瀬崎祐の本棚

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猫まち 山崎るり子 (2022/09) ふらんす堂

2022-11-11 18:10:43 | 詩集
折り紙のような矩形の判型の388頁。カバーにはさかたきよこの猫のイラストが使われている。ブログに1年間毎日書いたという1行から8行程度の猫の作品366編が、日付とともに収められている。

     晴天
   猫が寝ている
   おばあさんが寝ている
   洗濯物が乾いていく
   どちらかがこのまま
   永遠に寝たままでも
   洗濯物が乾いていく

毎日が、猫。いつも、どこかに、猫。犬や猫にはほとんど関心がない私(瀬崎)には想像しがたいのだが、猫とともにある日常はそんなことになるのだろう。猫がいることによって風景が完成し、猫と交流することで思いも湧いてくる。猫の存在によってはじめて世界が存在しているかのような気持ちにもなるのだろう。

中には連作の形を取っているものもある。「ヨモタさんちの猫」は12日間にわたって書かれている。それは猫を捜して、待っているヨモタさんのお母さんの話である。月夜の晩にヨモタさんが帰ってこないお母さんを捜しに行くと、公園では猫が踊っていたのだ。

   その中の一匹 まるくなってしまった背中は
   猫に見えるけれどお母さんだ
   「そろそろ帰りましょう」ヨモタさんが手を引くと
   「あんたは冷たい手をしているねぇ」お母さんが笑う
              (「ヨモタさんちの猫 8」より)

毎日書かれた作品がそれぞれ一頁に印刷されているので、分厚い詩集は日めくりカレンダーのような趣もたたえている。

     外
   くびわもいらない
   なまえもいらない
   もうだれのものでもない
   あしのうらがざくざくする
   風、ああ
   においにおいにおいにおい

このような作品が作品として成立するためには、(私のように)猫に興味のない人にとっても作品として読まれる何かを孕んでいるか、ということになるのだろう。そうでなければ、作品は単に猫好きの人の独りよがり、自己満足、になってしまう。猫好きという立場を離れた地点でも立っていられるかどうか、それが問われるだろう。そういった意味では、本書に収められた作品はきちんと作品になっていた。
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