり。豆腐、きのこ、レタス、ダイコンの千切りとこの鶏肉だんご、これらを薄味醤油味のスープに昆布を敷いたお鍋に入れて火が通ったら、もう、口の中。お好みでヤマキのポン酢にワサビを溶いたのを薦められたけど、それ、美味しかった。鶏肉だんごは一人一人がスープ用のスプーン二丁を使って丸く作ってお鍋に入れるんだけど、おれ、食べる方を専門にしていたら「理沙のを取るな」って睨まれた。美味しいんだけど、ちょっと、手間。どっちかと云うと、おれ的には食べる方に専念したいな。それでも、最後、冷凍のうどんを茹でたのに、塩味にした鍋のスープ。すっげーうまかった。
今日のお鍋、日本酒に合うな。しっかり冷やしたカップのお酒だけど、渋い急須に入れて出してくれると雰囲気的に高いお酒って感じになる。それ、理沙と二人して、百均で買って来たショットグラスで飲むって、これ、いいんだよな。

晩ご飯を食べている時、和也、すごいことを云いだした。一瞬、こいつ、馬鹿かって、思った。まず、女の子じゃ、出ない発想。
「ねぇ、理沙、明日、アパートの下見に行くじゃん。で、気に云ったら、理沙、おれに『おれの名前で契約とかをしろ』って云ってたけど、おれ、あんまり時間がないから、理沙にして欲しんだ。で、おれのインターネットバンキングの番号とか、教えるから、敷金とか、月々の支払いとかして欲しんだけど」
「和也、あなた、酔ってない? それって、あなたのお金、私に全部、見せるってことになるのよ。判ってるの?」
「うん、判ってる。だいたい、おれ、引き籠りで、これって云う趣味もないし、外で遊ぶとか、タバコもしなから、理沙から、おれ、お昼ご飯と本を買うぐらいのお小遣いをもらえれば、十分なんだ。それに、一緒に住むようになったら、たぶん、スマホ以外は光ケーブルで二人とも一緒になるだろ。そしたら、おれ、自分のスマホを止めて、理沙の二台目にして貰えれば、支払いとか、色々なこと、考えないでいいじゃん」
「理沙、一緒に住んだ時、アパートの共益費とか、食費とか半分っこっていっていたけど、それ、全部、任すから」
「本当に、和也、あなた、それでいいの? まだ、結婚なんてしてないのよ。お金って、とっても大切なのよ」
「でも、おれのおやじ、お小遣いをお袋から貰うだけで、あとは、全部、お袋が管理してるよ。理沙、カードか、なんかでの、おれの無駄使いが心配なの?」
今どきの男の子、こと、お金に関して、どんな発想しているんだろ。和也、インターネットバンキングを開いて、月々の支払い記録を見せてくれた。
「おれ、お金っていったら、ほとんどが、晩ご飯に使うんだけど、おれの守備範囲って王将か吉牛だし、あと、コンビニ弁当だから、こんなもんなんだ。それと、自分的にはすっごく贅沢して月に一万円ほど、アマゾンで本を買うぐらい」
そうか、これに和也の季節毎の服を買えば、これにちょっとで済んじゃうのか。そうだよね、和也と私、金麦とか、カップのお酒とか、コンビニの白いワインで楽しめるんだもんね。それに私も和也も人とつるんで外で遊ぶのが好きじゃないから、外でのお金って、あんまり使わないしね。ひょっとして、和也、QBで髪を切っているのかな?
「ねぇ、本当に、それでいいの、和也。私、悪い女の子だったらどうするの?」
「おれの理沙だから、大丈夫。それに晩ご飯が食べられて、理沙とベッドで仲好く出来るのなら、おれ、毎日、会社から真っ直ぐ帰って来るから、大丈夫だって」
判らん。今どきの男の子の発想。私じゃ、考えられない。でも、和也、残業とか海外出張とかで、若いんだけど、結構、貰っているんだ。これで、また、六カ月、海外赴任だよね。そうか、判った。任せなさい。
「で、和也、あなたの考えってるお小遣いって、どれぐらいなの?」
「これぐらい。もし、お昼のお弁当を作ってくれるなら、これ」
「和也、云っとく。自分で作らないのなら、お昼のお弁当は、ない!」
「じゃ、こっち」
「云っとくけど、これ、和也が云いだしたんだからね。私じゃ、無いからね。いいのね」
「うん、だけど、生活でのこまごましたこと、おれ、判らないから、それは理沙だよ。それに、だって、おれ、理沙からのお小遣い制だから」
なるほど、こいつはこいつで賢いのかもしれない。完全に白旗を上げて、私に乗っかるつもりみたい。そうか、そっちの方が男の子としたら日常のこまごましたことをしなくていいのなら、反って、楽なのかもしれないな。和也、前に「悪いのは、全部、おれだから、理沙は『和也が、全部、悪い』って云ってればいい」って云っていたよね。でも、これじゃ、私が、全部、仕切るってみたいにならない? なんか、もやもやするな。でもね、私、女の子だから、お金をしっかり握るってのは好きよ。ただね、本当に和也の発想って不思議だな。女の子だったら、絶対に自分のお給料を他の人には預けないから。

