福富ストラット

「記者ときどき農夫」。広島の山里で子ども向け体験農園づくりにいそしむ、アラフォー新聞記者のブログ。

アラウンド大山

2019-08-31 23:51:10 | 日記
 研修で鳥取県米子市を訪れた勢いで、今日は同僚隊員と周辺をぐるっと巡ってきた。

 まずは植田正治写真美術館(米子市)。境港市生まれの写真家、植田正治(1913~2000年)の作品が展示されている。隊員は、植田さんが山陰の自然や暮らし、子どもに焦点を当てて撮った作品に惹かれた。レンズを向けられた人たちは「写されてる」ことをバリバリに意識し、笑ったり顔をこわばらせたりしている。「気にしないで」と自然を装って撮った写真よりも「自然の姿だ」と植田さんは考えていたそうだ。

 激しく同意。隊員が写真を好きになったきっかけの作家、椎名誠さんの作品もそんな意識を感じる。植田さんの影響を受けているのかも。
かくいう隊員も世界をほっつき歩き、「はい、写しますよ!」的な写真をパチパチ撮ってホームページをつくってたな。
 この美術館、何といってもロケーションがすばらしい。大山のふもとに広がる田園の中にぽんと立つ。館内からも望める大山にしばし、うっとり。

 午後の訪問先との約束まで時間があったので急きょ、パン屋さん「コウボパン 小さじいち」(鳥取県伯耆町)に車を走らせた(隊員はボケっと助手席に座っていただけだが)。
 だだっ広い平野に広がる田んぼを縫い、高原のペンション通りを抜け、現れたお店。木造の建物と素朴でセンスのいい植栽が醸し出すたたずまいに思わず、いいね! 午前11時という、パン屋とは思えない開店時間の前に列ができている。こんな山の麓で、すごいね。しっかりとした食べ応えのパンは、期待にたがわずうまかった。

 大山を離れると、すぐに日本海が見えてくる。晴れた空、壮大な山、一面の田んぼ、その先に青い海。フルコースの景色にさらにうっとりしながら、ひたすら助手席でぼけーっとする。

 午後は島根県安来市のNPO法人「眞知子農園」へ。農薬や化学肥料を使わず野菜を育て、不登校の子どもと一緒に農作業をしたり、勉強を教えたりしている。近くの特別支援学校とも連携し、障害のある生徒たちと野菜作りや販売にも取り組む。カタく言うと「農福連携」に取り組む農園だ。

 ちょうど開かれていた法人の理事会が一段落したころ到着。パンクないでたちの眞知子さんが厨房から、「今からご飯だからっ」「自分らで勝手に挨拶しといて」と迫力ある声で言う。理事さんたちへのあいさつもそこそこに、みんなで一緒に眞知子さん特製カレーをいただいた。野菜たっぷりのカレーも、酵素玄米入りのご飯も心底うまい!

 7年前に一人で活動を始めた眞知子さんはいま73歳。この日の理事会では、「眞知子さんのキャラとパワーで成り立ってきた活動を、どうやってみんなでこれからも続けていくか」との話が中心だったという。隊員が活動する東広島市福富町でも、すでに似たような悩みはいくつかの組織で耳にした。

 自称「変人」の眞知子さんは、たっぷり時間を割いて熱い話を聞かせてくれた。変人は隊員にとっても褒め言葉。「電話で『変人だな』って思ったから来たかったんです」と隊員が言うと、眞知子さんは「がははは」と豪快に笑った。

ワーク・ライフ・ミックス

2019-08-30 23:57:44 | 日記

 「『働き方と生き方の人体実験するぞ!』と思って協力隊を選んだんです」。パネリストの女性の発言に、激しくうなづいた。そうそう。隊員(僕)もずばり、そんな思いが源だわ。

 女性は地域おこし協力隊員OG。年の頃は、隊員と同じ40代か。昨年3月まで3年間、岡山県和気町で活動していた。米子市で今日あった協力隊員の研修会で、自身のキャリアとともに、「人体実験」としての活動経験も語ってくれた。

 OGは学習塾関連会社で企画などに携わった後、リクルートで教育メディアの編集者として勤務。退社して協力隊となり、和気町にある県立高校の魅力アップに取り組んだのだそうだ。

 「『協力隊になるぞ』というより、『活動を機にフリー(の編集者)になるんだ』って心に決めましたから」と言い切るOG。お、ますますいいね。リクルート退社前に自ら企画した業務を、協力隊として自分で受注する手も使ったという。なるほど! 道を切り開くには、これぐらいの戦略と図々しさは要るな。新聞記者もたいがい図々しい人種だけど、まだまだだ。

 OGは協力隊を終えた今も和気町に暮らしながら、県内外をフィールドにフリーランスの編集者、講演活動、調査・研究、シェアハウスオーナーなどを合わせ技してしっかり食っていけてるらしい。

 パネル討論後につかまえて話をしたが、地に足の付いた話を、飾らないしゃべり方でする落ち着いたすてきな人だった。「協力隊として」ってより、「1人間として楽しく生きるための働き方」って目線でいろいろ語ってくれたけど、ざっくり言うと「自分の強みを知って、それを強引に打ち出せばいいよ」「やりたくないことを無理にやらない」ってことだろうか。隊員が描く仕事につながる、「なるほど~」って具体的な情報も教えてくれ、ほんと感謝。

 懇親会では、他のパネリスト(もうひとり、とっても勉強になる人がいた)や、濃厚キャラな隊員とも、案外ゆっくりと話せた。「また会いたいな」「きっと会うだろうな」と思える人と知り合え、満足。来る前は「ゲゲゲ。米子、遠い」と気乗りしてなかった研修だが、物は試しで転がり込んでよかった。

