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20.2.29 裁判例

2008-02-29 16:53:24 | Weblog
20.2.29 裁判例

東京地裁平成20年2月26日判決(平成19年(ワ)第15231号)
著作権侵害事件

【事案の概要】
 本件は,被告の機関である社会保険庁の職員が,ジャーナリストである原告の著作物である雑誌記事を,社会保険庁LANシステム中の電子掲示板システムの中にある新聞報道等掲示板にそのまま掲載し,原告の複製権又は公衆送信権を侵害したとして,原告が,被告に対し,上記複製権又は公衆送信権侵害を選択的請求原因として,同掲載記事の削除及び原告のすべての著作物についての掲載の予防的差止め並びに損害賠償374万円(不法行為日の後である平成19年4月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を含む。)の支払を求めた事案である。

【当裁判所の判断】
1 争点(2)(被告は,原告の公衆送信権を侵害したか)について
 原告は,選択的請求原因として,公衆送信権侵害を主張するので,まず,争点(2)について,判断する。

(1)本件LANシステムは,社会保険庁内部部局,施設等機関,地方社会保険事務局及び社会保険事務所をネットワークで接続するネットワークシステムであり(前提となる事実),その一つの部分の設置の場所が,他の部分の設置の場所と同一の構内に限定されていない電気通信設備に該当する。
 したがって,社会保険庁職員が,平成19年3月19日から同年4月16日の間に,社会保険庁職員が利用する電気通信回線に接続している本件LANシステムの本件掲示板用の記録媒体に,本件著作物1ないし4を順次記録した行為(本件記録行為)は,本件著作物を,公衆からの求めに応じ自動的に送信を行うことを可能化したもので,原告が専有する本件著作物の公衆送信(自動公衆送信の場合における送信可能化を含む。)を行う権利を侵害するものである。

(2)被告は,本件著作物については,まず,社会保険庁職員が複製しているところ,この複製行為は42条1項本文により複製権侵害とはならず,その後の複製物の利用行為である公衆送信行為は,その内容を職員に周知するという行政の目的を達するためのものなので,49条1項1号の適用はなく,原告の複製権を侵害しない,また,複製物を公衆送信して利用する場合に,その利用方法にすぎない公衆送信行為については,42条の目的以外の目的でなされたものでない以上,著作権者の公衆送信権侵害とはならない旨主張する。
 しかし,社会保険庁職員による本件著作物の複製は,本件著作物を,本件掲示板用の記録媒体に記録する行為であり,本件著作物の自動公衆送信を可能化する行為にほかならない。
 そして,42条1項は,「著作物は・・・行政の目的のために内部資料として必要と認められる場合には,その必要と認められる限度において,複製することができる。」と規定しているとおり,特定の場合に,著作物の複製行為が複製権侵害とならないことを認めた規定であり,この規定が公衆送信(自動公衆送信の場合の送信可能化を含む。)を行う権利の侵害行為について適用されないことは明らかである。
 また,42条1項は,行政目的の内部資料として必要な限度において,複製行為を制限的に許容したのであるから,本件LANシステムに本件著作物を記録し,社会保険庁の内部部局におかれる課,社会保険庁大学校及び社会保険庁業務センター並びに地方社会保険事務局及び社会保険事務所内の多数の者の求めに応じ自動的に公衆送信を行うことを可能にした本件記録行為については,実質的にみても,42条1項を拡張的に適用する余地がないことは明らかである。
 なお,被告が主張する49条1項1号は,42条の規定の適用を受けて作成された複製物の目的外使用についての規定であるから,そもそも42条の適用を受けない本件について,49条1項1号を議論する必要はない。
 被告の主張は採用することができない。

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20.2.29 PCT規則4.9

2008-02-29 16:48:07 | Weblog
20.2.29 PCT規則4.9

4.9 国の指定、保護の種類、国内及び広域特許

(a)願書の提出は、次の事項を構成する。
 ()国際出願日に条約に拘束される全ての締約国の指定

※国際出願をすると、すべての締約国が指定されたものとみなされることになります。
 ただし、国際出願における優先権の主張が国内優先権の主張となる場合は、先の出願がみなし取下げとなる法制を有するドイツ、韓国、日本、ロシアの4か国については、願書において指定国から除外することができます。

 ()第四十三条又は第四十四条が適用される指定国において、その国を指定することによつて得られる全ての種類の保護を求める旨の表示

※例えば、わが国では、特許又は実用新案のいずれかによる保護を求めることができますが、願書には、そのような表示をする必要がありません。
 わが国に移行手続をするときの国内書面に、「特許」と記載すれば、特許による保護を求めることになりますか、「実用新案登録」と記載すれば、実用新案による保護を求めることになります。
 すなわち、保護を求める種類は、国内移行手続の際に意思表示すればよいといえます。

 ()第四十五条(1)が適用される指定国において広域特許を求める旨及び、第四十五条(2)が適用される場合を除き、国内特許を求める旨の表示

※広域特許を求める旨についても、国内移行手続の際に意思表示をすればよいことになります。


(b)(a)()の規定にかかわらず、二千五年十月五日において、締約国の国内法令が、当該国の指定及び当該国で効力を有する先の国内出願に基づく優先権の主張を伴う国際出願により、当該先の国内出願が取下げと同一の効果をもって消滅することを定めている場合には、当該指定官庁が当該国の指定に関してこの規定が適用される旨を二千六年一月五日までに国際事務局に通告すること及びその通告が当該国際出願日になお効力を有することを条件として、当該国でされた先の国内出願に基づく優先権を主張する全ての願書は当該国を指定しない旨の表示を伴うことができる。国際事務局は、その通告を速やかに公報に掲載する。

※ドイツ、韓国、日本、ロシアの4か国は、指定の除外ができることになっています。
 これらの国は、国内優先権制度があって、先の出願がみなし取下げとなる規定がある国です。
 例えば、わが国にした国内の特許出願に基づいて優先権を主張して国際出願をした場合において、指定国にわが国が含まれている場合は、国際出願のうちわが国に関しては、パリ条約の優先権ではなくて、国内優先権の主張として扱われることになります。
 この場合は、先の国内の特許出願は、その出願の日から1年3月以内にみなし取下げとなります。先の出願が国内の特許出願ですので、特許法184条の15第4項は適用されません。
 国際出願の出願人が、わが国に関しては、先の国内の特許出願により特許権の取得を図ることを希望し、国際出願においては国内優先権の主張はしたくないとする場合があります。しかし、他の指定国については国内の特許出願に基づくパリ条約の優先権の主張をしたいというときは、国際出願における優先権の主張は不可避となります。
 そこで、PCT規則は、このような場合に、先の国内の特許出願のみなし取下げを防止するために、後の国際出願の願書において、日本の指定を除外できることとしたわけです。
 

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