竹とんぼ

家族のエールに励まされて投句や句会での結果に一喜一憂
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斬られ役また出て秋を惜しみけり 泉田秋硯

2018-09-17 | 


斬られ役また出て秋を惜しみけり   泉田秋硯

季語は「秋惜しむ」。山口県の萩市で開かれた中学の同窓会に出席した後で、三十年ぶりに故郷(山口県阿武郡むつみ村)を訪れてみた。快晴のなかの村の印象はいずれ書くとして、村を離れる前に友人宅に立ち寄って二時間ばかり話をした。私がいろいろ昔の思い出を確認する恰好の話のなかで、秋祭のことを尋ねたら、いまでも昔と同じ形式で続けられているという。奉納されるメインイベントのお神楽も、伝統を守って昔ながらに演じられているようだ。ただ子供の私には神楽はたいして面白いものではなく、その後に行われる村芝居が何よりの楽しみだったのだけれど、さすがにこちらは途絶えてしまっていた。集落単位で何年かごとの交代制で一座をこしらえて、主に国定忠次や石川五右衛門などの時代劇を上演したものだ。これが、いろいろな意味で面白かった。日頃無口な近所のおじさんが舞台に上がって「絶景かな、絶景かな」なんて叫んでいたりして、大いにたまげたこともある。句は、そんな芝居の事情を詠んでいる。なにしろ出演者が少ないので、ちょっとしか出ない「斬られ役」は、すぐに別のシーンで別の役を演じざるを得ないわけだ。ついさっき情けなくもあっさり斬られて引っ込んだ男が、また出てきて、今度は神妙な顔つきで月を見上げたりして行く秋を惜しんでいる図である。なんとなく妙な感じがして可笑しいのだが、一方ではどことなく哀しい。村芝居には、素人ならではの不思議な魅力がある。むろん作者の力点も、この不思議な味にかけられているのだろう。『宝塚より』(1999)所収。(清水哲男)


【秋惜しむ】 あきおしむ(・・ヲシム)
◇「惜しむ秋」
秋の季節が去ってゆくのを惜しむ気持ち。「行く秋」より直接的、主観的である。古来、主に春・秋について「惜しむ」という。
例句 作者
引き波の速きに秋を惜しみけり 酒井十八歩
ながき橋わたりて秋を惜しむかな 長倉閑山
秋惜しみをれば遙かに町の音 楠本憲吉
戸を叩く狸と秋を惜しみけり 蕪村
好晴の秋を惜めば曇り来し 鈴木花蓑
熔岩に立ち湖上の秋を惜しみけり 勝俣泰享
藤棚の下に安らぎ秋惜しむ 鈴木真砂女



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