お昼は外で食べても良かったんだけど、和也が前に作った玉子どんぶりを食べたいってことで、お昼はそれになった。
一時過ぎにプラプラと手を握って、駅前の不動産屋さんに行った。問い合わせに来たのが若い二人で、その希望している物件が物件だから、不動屋さん、なにも聞かずに、昨日、問い合わせた物件について同棲を前提としたような説明をしてくれた。あと、似たような物件が三つあり、その中から、興味が湧いた二つに絞り込んで、実際のお部屋を見に行った。和也はただ自分が貰える部屋の広さだけに興味があり、他は、全く、反応なし。本当にもう、男の子って、どうして、こうなんだ。しようがないから、私、水回り、部屋の向き、冬場や梅雨時の結露、ゴミ出し、防犯とご近所さんの様子なんか聞いて、あと、お勧めの駅への順路を不動屋さんの車だったけど、確認した。お部屋は、築年数の割に、ずいぶんときれいだった。
だいたい、最初のがお勧めで、二番目のは「今、一歩」と云うパターンだった。ただ、近隣の地区に比べてこの周辺はなぜか家賃が安い。どうしてって聞いたら、最大の欠点はこの駅周辺に大きなスーパーが無くて、毎日の最低限の食料品以外は電車を乗り継ぐか、車が必要ってことだった。それで、家賃が安いってこと。なるほど、駅前からいきなりアパート群で商店街もくたびれたのしかなかったもんね。だからか。和也も私も田舎の子だから免許は持っているけど車自体には興味なし。どうしてもってことになったら、中古の軽。不動屋さんの説明だと、車のローンに駐車場の代金を家賃に載せたら、今、私が住んでいるあたりの家賃相場と同じぐらい。世の中、良く出来ているな。でもね、私の勤務先の駅はスーパーが併設だから、私的には問題なし。よし、決めた、最初のやつ。それ、鉄筋の三階建てだから、云いようによってはマンションだもんね。
手付と仮契約の時、私じゃなくて和也の名刺を渡したら、不動産屋さん、喜んでいた。若いと思っていたみたいだったけど、和也の会社に提出する賃貸契約書の写しの件なんかを話したら、まず、家賃の取っぱぐれのない相手だって確認できたみたい。お部屋の件、来週中にもう一回、クリーニングを入れるから来週末以降なら引き渡せるってことだった。それと、半年以内に解約しない条件で電話での説明通りに十二月分はタダってことにしてくれた。ただ、実際は最初に三つ入れなきゃいけない。私と和也の準備があるから、新しい家具とかは順次入れるけど、本格的な引越しは年末のクリスマス前後ってことになった。新年は新しい広いお部屋になる。

もう、四時を回っていたけど、和也を引っ張って駅傍のディスカウントの家具屋に連れて行った。和也の寝るベッドだけは、海外赴任前に決めて貰わないと、今度、和也が海外から一時帰国で帰って来た時、十日間も一緒に私のベッドを使うことになる。二三日はいいけど、この間の経験で私的には連続十日間はちょっときつい。和也も、それはそうだねってことになった。
今日、決めたアパート、それぞれ六畳のスペースがある。さあ、和也、不動屋さんから貰って来た間取りをお店の人に見せて、自分で決めるんだよ。その和也、お店の人と相談して、私に予算を相談したけど、あっと云う間に引き出し付きのセミダブルと仕事がしやすそうな机を決めた。こっちの方は、選び方も選んだものも、いかにも技術屋さんって感じ。ベッドは、ちょっと贅沢だけど、私と和也、気分でどっちかの部屋にお泊りに行くようなのが好き。だから、広いベッドをそれぞれ持つことになった。ただ、面倒な配達とか配置とかはお店の人に財務大臣に相談してと云って、私に投げて来た。
本当、生活のこまごましたことって、それ、私に振って来るんだから。でもね、和也との相談でダブりが無くなって予定より余裕が出来た私の二カ月分の家賃の範囲で、リビングをきれいにしようってことになった。これは、クリスマスまでに私が担当する。予算とスペースとをにらめっこしながらインテリアを、私、考えるんだ。最悪の最終締め切りは、二月末の和也が休暇で帰って来る前まで。

ディスカウントの家具屋の帰り、晩ご飯の買い出しに行った。今日の晩ご飯、和也が食べたいって云っていた中から簡単に出来るやつを選んだ。それで、今日は豚キムチの野菜炒め、牛肉の麻刺煮、お多福ソースの焼きそば、冷凍の炒飯をフライパンで炒めたやつ。ちょっと、変なんだけど、和也の希望だから。今日の献立はフライパン料理ばっかりだから、ちょっと、時間がかかって、晩ご飯のスタートは七時を回っていた。最初、今日が赴任前の最後の私の晩ご飯になる予定だったけど、和也のアパートの返却騒ぎで出発前の土日はここに泊ることになった。それで、あと、二回、私、和也と一緒にご飯を食べられる。ベッドもそうだけど、これはこれで、二人、一緒って云う実感がある。

今、和也、晩ご飯をうれしそうに食べているけど、あなたの狙い、今日一日で良く判った。お金の事を含めて、全部、投げ出して白旗を上げれば、和也、あなた、楽だよね。家具の予算や運搬とか、全部、私に丸投げなんだもんね。和也、あなたに生活の知恵が無いって思っていたけど、本当は、良く判っているのかもしれない。きっと、あなたのお姉さん、てきぱきするような人だったんでしょう。それで、あなた、小さいときからそれに甘えていたんじゃないの? でも、まぁ、任せなさい。私が、どうにかするから。
ところで、和也、こんな東歌、知っている? 

