大学生氏が真夏のような格好でいる一方、親父さんは相変わらず家の中……
こんな時はパジャマ姿でも構わないから出てきてほしいのに。
そのうちに下からお隣りさんもやって来た。
私たちは体の芯からすっかり冷え切ってしまったので、
暖房が入るロビーに場所を移すことにした。
親父さんが着替えて出てくるまで相当の時間がかかったけれど、
ようやく息子さんも交えて話せることになったのは大きな進歩だ。
こうして見ると、本当にごく普通の人たちなのだ。
親父さんは穏やかで人の良さそうなご主人だし、
息子さんもおとなしそうな感じに見えて、
本当に暴れているとは思えないくらいだ。
親父さんが恐縮されていて、申し訳なく思ってしまう。
大学生氏が通院中なのはわかっているし、
何かプレッシャーがかかると暴れることもわかっている。
この日は卒論がその理由だそうだ。
わかっていることばかりだから、大した話ができるわけじゃない。
でも、会ってみてわかったことがある。
それは、こうして顔を合わせることが大切だということ。
互いにどんな人が住んでいるのかを知れば、気持ちのありようは変わる。
ドンドンと響いてくる音の向こうに、私たちは彼を見る。
彼も、叩いている床の下に私たちを見出してくれるかもしれない。
夫たちが話しているのを聞いているうちに、私は涙が滲んできた。
心に辛いものを抱えている人を見ると、どうしても胸が詰まる。
つい、母を入院させた時のことを思ってしまうからかもしれない。
入院前の母は被害妄想が強かったので、普通に話ができない状態だった。
そこを騙して病院に連れて行き、押さえつけて注射で眠らせ、入院させたのだ。
そうしなければもっとひどくなっていたと思うので、後悔していないけれど、
あの光景を思い出すと、体調によっては今でも涙が出ることがある。
大学生氏の病名までは知らないし、そもそも比べられるものではないけれど、
私には彼の状態は全然軽いように思えて、きっと何とかなると思える。
決して、強制的に入院させるようなことになってほしくない。
でも……涙が滲んだのは、それだけではなかった。
私は、彼がその場にいることが嬉しかった。
苦情を言いに来た私たちに会うことは、
彼にとってはとても苦痛だったに違いないと思うのだ。
「今度、食事に行こうよ。親父さん抜きで」
夫がそう言うと、彼は「はい」と答えた。
翌日曜日、夫は彼を食事に誘った。
だが、月曜日が卒論の提出日のため、追い込み中ということで、
残念ながら、また今度ということになった。
だが、数日後、その日曜日に警察が来ていたことをお隣さんから聞いた。
彼がベランダの手すりに身を乗り出していたため、ご近所さんから通報があったのだ。
時間的に考えて、夫が食事に誘ったのはその後だったと思われる。
それを聞いて、私たちは複雑な気持ちになった。
彼は、私たちに会ったことで、今までのように鬱憤を晴らせなくなり、
手すりに身を乗り出したのではないかと思えて……。
卒論が終わった今、階上はほとんど静かだ。
親父さんによると、就職先は未定だという。
彼の力になりたいのだけれど、
私たちにできることは、なんだろうか――。
(次を読む)
こんな時はパジャマ姿でも構わないから出てきてほしいのに。
そのうちに下からお隣りさんもやって来た。
私たちは体の芯からすっかり冷え切ってしまったので、
暖房が入るロビーに場所を移すことにした。
親父さんが着替えて出てくるまで相当の時間がかかったけれど、
ようやく息子さんも交えて話せることになったのは大きな進歩だ。
こうして見ると、本当にごく普通の人たちなのだ。
親父さんは穏やかで人の良さそうなご主人だし、
息子さんもおとなしそうな感じに見えて、
本当に暴れているとは思えないくらいだ。
親父さんが恐縮されていて、申し訳なく思ってしまう。
大学生氏が通院中なのはわかっているし、
何かプレッシャーがかかると暴れることもわかっている。
この日は卒論がその理由だそうだ。
わかっていることばかりだから、大した話ができるわけじゃない。
でも、会ってみてわかったことがある。
それは、こうして顔を合わせることが大切だということ。
互いにどんな人が住んでいるのかを知れば、気持ちのありようは変わる。
ドンドンと響いてくる音の向こうに、私たちは彼を見る。
彼も、叩いている床の下に私たちを見出してくれるかもしれない。
夫たちが話しているのを聞いているうちに、私は涙が滲んできた。
心に辛いものを抱えている人を見ると、どうしても胸が詰まる。
つい、母を入院させた時のことを思ってしまうからかもしれない。
入院前の母は被害妄想が強かったので、普通に話ができない状態だった。
そこを騙して病院に連れて行き、押さえつけて注射で眠らせ、入院させたのだ。
そうしなければもっとひどくなっていたと思うので、後悔していないけれど、
あの光景を思い出すと、体調によっては今でも涙が出ることがある。
大学生氏の病名までは知らないし、そもそも比べられるものではないけれど、
私には彼の状態は全然軽いように思えて、きっと何とかなると思える。
決して、強制的に入院させるようなことになってほしくない。
でも……涙が滲んだのは、それだけではなかった。
私は、彼がその場にいることが嬉しかった。
苦情を言いに来た私たちに会うことは、
彼にとってはとても苦痛だったに違いないと思うのだ。
「今度、食事に行こうよ。親父さん抜きで」
夫がそう言うと、彼は「はい」と答えた。
翌日曜日、夫は彼を食事に誘った。
だが、月曜日が卒論の提出日のため、追い込み中ということで、
残念ながら、また今度ということになった。
だが、数日後、その日曜日に警察が来ていたことをお隣さんから聞いた。
彼がベランダの手すりに身を乗り出していたため、ご近所さんから通報があったのだ。
時間的に考えて、夫が食事に誘ったのはその後だったと思われる。
それを聞いて、私たちは複雑な気持ちになった。
彼は、私たちに会ったことで、今までのように鬱憤を晴らせなくなり、
手すりに身を乗り出したのではないかと思えて……。
卒論が終わった今、階上はほとんど静かだ。
親父さんによると、就職先は未定だという。
彼の力になりたいのだけれど、
私たちにできることは、なんだろうか――。
(次を読む)
、、のだそうです
、、ってことはー
《見ること》からの情報が 優先的に脳に入ってゆくことが多い
、、っていうことでしょうか。。?
