Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

玄海つれづれ節

2011-03-15 | 映画(か行)
北九州ロケの映画の中で、僕が特に好きな映画のひとつに吉永小百合主演の「玄海つれづれ節」がある。初めて観たのは大学1年だったかなぁ。「天国の駅」を観て、一夜にしてサユリストとなってしまった僕は、吉永小百合の新作というだけで前売り券を買って公開に備えた。あの頃、前売り券まで買って日本映画を観る、なんて行動をとるのは、角川映画かアニメ映画くらいだった気がする。外国映画かぶれの僕にとってはかなり珍しい行動だった。


これが前売りの半券。

でもあの頃「玄海つれづれ節」を観て強く印象に残ったのは、他ならぬ若戸大橋だった。大分出身の僕はなんとなく北九州に関心をもちながら育ってきた。それは松本零士の出身地であること、五木寛之の「青春の門」を夢中で読んだこと、そして東洋一と言われた立派な橋があるんだと幼い頃に聞かされてきたこと。まだ北九州に足を踏み込んだことがなかった僕が、若戸大橋をちゃんと観たのは実はこれが最初だと記憶している。洞海湾に架けられた真っ赤な橋。そこを闊歩するヒロインのイメージは僕の中に強く刻み込まれた。

最近、若松をロケ地とする映画をあれこれ観ていて、久しぶりに「玄海つれづれ節」を観た。この映画をひと言で表現するならば、気丈なヒロインが活躍する人情喜劇ってとこだろう。でもこの年齢で改めて観ると気づかされることがある。

ひとつは、映画愛がかなり込められた作品だということ。劇中登場する映画館、銀映館。この元俳優の経営者南篠京太郎を演じているのは時代劇スタアの伏見扇太郎。この作品が実に30数年ぶりの映画出演だったそうだ。東映時代劇の全盛期を支えた人物が、公開当時斜陽産業などと言われた映画館主を演じているなんてねぇ・・・。劇中その銀映館は解体されるのだが、この建物は実際に若松にあった映画館。「ニューシネマパラダイス」同様に映画館が壊される映画には、いろんな意味で泣かされる。また、「怪傑黒頭巾」なる映画が上映される場面があるが、主人公の一人風間杜夫はこのシリーズに子役として出演しているという楽屋おちも。

もうひとつは、主人公の女性二人をとりまく男たちが実はなかなかいい仕事をしていること。前述の伏見扇太郎もそうだが、今の自分の年齢で見ると男たちに共感できるところが随所にある。まずは「30年来の思いを叶えさせてくれよ~」と吉永小百合に迫る風間杜夫。情けない男やなぁ・・・とあの頃は思って観ていたけど、改めて観ると彼の懸命さと報われない思いが実に切ない。3人だけの同窓会の席に、岡田裕介(プロデューサー)が復縁を申し入れに来る場面の、風間杜夫の真剣な表情。映画のラストに思いを遂げられずに「ごめんね」と言われる場面もいいね。愛すべきダメ男。

一方、実力者を演じた三船敏郎がかっこいい。初めて観たときは大御所を脇に据えて・・・程度しか思っていなかったが、産業と街を支えてきた男の自信と信念が感じられて素晴らしい!。若戸大橋の上で、「この橋を架ける時には多くの人が反対しやがった。でもこうして車もたくさん走るようになったじゃないか・・・」と語る場面。若松という街もこうした男達に支えられてきたところなんだ・・・と思うとグッとくる。他にも京太郎に熱をあげてる妻を見て見ぬふりする今福将雄、妻に完全を求められることを重荷に感じる岡田裕介もいい。

あ、もちろん映画を彩る若松の風景も素晴らしい。銀映館や玄海荘の建物はもうないけれど、恵比寿神社や路地、南海岸の風景は今も公開当時の面影が感じられるはず。赤い橋の下で、そんな風景を探してみませんか。



コメント
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