竹とんぼ

先達の秀句を味わいながら
自得の一句を求めて多作多捨です
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桜紅葉これが最後のパスポート  山口紹子

2018-10-12 | 秋の季語から



桜紅葉これが最後のパスポート     山口紹子

つい最近、緊急に必要なことができて、急遽パスポートの申請に行ってきた。本籍地のある中野の区役所で戸籍抄本をとり、立川の旅券申請受付窓口で手続きが終わるまで、その間に写真撮影やなんやらかんやらで、ほぼ一日仕事になってしまった。この流れのなかで、一瞬迷ったのが旅券の有効期限の違いで色の違う申請用紙を選んだときだ。赤が十年で、青が五年である。このときにすっと頭に浮かんだのは、揚句秋(仲秋)・植物
【桜紅葉】 さくらもみじ(・・ヂ)
桜は他の木に先だって紅葉し、散り急ぐ。9月の末には素手に赤みがさし、早い葉は落ちてしまう。
例句 作者
霧に影なげてもみづる桜かな 臼田亜浪
桜紅葉しばらく照りて海暮れぬ 角川源義
うつくしく傷みてさくら紅葉かな 山口 速
桜紅葉蹤きゆくことの寧からず 永方裕子
桜紅葉なるべし峰に社見ゆ 河東碧梧桐

の作者と同じく「これが最後のパスポート」という思いであった。最後なんだから赤にしようかとも思ったけれど、十年後の年齢を考えると現実的ではなさそうだと思い直して、結局は青にした。そんなことがあった直後に読んだ句なので、とても印象深い。作者の年齢は知らないが、ほぼ同年代くらいだろうか。作者が取得したのは「桜紅葉」の季節だったわけだが、この偶然による取り合わせで、句が鮮やかに生きることになった。桜紅葉の季節は早い。他の木々の紅葉にさきがけて、東京辺りでも九月の下旬には色づきはじめる。山桜なら、もっと早い。すなわち作者は、「最後」と思い決めた人生に対する季節感が、いささか他の人よりも早すぎるかもしれないという気持ちがどこかにあることを言っている。だから、この感情を苦笑のうちに収めたいとも思ったろうが、一方で苦笑からはどうしてもはみ出てしまう感情がないとは言えないことも確かなのだ。この句を読んだ途端に、私は未練がましくも赤にしておくべきだったかなと思い、いややはり青でよかったのだと、あらためて自己説得することになったのだった。『LaLaLa』(2006)所収。(清水哲男)
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