歌番3388 筑波祢乃 祢呂尓可須美為 須宜可提尓 伊伎豆久伎美乎 為祢弖夜良佐祢
訓読 筑波嶺(つくはね)の嶺(ね)ろに霞居過ぎかてに息(いき)づく君を率(ゐ)寝(ね)て遣(や)らさね
私訳 筑波嶺の嶺に霞が居座って動かないように、あそこで居座って動かず、貴女に恋してため息をついている、あの御方を連れて来て抱かれてあげなさいよ。

普通、万葉集の恋歌の原則は、男の子から女の子に積極的にお願いして愛の行為がはじまるのが、お約束になっている。でもね、東歌には本当の日常の生活を詠う面があるの。それでね、この東歌は、うじうじして遠くから好きな女の子を眺めるだけで、自分から声を掛けられない男の子の姿を描いているの。野良で何か、お仕事をしている若い女の子のことを大好きな男の子が、いつも、その野良に来てその女の子を見つめていたみたい。それを年上のお姉さんたちが気付いて、若い女の子に、あの男の子に抱かれてあげなさいよってけしかけているの。
和也、丸投げはいいけど、このような男の子になっちゃ、私、イヤだからね。同じ東歌の常陸国の歌でも、歌番3395の歌のような、隙あらば女の子に云い寄って抱くような男の子になってね。

歌番3395 乎豆久波乃 祢呂尓都久多思 安比太欲波 佐波太奈利努乎 萬多祢天武可聞
訓読 小(を)筑波(つくは)の嶺(ね)ろに月(つく)立し間夜(あひだよ)はさはだなりぬをまた寝(ね)てむかも
私訳 小筑波の嶺に月が立つ、その言葉ではないが、月が経つ間に夜は多くを数えるようになったが、また、お前と共寝をしたいなあ。
注意 歌の「月立つ」には、「時間の感覚での月日」と「女性の月経の期間」の意味合いがありますが、ここでの歌の解釈では特別に「月日」の方だけを紹介しました。

それから東歌にはこんな歌もあるって、和也に歌番3407の歌を説明したら、ずいぶん、頑張ってくれた。

歌番3407 可美都氣努 麻具波思麻度尓 安佐日左指 麻伎良波之母奈 安利都追見礼婆
試訓 髪(かみ)付(つ)けぬ目交(まぐ)はし間門(まと)に朝日さしまきらはしもなありつつ見れば
試訳 私の黒髪を貴方に添える、その貴方に抱かれた部屋の入口に朝日が射し、お顔がきらきらとまぶしい。こうして貴方に抱かれていると。
注意 原文の「可美都氣努麻具波思麻度尓」を「髪付けぬ目交はし間門に」と歌の裏の意図を想定して試みに訓んでみました。一般には「上野(かみつけ)ぬ真妙(まくは)し円(まと)に」と訓み「上野国にある美しい円の地」と云う地名と解釈します。

ただ、和也、今日は意地悪だった。やさしく、丁寧に、色々なところを可愛がって私を変にしたのに、私がお願いするまで和也のをくれなかった。それも自分でするんだよって、私の手を取って導いた。私、恥ずかしかったけど和也の上で自分から和也のを求めていた。でも、その和也がしてくれる愛、最初のは意地悪なやつだったけど、二度目のは激しく、深かった。その次は、私の好きな深く、ゆったりしたやつ。
歌番3407の歌ではないんだけど、朝日の中、和也は出勤していった。次は、もう、赴任の時だけか、時間って、早いな。

