燈子の部屋

さまざまなことをシリアスかつコミカルかつエッセイ風に(?)綴る独り言的日記サイトです

階上の騒音 5

2006-01-31 00:30:32 | 病めるときもあり
大学生氏が真夏のような格好でいる一方、親父さんは相変わらず家の中……
こんな時はパジャマ姿でも構わないから出てきてほしいのに。

そのうちに下からお隣りさんもやって来た。
私たちは体の芯からすっかり冷え切ってしまったので、
暖房が入るロビーに場所を移すことにした。

親父さんが着替えて出てくるまで相当の時間がかかったけれど、
ようやく息子さんも交えて話せることになったのは大きな進歩だ。

こうして見ると、本当にごく普通の人たちなのだ。
親父さんは穏やかで人の良さそうなご主人だし、
息子さんもおとなしそうな感じに見えて、
本当に暴れているとは思えないくらいだ。

親父さんが恐縮されていて、申し訳なく思ってしまう。
大学生氏が通院中なのはわかっているし、
何かプレッシャーがかかると暴れることもわかっている。
この日は卒論がその理由だそうだ。
わかっていることばかりだから、大した話ができるわけじゃない。

でも、会ってみてわかったことがある。
それは、こうして顔を合わせることが大切だということ。
互いにどんな人が住んでいるのかを知れば、気持ちのありようは変わる。
ドンドンと響いてくる音の向こうに、私たちは彼を見る。
彼も、叩いている床の下に私たちを見出してくれるかもしれない。

夫たちが話しているのを聞いているうちに、私は涙が滲んできた。
心に辛いものを抱えている人を見ると、どうしても胸が詰まる。
つい、母を入院させた時のことを思ってしまうからかもしれない。
入院前の母は被害妄想が強かったので、普通に話ができない状態だった。
そこを騙して病院に連れて行き、押さえつけて注射で眠らせ、入院させたのだ。
そうしなければもっとひどくなっていたと思うので、後悔していないけれど、
あの光景を思い出すと、体調によっては今でも涙が出ることがある。
大学生氏の病名までは知らないし、そもそも比べられるものではないけれど、
私には彼の状態は全然軽いように思えて、きっと何とかなると思える。
決して、強制的に入院させるようなことになってほしくない。

でも……涙が滲んだのは、それだけではなかった。
私は、彼がその場にいることが嬉しかった。
苦情を言いに来た私たちに会うことは、
彼にとってはとても苦痛だったに違いないと思うのだ。

「今度、食事に行こうよ。親父さん抜きで」

夫がそう言うと、彼は「はい」と答えた。

翌日曜日、夫は彼を食事に誘った。
だが、月曜日が卒論の提出日のため、追い込み中ということで、
残念ながら、また今度ということになった。

だが、数日後、その日曜日に警察が来ていたことをお隣さんから聞いた。
彼がベランダの手すりに身を乗り出していたため、ご近所さんから通報があったのだ。
時間的に考えて、夫が食事に誘ったのはその後だったと思われる。

それを聞いて、私たちは複雑な気持ちになった。
彼は、私たちに会ったことで、今までのように鬱憤を晴らせなくなり、
手すりに身を乗り出したのではないかと思えて……。

卒論が終わった今、階上はほとんど静かだ。
親父さんによると、就職先は未定だという。

彼の力になりたいのだけれど、
私たちにできることは、なんだろうか――。


(次を読む)

4 コメント

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(^^) (Ray)
2006-01-31 01:22:36
。。人間は 情報の80パーセントを 《目》から得る

、、のだそうです



、、ってことはー

《見ること》からの情報が 優先的に脳に入ってゆくことが多い

、、っていうことでしょうか。。?



この、生物学的な言葉の真意は

実は、、私にはよくわかりませんけれど・・



(だけど 私の場合は 視力がとても悪いので

 裸眼のとき 難聴になったような気がすることがあ ります)



だから燈子さんのおっしゃるように

>でも、会ってみてわかったことがある。

>それは、こうして顔を合わせることが大切だということ。

、、っていうお話に同感です



だから。。

ネットの世界のお付あいって いつもどこか悲しい気持ちがするんです。。(←私の場合)



>彼の力になりたいのだけれど、

>私たちにできることは、なんだろうか――。



たぶん。。



してほしいことは その、男の子さんにもわからないんだと想いました



我慢することは とっても簡単だけど

発見は いつもとても難しくて 



私には いつも難儀な作業です





私も燈子さんの疑問や悲しみのためにお力になれなくて 

ほんとうにごめんなさい。。





今日は 主人と《キングコング》を見てきました





おやすみなさい。。

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(^_^) (燈子)
2006-01-31 18:44:46
>。。人間は 情報の80パーセントを 《目》から得る

>、、のだそうです



ということは……

ギャートルズ時代(ふ、ふるい!)の人間は、

視界の開けた場所で暮らしていたということなのでしょうか。

祖先がアマゾンから始まっていたら、

耳から得るほうが多くなったかもしれませんね。



>(だけど 私の場合は 視力がとても悪いので

> 裸眼のとき 難聴になったような気がすることがあ ります)



私も似たような経験があります。

裸眼で電話を受けると、先方の声が聞き取りにくいんですよ~

メガネ時代は、耳が痛くなるのでずっとかけていられず、

ベルが鳴るとあたふたとメガネを探したものです。

今はコンタクトですが、パソコンや新聞なら裸眼でも見えるので、

つけていない時にかかってくると、諦めて受話器を取ります。

たぶん……3割ぐらい聞き逃している気がします(-_-;)



>ネットの世界のお付あいって いつもどこか悲しい気持ちがするんです。。(←私の場合)



そうなんですか。。。



私は、ネット上のお付き合いも、ある程度長くなると、

リアルな感じを帯びてくるように思います。

勿論、ネットだけでその人の全てをわかることはできないんですけど、

「他人に見せたい自分」や「他人に見せてもいい自分」というものが、

ネットでもリアルでも同じように出てくるような気がするんです。

だから、悲しいと感じたことはあまりない……かも。



ただ、ネットは時々じれったいと思う時があります。

「会って話せたらいいのに~!」って。。。

階上のお宅に抱く気持ちと通じるところがあるかも。。。



>してほしいことは その、男の子さんにもわからないんだと想いました



そう、彼は、ただ無闇に叩いているわけじゃないんですよね……

その先にあるものがわかれば……



>私も燈子さんの疑問や悲しみのためにお力になれなくて

>ほんとうにごめんなさい。。



とんでもないですよ~

読んでくださっただけでも嬉しいのに^^



前の日記を「不快だ」なんていう語句で「つづく」にしちゃったので、

早く書かなければと思っていたんですけど、なかなか書けず。。。

こちらこそごめんなさいですm(__)m



叩いているのがキングコングだったらエライことになってるなあ~(^_^;)



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続きを想像 (とほ)
2006-02-01 20:19:02
していましたが、想像以上に良い結果でした。



大学生氏は、病気、卒論、就職と、なんとかしたい

項目が山積でたいへんですが、どこかで折り合いを

つけていくしかないとも思います。



卒論片付いたら、次は就職ですが、ここは、ホント

卒業旅行なりでゆっくりして欲しいなぁ。

人生長いのだから。

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折り合い (燈子)
2006-02-02 15:00:45
をつけるのって難しいですよね。

それができるのは本人だけですし……。

自分が仕事をしていた頃もよく考えていました。



>人生長いのだから。



そうそう^^

いつか必ず笑って振り返ることができるようになるはずだから。
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