はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

60億分の1

2006-11-29 21:02:08 | 空手
 空手を習っている……というのもおこがましいほど浅い経験しかないが、ともあれ、空手を習っている。
 流派は四大流派のひとつ糸東流。会社の後輩が二十年間たしなんできたものを、会社の若手メンバーが集まり、勉強会のようにして教わっている。
 練習場は隣町の武道館。1時間300円の賃料で約3時間、1週間に2度ほど借りている。
 一礼をして武道館に入り、先生を前に正座。神前、先生に対して礼。黙想し、正面に対して礼。入念なストレッチ。その後、突き、受けの基本稽古に入る。
 なにせ運動はテニスとスキーしかやったことがないので、すべてが新鮮な体験だ。
 自分の身体の硬さも、足の裏の痛みも、普段使用しない筋肉の断裂も、とにかく発見の連続で面白い。
 フルコンタクトではないから本気でやりこそしないものの、一応組み手の練習がある。二十年選手の後輩はともかく、同僚にやられるとそれなりにムッとするわけで、ますます練習に身が入っていく。
 筋トレなど日常繰り返し鍛錬することに抵抗がない性分なので、家での自主トレは欠かさない。筋トレとのミックスで身体が悲鳴を上げ、汗だくになるまで型稽古に励んだあと入る風呂は、また格別だ。
 疲労の余韻を楽しみながら浴槽につかり、時々思う。古来から受け継がれてきた空手の歴史を支える末端になっていることを。枝葉どころか繊維の一本にすらなっていないことは承知の上だが、それでも、自分の中に少しずつ染み込んでいくもののことを思う。そして唐突に理解するのだ。この延長線上にあるもののことを。

「格闘技絶対王者列伝」布施鋼治

 男の子は夢を見る。強い自分。世界最強の男。だが成長するにつれて現実を知る。限られた骨格の中で、才能の下に、目標を低く押さえる。それが大人になることなのだと自分に言い聞かせながら、物分りのいい人間になっていく。
 わがままな男たちがいる。彼らはかつて夢見た自分の姿を胸に抱きながら、現在進行形で、果てしない切磋琢磨の中にその身を置き続ける。
 本作は、諦めなかった男たちのことを記した本だ。スポーツライターの目線から見た総合格闘技の成り立ち。とくに現役最高レベルの選手それぞれにスポットを当てた強さへの理解は、なるほどとうなずける説得力を持っている。
 主な選手としては。
 エメリヤーエンコヒョードル
 アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ
 ミルコ・クロコップ
 ヴァンダレイ・シウバ
 吉田秀彦
 桜庭和志
 菊田早苗
 五味隆典
 美濃輪育久
その他にGRABAKA、ロシアントップチーム、ブラジリアントップチームや、 アブダビコンバットなど特殊な団体、大会の説明など、興味深い記述も多い。
 60億分の1になる夢にとり憑つかれた男たちの生き様。それに魅せられた一人のライター。多様化する総合シーンのバックボーンとして、押さえておいて損のない1冊だ。