コメント

謌詞両首

2011年11月29日 | 遊び
謌詞両首

十一月九日の土曜日、
前回から、和也、私が出勤する朝までいるようになった。だから、今回は土曜日の夕方、四時半に駅で私の帰宅に待ち合わせて、いっしょに帰る。そして、月曜日の朝まで私のところにいる。和也、今回の土曜日はお休みなんだけど、出勤ってカッコウで私と待ち合わせをする。今回も外でのデートはしない予定。
その四時半、早出の勤務が終わった私、走って駅に向かった。駅にその和也が待っていた。もう、十一月だから、ちょっと、寒そうにしていた。「待った?」、「うんん、そんなに待ってない」なんて普通の会話をして、手を握って電車で帰って来た。その駅前のスーパーで、今日と明日のお買い物をした。今日は野菜炒め、明日はシチュー。和也には悪いんだけど後片付けの関係で焼くような魚料理は基本的にしない。あって、ムニエル。今日は、一緒にお買い物して帰ると六時を回っているから、超簡単料理が基本。だから、野菜炒めなの。
部屋に帰ったら、エアコンを点けて部屋を暖かくする。今も二人の時は基本的に裸族に近いから暖かいってのが重要になる。和也は男の子だから、十一月でもコートなんか着ないけど、女の子は気温とかじゃなく、日付で着る物を選ぶから、もう、コートとかを着なきゃいけない。それで、帰ってから着替えとかをバタバタして、晩ご飯を作った。呑気に遊んでいるお腹を空かせた男の子が傍にいると、ちょっと、腹が立つし、気が急いてくる。それでも、簡単料理だから七時には用意が出来た。
和也、ほんの少し前は人影がないとすぐにキスをして来たのに、今は茶碗とお箸を先に持っている。本当にどうしようもないやつだ。私、どこで、教育を間違えたんだろう。だから、今日も調教じゃないんだけど、晩ご飯をお預けして、ベッドの角のところで私にキスと軽い愛撫をさせた。それで、「よし」って云ったら、和也、うれしそうに「じゃ、晩ご飯にしよう」って云って、ご飯に駆け寄って行った。本当に、もう、どうしようもないやつだ。
今日の晩ご飯、豚キムチの野菜炒め、半熟玉子焼きのチリソース、それにお多福ソースのコロッケ。半熟玉子焼きのチリソースは秘密兵器のマギーのチリソースを使うのじゃ。そうすれば、サラダ油たっぷりに半熟に玉子を焼いて料理は終了。あと、このマギーのチリソースは温野菜のサラダのソースにも使える。
で、今日も宴会が始まった。和也、私と逢っていない間、ご飯を食べていないような雰囲気で食べている。その食べ方は嬉しいけど、これでも私、未婚のかわいい女の子なのよ。これから一緒に住むことになるんだけど、もし、ご飯付きの下宿に住むような意識だったら許さないからね。ちゃんと、私を「いい子、いい子」してくれるのが前提だからね。少し、この頃の和也の雰囲気に腹が立つけど、今日のアルコールは金麦に、やっぱり、お買い得の白いワイン。ご飯食べて、お酒飲んで、和也とお話をする。キスとか、エッチもいいけど、やっぱり、これが基本なんだな。和也とこうしていると、私、楽しく、嬉しい。いつものように白いワインを空にして一次会は終わり。
私の教育の成果通り、ゆったり、私が先にお風呂に入る。お風呂上りにきれいになっている台所で二次会の酒の肴を作って、さぁ、開始。今日は、ダイコンのスライスに梅干しの叩き添えともろキュウ。どうだ、これで日本酒を飲めって感じ。カップのお酒でも百均で買って来た渋い感じの急須に入れて出すと、高いお酒みたいでしょ。で、ごろにゃんって感じで和也によっかかる。愛して欲しい人から日本酒を含んだのでキスされるとアルコールと日本酒の香りが移って来て、これ、気持ちいいな。たまにはこういうお酒の飲み方もいいかも。そのごろにゃんってなった私に和也がやさしくしてくれる。

今朝は和也のお願いでゆっくり起きた。というか、朝、めいめいが軽く食べて、また、ベッドでうだうだしていた。朝食は食べたい人が勝手に食べてという感じ。和也はトーストにインスタントのコーヒー、私はビスケットをちょっととコーヒー。それから、また、ベッドに潜り込んだ。うつらうつらで和也の肌の温もりを感じるのって、これはこれでなごむなぁ。
結局、そのうだうだは、十二時ぐらいまででお仕舞いとなった。和也のお腹空いたコールで「それじゃ、起きるか」ってことになって、私、和也にお昼ご飯を用意した。
今日はトンカツを玉子とじしたカツ煮どん。それに、インスタントだけど関西風に白みそのお味噌汁に刻んだ黄色い沢庵。どうだ、お店のお昼ご飯みたいだろう。でもね、その内、めんどくさくなったら、袋のインスタントラーメンになっちゃうと思う。今だけだからね。
その和也、ずるいことに勝手に冷蔵庫から金麦を引っ張り出して、どんぶりの上に乗ったカツ煮で飲んでいる。負けたくないから私も金麦を飲んだけど、休みの日のお昼のアルコールって、いいな。

お昼の後、二時ぐらいまで、ちょっと濃い目のドリップしたコーヒーでクッキーかじりながら、どうでもいいような話をしていた。で、そろそろかなーって雰囲気になって、万葉集の勉強会をすることになった。そうじゃないと、どうでもいいような話の間にしているお互いの指遊びでお昼寝モードに突入して、別の勉強会を開催することになっちゃうから。一種の暗黙の了解なんだけど、二人が逢っているのはエッチだけじゃないよねって気持ちがある。

