「遠い日々」
(村に居た頃こんな話を聞いたことがあった)
******************
あの頃女の子が居た。
おさげ髪の子。
かすりの着物ともんぺ着て。
雨の中。
傘がなくてずぶ濡れになってた。
思い出の中の姿。
兄が一人あったという。
遠い記憶の中の姿。
山の向こうで生まれ育って。
女の子は。
空という言葉で上を言った。
村の言葉らしかった。
「もう少し空へおけばいいの?」
「ポケットの空のボタンがとれて」
「家の裏の山の空に畑があって・・・」
僕は笑った。
女の子は恥ずかしそうな顔をした。
空は上に有るから空は上だった。
太陽も雲も風も月も星も空に有って上に有るから。
空でも上でもかまわなくなって。
僕は次第に女の子の言葉がおかしくなくなった。
すっかりなれた頃戦争が始まって。
女の子の兄は出征した。
戦地で死んだ。
「兄さんは空に行きました」
空は上で天国か。
それとも極楽か。
兄は優しい人だったそうな。
妹の身の上を想いながら戦ったであろう。
故郷を想いながら戦ったであろう。
女の子はよく空の上を見つめるようになった。
僕は同情した。
いつの間にか何処かに行って。
いなくなった。
空は風が吹いている
鳥たちが渡ってゆく
********************************************
悲しみは癒されることなく繰り返し頭に浮かぶ。
(父の思い出話より)
平成二十七年八月十四日
(村に居た頃こんな話を聞いたことがあった)
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あの頃女の子が居た。
おさげ髪の子。
かすりの着物ともんぺ着て。
雨の中。
傘がなくてずぶ濡れになってた。
思い出の中の姿。
兄が一人あったという。
遠い記憶の中の姿。
山の向こうで生まれ育って。
女の子は。
空という言葉で上を言った。
村の言葉らしかった。
「もう少し空へおけばいいの?」
「ポケットの空のボタンがとれて」
「家の裏の山の空に畑があって・・・」
僕は笑った。
女の子は恥ずかしそうな顔をした。
空は上に有るから空は上だった。
太陽も雲も風も月も星も空に有って上に有るから。
空でも上でもかまわなくなって。
僕は次第に女の子の言葉がおかしくなくなった。
すっかりなれた頃戦争が始まって。
女の子の兄は出征した。
戦地で死んだ。
「兄さんは空に行きました」
空は上で天国か。
それとも極楽か。
兄は優しい人だったそうな。
妹の身の上を想いながら戦ったであろう。
故郷を想いながら戦ったであろう。
女の子はよく空の上を見つめるようになった。
僕は同情した。
いつの間にか何処かに行って。
いなくなった。
空は風が吹いている
鳥たちが渡ってゆく
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悲しみは癒されることなく繰り返し頭に浮かぶ。
(父の思い出話より)
平成二十七年八月十四日
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