何でも知ってるタカハシ君のうんちく日本史XYZ

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『万葉集』に映る歌う日本人像

2004年09月10日 | 歴史
『万葉集』とは、たくさんの言葉を集めた意味だと、セイゴオ先生が教えてくれたね。でも集めたのは、なぜ歌だったのだろう? それにはあのちょっと不思議な言霊(ことだま)が関係しているんだ。言霊は、言葉の表現の中では、五七五、七七というリズムを持つ歌の形が、一番乗りやすいと思われていた。つまり、『万葉集』は言霊という魂を伝える言葉を集めて編集したわけなんだね。

歌の種類も多様で、古くから伝わる伝承歌、民謡や流行歌、物語の歌、そして創作された歌まで、あらゆる歌を集めている。古代の日本人にとって歌は非常に身近なメディアだった。神々に祈るときも、戦うときも、遊ぶときも、恋人に愛をたしかめるときも、旅するときも、楽しみも苦しみも悲しみも、歌にして伝えたんだな。

中国やインド、ヨーロッパなどでも、詩文学は上流階級、知識人に独占されて、庶民が自分の言葉で詩歌をつくるなんてめったになかった。これに比べて、天皇をはじめ、皇族・貴族・官人・僧りょ・農民・漁夫・遊女など、階層にとらわれず、老若男女がそれぞれの言葉でつくった『万葉集』の詩歌は、世界文学史上でもまったく驚くべきものなんだ。

ということで、今日はちょっと『万葉集』の歌にくわしくなってもらおう。『万葉集』の歌は、長い歌に短い歌、リズムの違い、そして、いつ、何のために歌ったかということで分けられるんだな。

歌の形で注目されるのが、五七を3回以上連ねて、最後に五七七で終わる「長歌」(ちょうか)だ。長い歌だから、後世に「長歌」と呼ばれるようになったけれど、もともとは儀式の歌を起源としたんだ。だから、神の祭りや季節ごとの催事、天皇や地域の首長がみずから治める地域を見晴らす国見(くにみ)といった歌が多く、葬送の儀式や一般の家族の生活や地域の様子などをうたう歌もある。言葉の技を尽くした歌が多いんだな。

長歌には、その内容をまとめた五七五・七七の歌が添えられる。これを「反歌」(はんか)というんだ。この「反」は、反対の「反」じゃなくて、反省の「反」なんだ。つまり長歌はどんなことを歌っていたのか、とふりかえって歌ったのが反歌なんだね。この五七五・七七の5句からなる「最小単位の長歌」ともいうべき短い歌が自立して、いわゆる和歌(わか)、短歌(たんか)になる。このように和歌は長歌の大きな世界を背景に、濃縮と比喩を駆使して歌われたために、日本の詩文の中でも特別な地位を占めるようになるわけだ。

それから、五七七、五七七のリズムからなる「旋頭歌」(せどうか)がある。神と人の問答を原型にした古い旋律の歌で、山上憶良(やまのうえのおくら)や大伴家持らの有名な歌人もつくっているけれど、民謡が多く、方言もたくさん使われているんだ。前の五七七が問い、後の五七七が答えになっている歌もある。最初の句の頭のイメージを、次の句の頭でくりかえすので、旋頭歌という。たとえば、こんな歌だ。
「玉垂(たまだれ)の 小簾(をす)のすけきに 入り通ひ来ね 
たらちねの 母が問はさば 風と申さむ」

これは古代の夫婦の様子を歌ったもの。古代の夫婦は妻問い(つまどい)といって、夫が妻の家に通うんだね。夫が訪ねてきたので、部屋の表にかけた御簾(みす)を分けて入ってください、そのとき、お母さんが誰か来たのかと言ったら、風ですよと言いますから、という意味。「たまだれ」と「たらちね」が呼応しているのがわかるね。

そして、仏足石歌(ぶっそくせきか)という五七五・七七七の6句からなる歌がある。奈良の薬師寺に建てられた仏足石(釈迦の足跡を紋様風に彫刻した石)に添えられた歌碑に刻まれた21首の歌が、このリズムであることから、仏足石歌とよばれている。和歌の五七五・七七の最後の7拍を繰り返した形だね。

『万葉集』の歌はどんな内容が詠まれていたかでも呼び方がある。大きく分けると、雑歌(ぞうか)、相聞歌(そうもんか)、挽歌(ばんか)の3つ。雑歌は、雑な歌、じゃなくて、宮廷の儀礼や行幸(ぎょこう)、宴会などの行事を中心に多様な日々を詠んだ歌だ。相聞歌は二人がやりとりした歌、今でいえばケータイメールで、恋の歌が多い。日本人のプロポーズは、相手に歌を贈ってするものだったんだな。挽歌は亡くなった人をお葬式でしのぶ歌だ。

そのほか、旅の歌、何かに心をたくす比喩(ひゆ)の歌、人を笑わせる滑稽(こっけい)の歌などがある。特別なものとしては、関東の方言で歌われた東歌(あずまうた)や防人の歌があって、まさに東西日本のさまざまな人々の思いと心が歌われている。

この『万葉集』の伝統は、現在の日本にも受け継がれているんだ。なんてったって子どもたちをはじめ、こんなにも多くの人が短歌や俳句の形で詩歌をつくり続けている国は、世界にもそうそうないんだからね。