「今日はね、これをやるをつもりなんだ」
「大伴旅人の『謌詞両首』なの?」
「うん、これ」
おれ、PCの画面に引っ張り出した作業員って人の大伴旅人の謌詞両首の歌四首とそれに付けられている前置書簡文を理沙に見せた。

(前置書簡文)
伏辱来書、具承芳旨。忽成隔漢之戀、復、傷抱梁之意。唯羨、去留無恙、遂待披雲耳。
序訓 伏して来書を辱(かたじけな)くし、具(つぶさ)に芳旨を承りぬ。忽ちに漢(あまのかは)の隔(へだ)つる戀を成し、復(また)、梁(はし)を抱く意(こころ)を傷ましむ。唯だ羨(ねが)はくは、去留(きょりゅう)に恙(つつみ)無く、遂に雲を披(ひら)くを待たまくのみ。

私訳 伏して御便りをかたじけなく存じます。つぶさに御趣旨を承りました。忽ち、天の川を隔てるような恋慕を抱き、また、待ち人を待ちわびて梁を抱いて死んだ尾生の故事のような待ちわびる気持ちを察します。ただ希望することは、離れ離れでありますが互いに差し障りがなく、その内に、お目にかかる日を待ち望むだけです。

謌詞両首 大宰帥大伴卿
標訓 歌詞(かし)両首(にしゅ) 大宰帥大伴卿
歌番806 多都能馬母 伊麻勿愛弖之可 阿遠尓与志 奈良乃美夜古尓 由吉帝己牟丹米
訓読 龍(たつ)の馬(ま)も今も得てしか青丹(あをに)よし奈良の都に行きて来むため
私訳 天空を駆ける龍の馬も今はほしいものです。青葉美しい奈良の都に戻って行って帰るために。

歌番807 宇豆都仁波 安布余志勿奈子 奴婆多麻能 用流能伊昧仁越 都伎提美延許曽
訓読 現(うつつ)には逢ふよしも無しぬばたまの夜の夢にを継ぎて見えこそ
私訳 現実には逢う手段がありません。闇夜の夜の夢にでも絶えず希望を見せてほしいものです。

答謌二首
標訓 答へたる歌二首
歌番808 多都乃麻乎 阿礼波毛等米牟 阿遠尓与志 奈良乃美夜古邇 許牟比等乃多仁
訓読 龍(たつ)の馬(ま)を吾(あ)れは求めむ青丹(あをに)よし奈良の都に来む人の為(たに)
私訳 天空を駆ける龍の馬を私は貴方のために探しましょう。青葉の美しい奈良の都に戻って来る人のために。

歌番809 多陀尓阿波須 阿良久毛於保久 志岐多閇乃 麻久良佐良受提 伊米尓之美延牟
訓読 直(ただ)に逢はず在(あ)らくも多く敷栲の枕(まくら)離(さ)らずて夢にし見えむ
私訳 直接に逢うことが出来ずにいる日数は多いのですが、貴方が床に就く敷栲の枕元には絶えることなく逢う日が夢に見えるでしょう。

「ねぇ、和也、どうして、これを選んだの? なにか、あの『報凶問歌』と関係があるの?」
「うん、これ、おれの推定なんだけど、大伴旅人の時代、奈良の都と九州の大宰府との間で私的な手紙を遣り取りした時、往復に結構、時間が掛かったと思うんだ。一つには、誰かが手紙を渡す相手が住む場所に公務かなんかで旅行するときに委託するぐらいしか、手紙を送る方法がなかっただろうから、依頼をする機会があって月に一度ぐらいと思うんだ。それに、奈良と大宰府との間のお役人の公式の旅行日程では平安時代の延喜式では下りが十五日、上りが二十八日となっているから、誰かに手紙を託したらこの日程にならざるを得ないと思うんだ。そうすると、手紙の往復に三カ月ぐらいはかかることになっちゃうだろ」
「すると、あの『報凶問歌』も、奈良の都からの手紙に対しての返書だから、大伴旅人への見舞いとか、なんらかの援助を申し出た手紙は、一か月から二カ月前に奈良の都から出されたことになると思うんだ」
「で、旅人と同じ福岡県に赴任していた山上憶良の『日本挽歌』が七月廿一日の日付だろ。すると、旅人と憶良との住んでいる場所の距離関係を考えると旅人の『報凶問歌』は六月下旬から七月上旬に書かれたんじゃないかってなるんだ。これがキーポイントだと、おれ、思ったんだ」
「うん、そうね。そう云う風に説明されると、そうだよね。それに旅人と憶良とは同じ九州で勤務するお役人で、旅人は憶良の上司に当たる立場だから、頻繁にお役所の書類を遣り取りする機会はあったでしょうね。それなら、旅人から『報凶問歌』を見せて貰えば部下の立場の憶良はすぐにお返事をしたと思うし」
「それでね、浅田さん。万葉集の中で『報凶問歌』が詠われた頃の奈良の都と大宰府での往復した書簡を見てみると、この『謌詞両首』って歌が引っ掛かるんだ」
「この『謌詞両首』って、作業員って人の理解では六月下旬から七月上旬ごろに奈良の都から七夕を題材にした歌を貰ったような内容なんだ。で、おれ、他の人のも調べたら、ちょっと、面白いんだ。これ、見てみて」
おれ、理沙に調べた内容をPCの画面に引っ張り出した。

