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高尾山周辺のシカの分析事例

2020-11-25 11:44:03 | 研究
高尾山周辺のシカの分析事例

高槻成紀

この数年で裏高尾でのシカの増加が著しく、高尾山への進入は時間の問題とされている。現にすでにシカが発見されたという断片的な記録もある。そこでシカによる植物への影響の痕跡について調査をしている。現地ではアオキに食痕が目立つようになっているが、アオキは表皮細胞が特徴的なのでシカの糞から検出されると特定できる。シカはとくに冬にアオキを好んで食べるので、食性の良い指標になる。今後、シカの影響でアオキが減少すればシカの糞にも出現しなくなるであろうから、現段階で調べておくことは価値がある。そこで関係者にシカの糞の採集をお願いしていた。今回2例のシカの糞が確保されたので、分析した。断片的ではあるが、報告しておく。

シカの糞サンプルは2例で、1例は2020年11月11日に南高尾の中沢山(標高350 m)で宮崎精励氏が採集した1例、もう一つは2020年11月12日に裏高尾のコゲ沢で山崎勇氏が採集した1例である。糞は0.5mm間隔のフルイ上でよく水洗し、顕微鏡下でポイント枠法で分析した。

その結果、糞組成は非常に低質であることがわかった。コゲ沢の例では繊維が58.2%であり、葉はイネ科が3.5%、双子葉植物が7.3%でこの中ではアオキが多かった。南高尾の例では稈(イネ科の茎)が56.8%、繊維が38.7%で葉は3.5%にすぎず、アオキは検出されなかった。


図1. シカの糞組成

 この2例に共通なのは、シカが葉を微量しか食べておらず、栄養価の低い繊維や稈が非常に多かったことである。ただ、サンプル数が少ないので、偶然そのような糞が採集されたためかもしれない。今後、さらにサンプル数を増やして、現在の高尾山周辺のシカが置かれた食料事情を推定したい。

 シカの糞確保にご尽力いただいた、森林インストラクター等協会の石井誠治氏、宮崎精励氏、高尾の森づくりの会の山崎勇氏に感謝します。



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