はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

レスラー

2012-06-15 19:22:48 | 映画
レスラー スペシャル・エディション [DVD]
クリエーター情報なし
NIKKATSU CORPORATION(NK)(D)


「レスラー」

 花形レスラーランディも今は老いた。過去の栄光のおかげで弱小団体の地方巡業のトリを飾り、スーパーのバイトで食いつなぎながらなんとか生き延びている。プロレスにしがみつけている。妻子とは別れ、男やもめの一人暮らし。体のほうにはとっくにガタがきていて、あちこち故障や古傷だらけ。肌にハリがないのは、ステロイド中毒のせい。中身もボロボロなのだ。
 そんな折、試合後のロッカールームでアンディは突然倒れる。心臓が悲鳴を上げた。一命はとりとめたが、もう、リングには上がれない。ジョギングすることすらできはしない。
 そうなってみると、ランディの寄る辺は家族しかなかった。勇気を出して娘に会ってみたものの、彼女の心は冷たい氷で閉ざされていた。
 行きつけのバーのダンサーのアドバイスでもって娘に何度なくアタックし、なんとか仲直りに成功。スーパーのバイトをフルタイムにして生計を建て直し、第二の人生、再始動。
 と、思ったものの、そこから彼の転落は再び始まった……。
 ……おや? 再帰の話じゃなかったのか?
 脳裏に疑問符を浮かべながら見続けたものの、どうにもおかしい。
 約束を破ったことから再び娘と不仲になり、勢いでスーパーを辞め、マネージャーを騙して上がったリングの上で、彼の視界は急速に赤くなり……。

 プロレスに賭ける情熱やファンの盛り上がり。アングルだらけの舞台裏。ロートルレスラーの悲哀……様々な理由をつけてはいるものの、「リングの上でしか生きられなかったバカが死んだ」だけ。
 それが腹立たしくてしょうがない。
 どうして娘ともう一度やり直そうと思わないのか。スーパーで頑張ろうと思わないのか。昔のようなパフォーマンスを期待できない体でなんでリングの上に上がったのか。
 見ていてこんなにイライラする映画はひさしぶりだった。
 でも、このランディへの腹立たしさは、たぶん僕が彼のレスラー生活を知らないからだ。
 必殺技も、かつての戦友たちとの思い出も。彼を形成する様々な物事を知らないからだ。
 僕自身はプロレスが好きだ。とくに三沢が好きだった。社長であり、現役レスラーでもあった彼がリングの上で死んだときは、もちろん悲しかったのだけど、ぶっちゃけ泣いたのだけど、でも不思議と腑に落ちた。僕は三沢に社長なんかやってほしくなかった。リングの上の英雄は、やはりリングの上にいてほしかった。死んでほしいなんて思ったことはないけど、老いていく彼を見たいとも思わなかった。
 もしランディが三沢だったら。
 そんなことを思う。
 再びリングの上に上がる彼を止められただろうか。死に行く後ろ姿をあざ笑うことができただろうか。家庭関係や生活基盤がボロボロになって自棄になる彼をバカにできただろうか。
 ランディへの感情移入度。
 それが、この映画の出来不出来の分岐点なのだと思う。
 あとはそうだな、男子であること。差別をするわけではないけれど、これはアメリカの男の子の映画なのだ。

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