前置書簡文についての解説を調べたもの;
新日本古典文学大系 万葉集 岩波書店
欄外脚注抜粋
全文一貫して、大伴旅人の帰郷を待望する奈良某人の思慕の情を述べる。某人は漢文の書簡を書くことから男性と推測される。漢詩文では君子や友人を恋人に譬え、男同士で相聞のような贈答をすることがある。

日本古典文学全集 万葉集 小学館
欄外脚注抜粋
目録に「大宰師大伴卿相聞歌二首」とあり、また「隔漢」、「抱梁」などの語や答歌の趣から、丹生女王などの、旅人と親交のあった女性ではないか、とする説もある。しかし、相聞らしい用語は単なる文学表現とみて、男性と考えるほうがよかろう。

万葉の歌人と作品 第四巻 和泉書院
「龍の歌の贈答歌」より、論旨を述べる
1. 書簡文の作者は大伴旅人であろう。奈良某人ではない。(一一五頁)
2. 「龍の歌の贈答歌」は、長屋王事件の顛末がある程度おさまった六、七月の頃、房前からの便り「来書」をきっかけとして、旅人の返信と贈歌に房前からの返歌を加えて成ったものと判断する。(一二五頁)

中西進 万葉集(講談社文庫)の概要
書簡文は奈良某人の手によるもので、奈良某人は女性としている。

伊藤博 万葉集(集英社文庫)の概要
書簡文は大伴旅人の手によるもので、奈良某人は女性としている。

「ね、理沙、面白いだろう。古い万葉集の研究では本の目次に当たる巻五の目録に書かれている『大宰師大伴卿相聞歌二首』って表記の『相聞歌』っていう言葉から、この『謌詞両首』は旅人と奈良に残して来た恋人との恋歌と考えていたみたいなんだ。でも、今の研究では旅人と奈良の都にいる教養ある男の人との歌で行った連絡歌と考えるようになったんだ」
「でね、さっきの推定で『謌詞両首』は『六月下旬から七月上旬に奈良の都から七夕の歌を貰ったような内容』って云ったよね。それと、『万葉の歌人と作品』って本では『房前からの返歌』って断定してるとこから、おれ、万葉集を調べてみたんだ。すると、房前の歌で七夕の歌って条件にどんぴしゃって歌があるんだ。それが、これ」

夕謌一首并短哥
標訓 七夕の歌一首并せて短歌
歌番1764 久堅乃 天漢尓 上瀬尓 珠橋渡之 下湍尓 船浮居 雨零而 風不吹登毛 風吹而 雨不落等物 裳不令濕 不息来益常 玉橋渡須

訓読 久方の 天の川原に 上つ瀬に 玉橋渡し 下つ瀬に 船浮け据ゑ 雨降りて 風吹かずとも 風吹きて 雨降らずとも 裳濡らさず やまず来ませと 玉橋渡す

私訳 遥か彼方の天の川原の上流の瀬に美しい橋を渡し、下流の瀬に船橋を浮かべ据えて、雨が降って風が吹かずとも、風が吹いて雨が降らなくても裳の裾を濡らすでしょうが、その裳を濡らさないように嫌がらずにいらっしゃいと美しい橋を私が渡します。

反謌
歌番1765 天漢 霧立渡 且今日々々々 吾待君之 船出為等霜
訓読 天の川霧立ちわたる今日今日と吾が待つ君し船出すらしも
私訳 天の川に霧が立ち渡っている。霧ではっきりは見えないが、今日か今日かと私が待つ貴方が船出をするらしい。
右件謌、或云、中衛大将藤原北卿宅作也
注訓 右の件(くだり)の歌は、或は云はく「中衛大将藤原北卿の宅(いへ)の作なり」といへり。