この、生物学的な言葉の真意は
実は、、私にはよくわかりませんけれど・・
(だけど 私の場合は 視力がとても悪いので
裸眼のとき 難聴になったような気がすることがあ ります)
だから燈子さんのおっしゃるように
>でも、会ってみてわかったことがある。
>それは、こうして顔を合わせることが大切だということ。
、、っていうお話に同感です
だから。。
ネットの世界のお付あいって いつもどこか悲しい気持ちがするんです。。(←私の場合)
>彼の力になりたいのだけれど、
>私たちにできることは、なんだろうか――。
たぶん。。
してほしいことは その、男の子さんにもわからないんだと想いました
我慢することは とっても簡単だけど
発見は いつもとても難しくて
私には いつも難儀な作業です
私も燈子さんの疑問や悲しみのためにお力になれなくて
ほんとうにごめんなさい。。
今日は 主人と《キングコング》を見てきました
おやすみなさい。。
>、、のだそうです
ということは……
ギャートルズ時代(ふ、ふるい!)の人間は、
視界の開けた場所で暮らしていたということなのでしょうか。
祖先がアマゾンから始まっていたら、
耳から得るほうが多くなったかもしれませんね。
>(だけど 私の場合は 視力がとても悪いので
> 裸眼のとき 難聴になったような気がすることがあ ります)
私も似たような経験があります。
裸眼で電話を受けると、先方の声が聞き取りにくいんですよ~
メガネ時代は、耳が痛くなるのでずっとかけていられず、
ベルが鳴るとあたふたとメガネを探したものです。
今はコンタクトですが、パソコンや新聞なら裸眼でも見えるので、
つけていない時にかかってくると、諦めて受話器を取ります。
たぶん……3割ぐらい聞き逃している気がします(-_-;)
>ネットの世界のお付あいって いつもどこか悲しい気持ちがするんです。。(←私の場合)
そうなんですか。。。
私は、ネット上のお付き合いも、ある程度長くなると、
リアルな感じを帯びてくるように思います。
勿論、ネットだけでその人の全てをわかることはできないんですけど、
「他人に見せたい自分」や「他人に見せてもいい自分」というものが、
ネットでもリアルでも同じように出てくるような気がするんです。
だから、悲しいと感じたことはあまりない……かも。
ただ、ネットは時々じれったいと思う時があります。
「会って話せたらいいのに~!」って。。。
階上のお宅に抱く気持ちと通じるところがあるかも。。。
>してほしいことは その、男の子さんにもわからないんだと想いました
そう、彼は、ただ無闇に叩いているわけじゃないんですよね……
その先にあるものがわかれば……
>私も燈子さんの疑問や悲しみのためにお力になれなくて
>ほんとうにごめんなさい。。
とんでもないですよ~
読んでくださっただけでも嬉しいのに^^
前の日記を「不快だ」なんていう語句で「つづく」にしちゃったので、
早く書かなければと思っていたんですけど、なかなか書けず。。。
こちらこそごめんなさいですm(__)m
叩いているのがキングコングだったらエライことになってるなあ~(^_^;)
大学生氏は、病気、卒論、就職と、なんとかしたい
項目が山積でたいへんですが、どこかで折り合いを
つけていくしかないとも思います。
卒論片付いたら、次は就職ですが、ここは、ホント
卒業旅行なりでゆっくりして欲しいなぁ。
人生長いのだから。
それができるのは本人だけですし……。
自分が仕事をしていた頃もよく考えていました。
>人生長いのだから。
そうそう^^
いつか必ず笑って振り返ることができるようになるはずだから。