Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

アイネクライネナハトムジーク

2019-09-29 | 映画(あ行)


◼️「アイネクライネナハトムジーク」(2018年・日本)

監督=今泉力哉
主演=三浦春馬 多部未華子 矢本悠馬 森絵梨佳 原田泰造

斉藤和義の「ベリーベリーストロング」は、作詞を依頼された伊坂幸太郎が短編小説で返したことから生まれたストーリー仕立ての名曲。これを聴くと涙腺が緩んでしまう僕にとっては、その続編と言える伊坂幸太郎の小説「アイネクライネナハトムジーク」はとても楽しい作品だった。あの歌の登場人物たちのその後が描かれた。手にシャンプーと書いてた女性、奥さんが出ていった先輩のその後。さらに主人公の友人やヘビー級王座に挑むボクサーも交えた、人と人をつなぐ「絆の話」。

伊坂幸太郎の小説はエンターテイメントだ。簡潔な言葉が脳内に妄想レベルでイメージを膨らませてくれる。しかし文章が持つ独特のテンポが、その膨らんだイメージをじっくり味わう暇を与えてくれない。気づくとどんどん読み進めて、活字の上を転げ回っているような楽しさを味わっている。伏線回収も彼の小説の快感だが、映像化してしまうと途端に都合のいい話に見えてしまう。いくつかの映画化作品にはどうしてもそう感じざるを得ないものがあった。

じゃあこの「アイネクライネナハトムジーク」はどうなのかと言うと、僕は都合のいい話には感じなかった。もちろんところどころにツッコミどころはあるけれど、10年に渡る物語が綺麗に収まっていく感じは観ていて心地よい。「フィッシュストーリー」や「ゴールデンスランバー」のようなスケールの大きな話ではなく、あくまで個人レベルの生きてく様子が本筋なので、ご都合主義というより、「さもありなん」と思えて終わる。意外性はないかもしれない、やっぱりねという結末だとは思う。でもそこに至るまでの紆余曲折、人生っていろいろあるから苦しいし面白い。斉藤和義の歌では巨大モニターの向こう側の人だったボクサーや、子供世代にまで及ぶ群像劇だが、人と人がつながる様子が何とも心地よい。同じ台詞を違った人が言っていたり、10年後の場面で似たシチュエーションになってたり。

主人公佐藤が求める劇的な出会いを、学生時代からの友人である織田は否定する。それよりも「あの時出会ったのがあの人でよかった」と思えることが大事だ、と。その出会いを、運命とか偶然とか必然とかどう思うかは本人の勝手。その出会いでつながる誰かを大切にできるか、大切にしたいかに、絆が深くなるかはかかっている。上映時間が終わる頃、スクリーンに向かっているあなたが、自分にとっての「つながってる誰か」を思い浮かべることができたなら、その人は出会ってよかったと思える人なんだと思う。これは斉藤和義の歌にもある通り「絆の話」。震災以降、僕らは「絆」って言葉を団結や連携めいて重く受け止めてしまいがちだけど、人と人がつながることはどこにでも誰にでもあること。その人とのつながりを大切に思えるなら、それはまぎれもないあなただけの「絆の話」になるはずだ。


アイネクライネナハトムジーク (幻冬舎文庫)
伊坂 幸太郎
幻冬舎
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