終日暖気

雑記

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パリの灯は遠く

2006-10-17 | 映画

『MR. KLEIN』1976年フランス・イタリア

初見。ジョセフ・ロージー監督作品。ケーブルでやっていたのを見ました。

舞台は1942年、ユダヤ人狩りが凄まじいナチス・ドイツ支配下のパリ。
美術商を営むロベール・クライン(アラン・ドロン)は、占領下でもシビアな客商売で金を儲け、優雅な生活を送っていた。ある日、彼の元に見たこともない”ユダヤ人通信”が届く。どうやら同姓同名のユダヤ人と間違われたらしい。生粋のフランス人であり身に覚えもない彼は、間違いを糺すべく新聞社や顧客リストを管理するという警察署に出向くのだが、周囲の対応を前にして次第に不安を覚えるようになる。さらに、見知らぬ女性から”ロベール・クライン”宛てに届いた手紙を読み、もうひとりのクラインに興味を持った彼は、差出人の女性フローランス(ジャンヌ・モロー)が待つという約束の場所へ自ら足を運ぶことにしたのだが・・・。

面白かったー。見応えのある社会派ドラマの佳作でした。
ハネケ監督の『隠された記憶』って、この映画によく似たところがあるなあ・・。
同姓同名の他人に間違えられ、次第に追い詰められて窮地に陥る男。
決して派手ではないけれど、物静かでぞっとする緊張感が持続する物語。
カフカ的なものに寄り添った、いろんな意味で恐ろしい話・・クラインの立場はヨーゼフ・KやKのようでもあるのですけど・・(でも、近代自我云々なんてこと考えてたら、どーかなりそうで・・
のっけに出てくる、ひとりの女性の骨相を手荒かつ真剣に調べ平然と「非ヨーロッパ系で疑わしい人物である」という検査結果を下す医師。彼は、さだめし仕事に徹した「審判」の笞刑吏といったところでしょうか。管理機関である警察と共に、彼等は法律のもとでその時々の正義を行うのですから。
こういう現代社会機構に守られた状態で、浅はかな自由人を気取り、異邦人に対する無関心を貫いて商売に勤しんでいた傲慢な男がたどる道・・・。
オークション会場で出品される、胸に矢を貫かれたまま立ち続けるハゲワシの絵。
彼は選ばれ、取り付かれ、側にある美しい愛や善意の情に気付かぬ残酷さを持ったまま自らの幽霊を追い続ける熱情に急き立てられ、最終的に属していた世界を飛び出して、もうひとりの自分と無言で闇の中に消えていく。
引き金は、「誰かに恨まれているのでは」という、自身の人生の後ろめたさからくる小さな不安。
血統の証明をしてほしくて久々に父親のところを訪れた彼は、きっと普段は自分の親のことなど思い出しもしない酷薄な男であろうと見る者に自然に思わせる描写。「貪欲でも勝手でも偽善的でもいい。人間には後悔がある・・・」という父に、クラインはやはり懺悔できないままに終わってしまう。
己の分身を知ろうと出向いた館のなかの、まるでベラスケスの絵のような構図(え、違う?でもここ、しばしウットリしてしまいました)で現れる人々。
彼等の中では、クラインのほうが異邦人となってしまう。
 「貴方の目には、エゴと優越感と自由人が見える。動物なら猛禽類ね」と言い放つジャンヌ・モロー貫禄だー。

求めていた答えは得られず、かわりにさらなる不安と興味を煽られて、いよいよ”クライン”探しに没頭していくクライン。それは同時に、終りなき贖罪の旅でもあるかのよう・・・。
彼はわりとチャンスを与えられてもいるのですけど、気付けないのですよねー。いや、気付いているために他のことが目に入らないのか。せっかくジャニーヌがいるのにな。
自分の常識以外の世界を感じたり、とうに自分の中で殺してしまった良心や善良さを呼び戻すことがいかに困難か。存在喪失の恐怖に、いかに向き合えばいいのか。
ある民族に対する迫害という歴史を背景にしてはいますけど、誰にでも起こりうる誰もが無意識に取っている行動、繰り返される人間狩り(ロージー監督の場合は赤狩りでハリウッドを追われた)を生む自らの人間性への過信に対する警鐘、なんてところを静かに丁寧に描いて見せているような物語でした。
ラスト、浮かび上がる己の影を見たクラインは安堵と絶望以外に何を感じたのか・・。