「この藤原北卿って藤原房前のことだし、この歌も女の人に贈ったと云うような歌じゃないと思うんだ。それから、歌番1764の歌は、一見、七夕の歌みたいだけど、内容からは七夕の宴会の歌じゃないと思うんだ。これ、きっと、待ち人を七夕の彦星に擬えていると思うんだ」
「どう、面白いと思わない?」
「うん、すっごく、面白い」
「もしね、奈良の都の藤原房前から大宰府の大伴旅人の許に、誰かのお悔やみの手紙と共にこの待ち人を待つような歌番1765の歌が付いていたら、旅人はその返事としてこの『謌詞両首』のような書簡文を書くと思うんだ」
「それから、反歌の歌番1765の歌の『吾が待つ君し船出すらしも』の句に注目すると、房前は旅人に奈良の都に絶対に帰って来て欲しいように解釈が出来ると思うんだ。それで、旅人はそれに対して房前に歌番806の歌で『今の思いは船と云う悠著なものでなく、空を飛ぶ龍の馬で一刻も早く帰りたい』って返事をしたんだと思うんだ」
「それも、房前が九州の大宰府に役人としている旅人が奈良の都に帰って行く橋渡しをするって云うなら、歌番807の歌で「じゃ、その貴方がすると云う手立てを早く見せて欲しいって要求したんだと思うんだ」
「つまり、旅人は役人だから、朝廷からの人事異動の命令がないと奈良の都に帰れないんだ。それで、旅人は房前に『帰って来いと云うなら、貴方が政府の役人を動かして、その帰任の人事異動の命令書を用意しろ』って要求したんだと思うんだ」
「うん、判る。和也君の説明で、なんか、旅人と房前とが和歌でなぞなぞしながら、対決しているような、協力しているような、スリリングな内容。うん、判る」
「それで、房前は返歌の二首で、『ちょっと、政府を動かすのに時間は掛かるが、きっと、旅人を奈良の都に呼び戻す手立てをする』って返事をしたと思うんだ。それが、歌番809の歌の句の『直に逢はず在らくも多く』の意味するところじゃないかな」
「でね、ここからが大変なんだ。『万葉の歌人と作品』って本では『房前からの返歌』って断定して、それも『長屋王事件の顛末がある程度おさまった六、七月の頃』って推定しているんだ。もしね、本当に、もしもだよ、この『謌詞両首』と『報凶問歌』とが関係しているのなら、あの作業員って人が唱えてる『万葉集の神亀五年』を『続日本紀の神亀六年』へと読み替えることが可能ではないかと云う説にぶつかっちゃうんだ」
「追加すると、神亀六年二月に起きた左大臣の長屋王を自殺に追いやったと云う事件の時、この藤原房前は近衛大将で奈良の都の軍事の最高責任者だったはずなのに、事件の時、左大臣長屋王の自宅を囲んで監禁した軍隊の指揮は大阪の難波宮に居なきゃいけないはずの難波宮の造営長官である藤原宇合が執っているんだ。それにこの事件の後も房前は同じ藤原氏主流なのになぜか官位や役職は優遇されていないんだ。どうも、房前自身も監禁・監視されていたんじゃないかなぁ。でね、その監視が緩んだ五月ごろに、この歌番1765の歌を旅人に贈ったかもしれないんだ」
「あと、房前が代理で詠わした歌からすると、どうも、房前だけじゃなく、事件の時、当時の元正太上天皇も監禁されていたみたいなんだ。ひょっとすると、事件の首謀者は聖武天皇だから、事件の時、元正太上天皇は譲位した太上天皇じゃなく、本来の天皇だったかもしれないし」
「理沙も知っているように、後になって中臣宮処東人って人が嘘の密告をして長屋王事件を起こしましたってことになっているけど、奈良の都で軍隊を直接に動かす権限を持っているのは近衛大将の藤原房前なのに、事件で長屋王が自殺しましたって報告したのは軍隊を動かす権限もない難波宮で造営長官をしていた藤原宇合で、その彼が奈良の都の真ん中で近衛大将の藤原房前の了解もないままに軍隊を動かして事件の報告をしているんだ。これ、絶対、おかしいって」
「それでね、その長屋王の事件の時、左大臣の長屋王を殺した藤原宇合たちに対抗できる軍事力を持っていたのは大宰府と九州を押さえていた大宰師の大伴旅人、ただ一人だけなんだ。だから、房前が、もし、長屋王の事件に反対の立場なら連携できる相手は旅人しかいなかったはずなんだ」
「それから、藤原房前は元明太上天皇が亡くなられる時、元明太上天皇から長屋王といっしょに協力して日本の国を頼みますって遺言されている人物なんだ。これ、場合によっては長屋王が反乱で殺されたのなら、房前から見たら、『日本が死んだ』って思ったかもしれないし」
「へえー、そうなんだ、和也君。もし、『神亀五年』を『神亀六年』へと読み替えたら『報凶問歌』は長屋王事件で殺された人々へのものになるし、その時、『日本挽歌』の『紅顏共三従長逝』の句の解釈での『三従』って云う女の人が旅人の娘さんで、その娘さんが事件の時に一緒に殺された長屋王の長男の膳部親王のお嫁さんだたら、これ、ドンピタって感じになるよね」
「でね、和也君。確か、万葉集には膳部親王が旅行先の難波宮から奈良の都に居る女の人に贈った歌があるから、きっと、膳部親王にはお嫁さんが居たと思うの。だったら、『三従』って云う女の人、旅人の娘さんだよね」
「それで、その膳部親王って、確か、お父さんが後皇子命とも称された太政大臣高市皇子の御子の長屋王で、お母さんが前皇子命の草壁皇子の御子の吉備内親王との間の御子で、当時、最高の血筋の人よね」
「うん、膳部親王って、父親の太政大臣高市皇子には天皇即位説があるから、場合によっては、日本史でも最高の血筋かも知れないほどの高貴な人物だよ。中納言で大宰師の役職にある大伴旅人が、もし、正妻じゃない立場でも自分の娘さんをお嫁に出すなら、膳部親王って、ピッタシの相手になると思う」
「でね、こういうことを色々考えると、おれ、わくわくしちゃった」
「浅田さん。もしもだよ、山上憶良の歌での『神亀五年』を『神亀六年』へと読み替えることが出来たら、『夕謌一首』、『謌詞両首』、『報凶問歌』、『日本挽歌』へと次から次へと歌と事件が繋がって行くんだ。おれ、これが判った時、興奮しちゃって」
「そして、ひょっとすると、巻五全体が日本挽歌なのかもしれないって思っちゃって」
・・・、
「で、御免。おれの勉強、ここまでなんだ、あとは次回」
「うーんん、いじわる。なんか、すっごく、面白くなったところだのに。でも、しょうがないか。和也、ここのところ、忙しいから」
「もう一個、御免。あのね、次回って、半年先になっちゃうんだ」
「そうか、次回が私だと、そんな風になっちゃうんだね。でも、なんだか、なぞ解きドラマで盛り上がったところで、次は来週って感じよね。なんか、いじわるだなぁ」
「御免、でも、云い訳だけど、これ、大変なんだ。本だって、結構、読まなきゃいけないし、おれ、ちょっと、忙しいし」
「うーんん、私も御免。和也君が忙しいの判ってる。うん、次回をとっても楽しみにしてる」
「で、浅田さんは、次回、どうするの?」
「私、この歌の試訓と試訳の方をしようかな」

