Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

ナポレオン

2023-12-11 | 映画(な行)

◼️「ナポレオン/Napoleon」(2023年・アメリカ)

監督=リドリー・スコット
主演=ホアキン・フェニックス ヴァネッサ・カービー タハール・ラヒム ルパート・エヴァレット

世界史の授業でナポレオンについて先生が話す時、サラッと出来事だけを話す方もいれば、偉人として業績の話を並べる人もいれば、独裁者としての一面を語る人もいる。フランス革命の後、政治体制が混沌としていたフランスをまとめあげた人物ではある。一方で王政からの解放と称して各国に攻め入った侵略者でもあり、最後は皇帝(王の中の王)を名乗った独裁者でもある。ナポレオンを語る上ではいろんな側面があるだけに、単純に話すのは難しい。たった一人のフランス人がヨーロッパ全土を引っ掻き回した数年間が年表に刻まれている。それはすごいことだし、恐ろしいことでもある。世界史の先生のひと言が生徒に歴史観を植え付けることにもなる。歴史ものの映画も同じだ。

それでは、我らがリドリー・スコット先生は、僕らにナポレオンをどう語ってくれるんだろう。これまでも十字軍、出エジプト、古代ローマ帝国、コロンブスなどなど、スコット先生は歴史ものを手掛けてきた。ナポレオンは語るべきエピソードが多いだけにたいへん難しい題材。頭角を現す若い頃や、特定の戦いに絞った映画化はこれまでもあった。スコット先生はジョセフィーヌとの出会いから失脚まで、かなり長い期間を160分弱に収めた。

ジョセフィーヌとのつながりが彼の精神的な面での支えになっていたことが描かれる。子供を授からないことから夫婦関係を解消した後も、ジョセフィーヌに手紙を書き、彼女の元を訪れることを欠かさない。戦術に長けた優れた軍師としての一面や、その圧倒的な戦果をバックにした強気の外交が描かれる一方で、決してタフではない面にも踏み込み、人間くさいナポレオン像に仕上げている。

ホアキン・フェニックスは、何かに取り憑かれたり、染まっていく変化ある役柄を演じさせたら確かに上手い。(大嫌いな)「ジョーカー」はもちろん、権威に執着するローマ皇帝(「グラディエーター」)、完全犯罪でアタマがいっぱいの大学教授(「教授のおかしな妄想殺人」)、精神を病んでいく聖職者(「クイルズ」)など名演が思い出される。本作でも権力を手中にして変わっていく姿が印象的だ。

しかしながら、語るべき多くのエピソードを尺に収めるために、描ききれない部分も多々ある。ナポレオンの何がフランスの民衆に支持されたのか。ナポレオン戦争はヨーロッパをどう変えたのか。また、前半ジョセフィーヌを絡めてナポレオンの人柄にあれだけ迫っていたのに、後半は手紙ににじむ孤独感こそあれ、急に客観的な目線になっているようにも思えた。いずれにせよ、スコット先生の語るナポレオンは、偉業たる光よりは年表に載らない影に、興味が向けられている。

それでも、これだけの大人数を使った合戦シーンを生々しく撮れるのは、監督の手腕あってこそ。砲弾が近くで炸裂して兵士が倒れる映画はこれまでもたくさんあったが、人だけでなく軍馬にも銃弾が当たる血生臭い戦場を映像化しているのはなかなか観られない。アウステルリッツの戦いでは凍った池に砲弾が撃ち込まれ、落ちた人々で水が血の色に染まる。その様子を水中からのアングルで捉える。悲惨なのにどこか美学さえ感じる印象的な場面だった。光と影、グロと美は、スコット監督の巧さ。

エンドクレジット前に、戦死者の数が示される。たった一人のフランス軍人がヨーロッパを引っ掻きまわした結果だ。それは功なのか罪なのか。フランスにもたらした光なのか、影なのか。日本でのキャッチコピーは「英雄か、悪魔か」。冒頭に述べたナポレオンの様々な側面あっての言葉選びなのだろうが、この映画で"悪魔"とは受け取れなかったのだが。





コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« なぜ、エヴァンズに頼まなか... | トップ | 007/美しき獲物たち »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。