≪本日の男前≫
 60年代前半?のドロン氏。

ワハハハハ、とあまり綺麗すぎて笑ってしまう、えーと左のはブリジッド・バルドーでしょうか。まぁ麗しいお二人さん。こんなキスシーンなら街角で見かけても嬉しいなあ。(何が)
ごく若い頃のカトリーヌ・ドヌーブやアラン・ドロンにはどこか共通した匂いがあって、それがひんやり香ってる時がよいなあと思うのですけど、おっさんになってから今回のような映画に出てるドロン氏も骨のある男だったのだなあ。見直したわー。(何様)
同じロージー監督とドロンが組んだ『暗殺者のメロディ』も見てみなくては。ここでのドロン氏は、「リチャード・バートンに貫禄負けしている」らしいのですけど、共演相手の男に食われている、と評されている作品のドロン氏って意外にいいと思うけどなあ。

【食われていると評される映画】
『さらば友よ』でチャールズ・ブロンソン(すごくいい男)に。
『冒険者たち』でリノ・バンチュラ(すごく優しい男)に。
『フリック・ストーリー』でジャン=ルイ・トランティニャン(私が匿ってやりたい男)に。
いずれも名作、傑作で役者もみんな好きですわー

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6 コメント

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はじめまして (トム(Tom5k))
2006-10-18 23:31:12
トム(Tom5k)といいます。突然のコメントをお許し下さい。

わたしは、アラン・ドロンのファンでして、特にこの『パリの灯は遠く』は、彼の作品では1・2を争うほど愛しております(笑

当記事は、生意気な堅苦しいものですが、TBさせていただきました。

>ラスト、浮かび上がる己の影を見たクラインは安堵と絶望以外に何を感じたのか・・。

とのことですが、わたしは彼の絶望的な表情のなかににエクスタシーのような性的な満足感を感じていたのではないかと思っています。そういう意味ではクライン氏も周囲の状況も異常であったのだということが良く表されていたのではないかとの感想を持っています。

トム(Tom5k)さま♪ (武田)
2006-10-19 01:42:17
こんばんは。

お越しいだたきまして、とても嬉しく思います。

と同時に恥ずかしくもあり・・というのも、実はこの記事を書いた際、他の方の感想を読みたいと思い、偶然にもトムさまのブログにお邪魔させていただいておりましたので。

でも、ひじょうに敷居が高くて!!(難しかったので消化できないままでした)



>エクスタシーのような性的な満足感・・

>そういう意味ではクライン氏も周囲の状況も異常であった・・

すごい・・。なるほど、そう考えるとまたさらに奥深さが増しますね!

確かに、ロージー監督ですものね。一筋縄ではいかぬ、練りこまれた多重構造がありそうな気がしてきました。ケーブルでの放映を録画しているので、再度鑑賞してみようと思います。

コメントいただき、ありがとうございました。
こんばんは (トム(Tom5k))
2006-10-20 21:05:08
しつこいコメントお許しください。

そうですか。来ていただいていたのですね。たいへん、うれしいです。

たまたま、検索でこちらにたどりつきましたので、TB・コメントさせていただきました。そのことに当たっては、少し記事の文章表現等を変えました。



>でも、ひじょうに敷居が高くて!!(難しかったので消化できないままでした)



とのことですが、理屈ばかりですみません。トップページのオチャラケ記事が、わたくしがホントのところですので、お気軽にお立ち寄りください。

では、また。

トム(Tom5k)さま♪ (武田)
2006-10-21 01:17:55
こんばんは♪

再度お越しいただき、とても嬉しいです。

はい、あれからまた何度もお邪魔を・・(^^;

>トップページのオチャラケ記事・・

まぁ、オチャラケだなんて。あの”ダーバンで背広新調”というのがすごく好きでした♪

ほんと色々と勉強になるレビューで、TBとコメントをいただけたことに改めて感謝しております。

>オーソン・ウェルズの『審判』

ヒッチコック作品(これは私も『パリの灯~』のほうが凄いと感じました)は見ているのですが、こちらは未見でした。教えてくださってありがとうございます。早速探してみます。

『暗殺者のメロディ』は見つけることができたので、また鑑賞したらお邪魔させていだたきますね♪
Unknown (トム(Tom5k))
2007-04-22 17:11:06
『パリの灯は遠く』の記事更新をしました。
最近、オーソン・ウェルズの『審判』と共通の部分がたくさん発見できて面白かったんです。何故かというと、これも大好きな大江健三郎さんのコラムを発見したものですから(学生のときに読んでいるはずなのですが、全く記憶がありませんでした)。
ではでは。
トム(Tom5k)さま♪ (武田)
2007-04-23 23:14:31
トムさま、こんばんは♪
TBとコメントをいただき、ありがとうございます。
しかも、『パリの灯は遠く』の②が読めるのですね!!
なんという贅沢でしょう♪
(でも、きっと難しくて途方に暮れてしまうような気がします・・)
大江健三郎さん・・・ああ、学生時代に有名な著作を1,2冊読んだ程度の私です(恥ずかしい)
のちほど、そ~っとお邪魔させていただきますね。

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