柿本朝臣人麿在石見國時臨死時、自傷作歌一首
標訓 柿本朝臣人麿の石見国に在りし時の臨死(みまか)らむとせし時に、自ら傷(いた)みて作れる歌一首
歌番223 鴨山之 磐根之巻有 吾乎鴨 不知等妹之 待乍将有
訓読 鴨山し岩根し枕(ま)けるわれをかも知らにと妹し待ちつつあらむ
私訳 鴨山の岩を枕として死のうとしている私のことを知らないで妻はまっているであろう。
別訓
試訓 鴨山し巌根し枕(ま)けるわれをかも知らにと妹し待ちつつあるらむ
試訳 丹比道の鴨習太(かもならいた)の神の杜(やしろ)のほとりで旅寝をする私を、そうとも知らないで私の愛しい貴女は私を待っているらしい。

「これ、いいね。作業員って人の試訓と試訳の方の解釈って、すげー変わっているから、面白いかも」
「でしょ、次回、楽しみにしてて」
「次は、二十三日土曜日の旗日だっけ」
「うん、金曜日は早出、土曜日と日曜日が休みで月曜日が遅出なの。どうする、和也」
「おれ、たぶん、金曜日の夜、来て、あと、月曜日の朝まで居たいけど、いいかな?」
「私、いいよ。和也、その間、ずっと、居て」
「うん、じゃ、おれ、その予定で来るから」

今日は、三時のおやつを挟んで、四時半過ぎまで勉強会をしたんだ。結構、和也、頑張って調べてくれていた。本当、面白かった。

「和也、今晩、シチューだけど、私、今から料理を作るから、だいたい、七時ぐらいになると思うの。でね、今、お腹、空いていない? 空いていたら、おやつ、あるけど」
「うん、なにか、ある?」
「クッキーがあるから、先にお茶しようか」
そういうことで、コーヒーをドリップして、だべりながらシチューを作った。これに温野菜とゆで卵の付け合わせにフランスパンのガーリックトースト。このガーリックトーストって、やっぱ、チューブのガーリックって便利。
ただ、今日は料理の中断が出来ないので長く台所に立っているけど、あの「鹿猪なす思へる」はなし。ただ、晩ご飯をがんばった私へのご褒美に夜のベッドでは似たようなのをお願いしようっと。

今日の晩ご飯はシチューだから最初からコンビニの白いワインでスタートした。でもなんだか、今回は若い女の子らしいメニューにしたんだけど、和也の希望としてはパンより白いご飯がベースの方がいいみたい。和也、朝はパンの方がいいみたいだけど晩ご飯はご飯の方がいいのか。そうか、あなた、ちょっと手間のかかる奴なんだ。ただ、「いつもの、魔法のようにあっと云う間に出てくるのが、いい」って云っていたから、そっちでの手間は反って掛からないからいいか。
今回も、和也、朝七時頃に私の部屋から直接、会社に行く。だから、二次会はしないってことになった。それに晩ご飯の残りのシチューなんかの始末があるから、今日は和也が先にお風呂に入って、私が後。和也が後から待っていないって云う分、いつもより、長くお風呂を楽しんだ。
うん、真剣にエッチをしない夜、田舎出身の子同士にはお部屋は二つ欲しいなって思っちゃうな。和也も勝手に独りでまったりしたいみたいだし、私もゆったりお風呂に入った後は独りの時間があってもいいなって思っちゃう。和也は台所のテーブルでインスタントのコーヒー飲みながらPCで遊んで、私はラグのところでテレビのドラマを見ていた。
こういうのがお試し期間なのかな。なるほど、右手にリングをするようになって、私の和也を見る視線や色々なことが違って来ているし、これからの生活をベースに今を眺めている。
コメント