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20.1.28 平成19年4月1日発効のPCT規則の改正 優先権の回復

2008-01-28 16:54:54 | Weblog
2.優先権の回復手続の導入
(1)優先権主張の自動的維持
 平成19年4月1日発効のPCT規則の改正により優先権主張の自動的維持という概念が導入された。
 これは、優先権主張を伴う国際出願がパリ条約に規定する優先期間12月を超えてなされた場合であっても、国際出願日が優先期間徒過の後2月以内である場合には、これを直ちに無効とはせず、国際段階の間、優先権主張は維持されるものとして取り扱うものである。
 これにより、国際段階における期間(国内移行のための期間も含む)計算の起算日として優先日を確定することが可能となり、国際段階における手続の安定が確保される。
 なお、この優先期間徒過後に主張した優先権について、国内段階移行後において有効なものとするためには、優先権の回復の請求をする必要がある。

(2)優先権の回復
 わが国は、この優先権の回復手続について、国内法令との不適合を理由とする経過規定を適用している。
 したがって、日本国特許庁に対して以下の理由であっても優先権の回復の手続はできない。
 また、他の受理官庁が認定した優先権の回復は日本国内段階においてその効果が認められず、優先権はなかったものとして扱われる。
 優先期間の徒過がやむを得ない事情に起因する場合、出願人は優先権の回復を申請できることとなった。
 国際出願日がパリ条約に規定する優先期間12月の満了日の後であっても、その満了日から2月以内(優先日から14月以内)であり、優先期間を遵守できなかった理由が受理官庁又は指定官庁が採用する以下の判断基準に該当する場合には、優先権の回復が認められる(規則26の2.3、規則49の3.1、規則49の3.2)。
 
 <優先権の回復の判断基準>
 優先期間を遵守して国際出願を提出できなかったことが、
()相当な注意を払ったにもかかわらず生じた場合(より厳格な基準)
()故意でない場合(より緩やかな基準)
  
(3)受理官庁への優先権の回復の手続(規則26の2.3)
 優先権の回復の請求は、優先期間満了の日から2月以内に優先期間を遵守できなかった理由を記載した上で、受理官庁に提出する。
 その際に、優先期間を遵守できなかった理由を裏付ける証拠もあわせて提出することが望ましく、さらに受理官庁によっては優先権の回復請求にかかる手数料の支払い(優先権期間満了の日から2月以内)が求められることがある。
 上記の二つの判断基準をどのように用いて優先権の回復を判断するかは、各受理官庁に委ねられており、どちらの判断基準を採用したかによって指定官庁における効果にも差がある。
 したがって、出願人は受理官庁に優先権の回復を請求し、回復が認められたとしても、その効果がどの指定官庁に対し及ぶかに関しては注意が必要である。
 
(4)受理官庁が認定した優先権の回復の指定官庁における効果(規則49の3.1)
 上記二つの基準のうち、受理官庁がより厳格な基準すなわち「相当な注意」基準を用いてした判断は、同基準を採用する指定官庁はもちろんのこと、より緩やかな基準すなわち「故意でない」基準を採用する指定官庁にも優先権の回復の効果を及ぼす(規則49の3.1(a))。
 一方、受理官庁が「故意でない」基準を用いた場合、回復の効果は同等の「故意でない」基準又はそれよりも出願人に有利な基準を採用する指定官庁に対してのみ効果を及ぼす(規則49の3.1(b))。
 指定官庁は、合理的な疑義がない限り受理官庁が行った優先権の回復の決定を検査することはできない(規則49の3.1(d))。
 また、受理官庁による優先権の回復を拒否した場合であっても、その決定は指定国を拘束しないため(規則49の3.1(e))、受理官庁に回復を拒否された出願人も、更に指定官庁に優先権の回復を求めることができる。

(5)指定官庁への優先権の回復の手続(規則49の3.2)
 出願人は、指定官庁に対して優先権の回復を請求することもできる。
 この場合、優先権の回復の請求は優先期間を遵守できなかった理由を記載した上で、国内移行期限満了後1月以内に指定官庁に提出する。
 その際に、優先期間を遵守できなかった理由を裏付ける証拠も併せて提出することが望ましく、さらに指定官庁によっては優先権の回復請求にかかる手数料の支払いが求められることがある。
 また、受理官庁の場合と同様に、上記の二つの判断基準のどちらを採用し、どのように用いて優先権の回復を判断するかは当該指定官庁に委ねられている(規則49の3.2)。
 
 国内法令との不適合のため経過規定を適用し、優先日から12月経過後の優先権の回復を認めない旨を国際事務局に通報している受理官庁又は指定官庁においては、優先権の回復を請求する書面の提出は受け付けない。
 また、他の受理官庁が認定した優先権の回復の効果を認めない指定官庁においては、期間後の優先権主張をしたものとして扱われる。
 特に注意すべき場合として、国際事務局を受理官庁として優先権の回復をした国際出願を、日本国やその他の優先権の回復を認めない指定官庁に移行してもそれらの指定国においては優先権の回復は認められないので、期間経過後の優先権主張をしたものとして扱われる場面などが想定される。

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