 遠くを見ながら歩くと、足跡はまっすぐになる。1泊2700円のタバコくさい安宿の夜も、気分良く更けていきそうだ。


とまり木

2019-08-29 10:06:19 | 日記

 先日、記者時代の知り合いの某放送局記者から「不登校をテーマに記事を書いた」と連絡をもらった。その取材映像が昨夕(8月28日)のニュース番組で放送された。NHK未来スイッチ「不登校、その先を考えてほしい」というもの。

 事前にウェブ記事を読み、「ぜひとも映像を見たい!」と思っていた。だが、オンエアーはちょうど隊員が車で移動しなければならない時間。ジモピーが「イノシシ銀座」と言う薄暗い山道を疾走しながら、マイカーオーディオで途切れがちな音声だけを、必死こいて聴いた。

 サンドウィッチマン並みにコーフンしたのは、埼玉県上尾市の「ほたるファーム」という農園の取り組みだった。隊員が「こういうことやりたい」と妄想していることを、とっとと実現していた。ジャガイモやニンジンなどを有機栽培で育て、学校に行っていない子どもたちが毎週、農作業に通ってくるのだという。

 農園に流れる柔らかい空気感がなかなかよさそうだった。「もくもくと作業に打ち込む子、作業はそこそこにミミズやカエルを探しだす子、おしゃべりする子。過ごし方はそれぞれ」(番組より)なのだそうだ。

 はい、賛成です。大人たちに「これやって!」「今、それしないといけん」なんて先手先手で指図されたら、子どもは息苦しいまんま。過ごす場所が学校から畑に変わっただけで、その場を取り巻く価値観は何も変わちゃいないぜ、ってことになる。

 もちろん、世知辛いこの日本で生きていくなら、社会的なスキルはそれなりに身につけとくと楽ではある。隊員の農園でも、ゆくゆくは挑みたい。あくまで「その先」のステップとして。ほたるファームは、子どもたちのばらばらな歩みをごく自然に見守っているようで、なんだかほっとした。

 そういえば、世間からはみ出しまくりの異星人みたいな友人が言ってた。「人生一直線じゃなくていいって、不登校の子は案外、分かってる。頭を切り替えなきゃなのは、周りであたふたしている大人の方じゃん」

 ごもっとも。教育でも仕事でも家庭でも、勝手に息苦しさをこしらえるのは大概、大人だ。間違いないね。

 番組によると、ほたるファームのように、学校に行かない子どもの居場所を地域につくろうとの活動は少しずつ広がっている。鳥は止まる木を自由に選ぶ。子どもも居場所を自分で選べるように…。そんな思いから「とまり木」と名付けられているそうだ。へえ、知らなかった。

 最近すっかりニュース番組も新聞も見ない日々だったけど、思いのこもった報道ってやっぱいいね。某記者さん、ありがとう。


子ども農園 構想中

2019-08-28 08:48:32 | 日記

 地域おこし協力隊として福富町に来て、もうじき1ヶ月がたつ。

 2階建て母屋に離れまで付いた、巨大な空き家での1人暮らし。「隊員」お気に入りなのが、家のそばの小さな畑だ。大家さんがとなり町から通いながら幾ばくかのナスやキュウリを育てているが、畑のほとんどは休耕中。名もなき草(隊員が知らないだけだが)が腰の高さほどに茂っている。

 そんな家に縁あって転がり込んだアラフォー隊員。この畑で「子どもの農園」をつくりたいと思っている。都市部の子どもたちが地元のおじぃおばぁと一緒に土をいじり、キャベツ、ダイコンなどの野菜作りを体験できる場所だ。

 中でも不登校や引きこもりでしんどい思いをしている子どもや親御さんに使ってもらいたい。うちの外に出たり人と話したりする機会が少ない子どもたちが、緑豊かな田園風景の中で思い思いに体を動かし、前向きな気持ちを抱けるようになってくれたらいいなと思っている。 

 「おう、使いんさい」。酒とタバコが好物の元体操選手マッチョ大家さんの好意により、畑とビニルハウスを使わせてもらうことになった。やった!

 ところでさっき、さらっと「不登校」「引きこもり」と書いたが、これってほんとしんどい。

 「学校に行くのがつらい」「人と会うのがわずらわしい」「生きててもつまらない」―。振り返れば隊員も若かりし頃、こんなダウンな時期があった。今思うと、ほんとくだらないきっかけだったけど。たどり着いた心療内科ってとこで、ロボットみたいなドクターに「自律神経が弱ってるだけ」なんて人ごとのように言われ、「はぁ」って返すしかなかった。

  新聞記者として働いていた頃も、いろんな理由で学校に行かない子、社会に出られない若者に出会った。うらやましいほど純粋で、触れると壊れそうな子が多かった。親御さんも悩み、必死にわが子を支えようとしていた。

 記者(当時)が強く思ったのは、「人は居場所が大事」ってこと。心をぽーんと解き放って、「まんま」でいられる場所。自分の存在を受け入れてもらえる小さな「社会」があれば、世界の見え方はずいぶん違う。

 生きてりゃ嫌なことはたくさんある。気分良く過ごしてても、すぐに嫌な言葉、問題をぶっ込んできて気分を萎えさせる野郎も、どこにでもいる。ああ、やだ。

 でもね。人生なんとかなるし、案外悪くない。楽しいやつ、素敵な大人にもどんどん出会える。そのうち自分も成長しちゃうから。

 「人は犬に食われるほど自由だ」って書いてたのは藤原新也か。とかく生真面目なこの社会じゃ「人生は一直線ですよ。途中下車は許しません!」って脅されてるように思い込んじゃうかもしれないけど、マイペースでノープロブレムよ。

 新米隊員の妄想段階である「子ども農園」で感じてもらえたらうれしいのはそんなことかな、と思っている。