高層億ションに住まわっていない。
だから眼下に見下ろす風景とは無縁。
けれど、たまに旅をして、
車窓の風景にひたることはある。
新幹線からの富士山を楽しみに
窓側に座る人が多いとも聞くが、
私は余り惹かれない。かわりに
山あいに突然現れる寺院の
荘厳な瓦屋根、あるいは
工場の錆びたトタンの三角屋根と
奥に覗く煙突から昇る排煙の
白いたなびきとのコントラストが
何故かその旅程全体への期待になる。
何の変哲もなく並ぶ住宅群の
庭のひとつで、麦藁をかぶり
手拭いを首にランニング姿の男が
烟草片手に空を仰ぐ一瞬だったり、
まるで新幹線と競争するように
白ヘルに制服の中学生が
自転車で並走する数秒もまた
見知らぬ地での不安を和らげる。
好きな女の子への告白権を
勝手に争っている二人だが、
憧れの当人は塾の先輩と既に良い仲。
自分は20年も昔にやめたけれど
去年逝った妻は最期までのんでいた。
彼女の月命日に偲んだ一服なのか、
初めて孫娘が一人で遊びに来るから
庭野菜を採ったあとの一息か。
すべて夢想だけれど、窓景色に
それらは目まぐるしくスライドする。
週末、義母の墓参りの鉄路。
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