北朝鮮の核実験報道の後、次のような事が国際政治の舞台ではささやかれたと言う。
「これで六カ国協議のメンバーの80%が核保有国になった」
「(核を持つのは)次は日本の番か」
なるほど国連安保常任理事五大国は全て核保有国であり、
六カ国協議にはその内アメリカ、中国、ロシアが参加している。
それに北朝鮮が核保有するとなると次に技術的、地政学的に言えば日本の名が挙がってもおかしくはない。
だだ一部にはこうも言われていた。
「日本の核保有論にピリピリしているのは日本以外の国で、肝心の日本は鈍感にも議論さえしていない」と。
ところが「中川発言」以来、突然降って沸いたように「日本核保有論」が喧しい。
注目したいのは中川政調会長は「核保有せよ」とは言っていない事だ。
核保有の功罪を議論することは必要だと言っているのに公明党や野党はこぞって「議論も不可」と全体主義国家のようなことを言っている。
では日本政府の基本姿勢はどうなっているのか。
日本の核に対する姿勢は全て「安倍一族」が絡んでいる。
憲法上は阿部首相のお祖父さん岸首相の政府見解で「核保有は可能」である。
だが佐藤首相の政策上の「非核三原則」によって「作らず 持たず 持ち込まず」となっている。
この非核三原則によって「核保有問題」は一昔前の「憲法論議」のように神学論争の対象となった。
核のことは議論するだに忌まわしいことなので議論さえ許さない。 核アレルギーだ。
核の攻撃に対しては、「日米安保」によるアメリカの核の傘に入ることによる「抑止力」と言う。
日本を取り巻く核大国の中国、ロシアに対して、核抜きのアメリカの傘の下に入っても抑止力にはならない。
「アメリカの核の傘」に入ると言う事はアメリカが核を持ち込むのには見てみぬ振りをすると言うことだ。
日本を取り巻く中国、ロシア、北朝鮮の核事情に目を閉ざして「日米同盟」と「非核三原則」は並立しない論理的矛盾を孕んでいる。
そうなると「有事の際、本当にアメリカは日本を守ってくれるのか」という議論が沸き起きる。 この議論は極左・極右両派から同じように起こる。
そこで「中川発言」の重要性が浮き上がる。
「核は持たなくとも議論する」⇒「メディアが核武装論として騒ぐ」
⇒「非核三原則は堅持するが、核はいつでも持てる」と言った印象」
⇒「これが抑止力になる」。
つまり「核議論」すること自体が核抑止力になるのだ。
日本の核武装を一番恐れるのは実はアメリカと中国なのだ。
その証拠に「中川発言」以後、ライス国務長官からは日本が攻撃された時は日本を守る」の言質を公式に取り付けた。
18日の麻生外務大臣との共同記者会見で、ライス国務長官は、
「(アメリカは)抑止力を含めフルレンジ(あらゆる分野で)日本の安全かを確保する意思と能力を持っている」と。
「中川発言」で慌てたもう一方の核大国・中国は急に本気になって北朝鮮説得にかかり出した。
議論もせずにお題目のように非核三原則を唱えるのは「抑止力」にならない。
「核保有を論議すること」は外交カードになる!
◇
中川政調会長と麻生外務大臣と安倍総理は「抑止力」の連係プレーをしていたのだ。
某月某日。 都内某所。
北の将軍様の暴挙を追い風にすべく、三人の男が密会。
AB将軍:「次のテレビ討論会でN君が例の発言をしなさい。キャラとしては君が言った方がテレビが一番騒いでくれそうだ。」
N奉行:「おやすい御用だが、薬が効きすぎた場合誰がフォローしますか」
A奉行:「それは私が援護しよう」
A将軍:「米国への立場上、私は従来通り三つの原則を繰り返す」
「後はマスコミが騒いで、野党がこれに乗ってくればめでたしだ」。
N奉行:「これで米国と中国が慌てて動き出すぞ」
A奉行:「これは今後も取引カードに使えるぞ」
N奉行:「議論も相成らぬとホザクバカどもの間抜け面が目に浮かぶワ」
AB将軍:「お前達もワルじゃのう」
N・A両奉行:「そう言う殿こそもっとワルでございます。
AB将軍:「ケッ ケッ ケッ!」
両奉行:「イッヒッヒッヒ!」
◇
切り出したのは中川自民党政調会長⇒「議論すべき」。
原則論でアメリカに配慮は安倍首相⇒「非核三原則を維持する」。
すかさず援護射撃は麻生外務大臣⇒「議論は封殺されるべきではない」。
この三人の確信犯にマスコミと雇うが乗って騒げば騒ぐほど、抑止力が効いてくる。
◇
産経抄がコラムにしては珍しく二日続いて「中川発言」を取り上げた。
◆成18(2006)年10月18日[水]
一体、何がけしからんというのか。自民党の中川昭一政調会長の「核発言」である。いや、こういう言い方が誤解を招く。中川氏はテレビ番組で、こう語ったのだ。「憲法でも核保有は禁止されていない。議論はあっていい」と。
▼北朝鮮の核実験発表を受けて、与党の政策責任者が、安全保障をめぐるタブーなき議論を呼びかけるのは当然のことだ。それを許さないという声が、野党や公明党だけでなく、自民党のなかからも相次いでいる。
▼与野党がこぞって、“言論封殺”に走る気持ちは、わからないではない。22日の衆院統一補選に与える影響を推し量っているのに違いない。確かに16日付小紙に掲載された世論調査では、「日本は核武装すべきか」という問いに対して、「すべきでない」の答えが82.4%と圧倒的多数だった。
▼問いが「議論すべきか」だったら、どうだろう。「すべきでない」が多数を占めただろうか。日本人の核アレルギーがいくら強いといっても、核廃絶を訴えるだけで、安全が保障されると信じている人はもはや少数派だろう。小欄は、米国に追従するな、と日ごろ主張している議員の皆さんの意見をぜひ聞いてみたい。「核の傘」から出た日本を守ってくれるのは何ですか、と。
▼すでに論壇では、中西輝政京都大学大学院教授らが、活発な議論を繰り広げている。「核武装論」そのものが「中国や北朝鮮に対してだけでなく『対米カード』としても有効に働く」からだ(『「日本核武装」の論点』PHP研究所)。「論」だけでも、ある程度の抑止力になるということか。
▼中川発言が、与党側の不利に働くと決めつけるのは早計だ。有権者の健全な国防感覚を見くびったら、手痛いしっぺ返しをくらうだろう。
◆【産経抄】10月19日
「中川発言」という瓢箪(ひょうたん)から駒が出たようだ。自民党の中川政調会長による「核保有の議論はあっていい」の一言が千里を走る。国内では妙なつぶてが飛んだと昨日書いた。今度は、太平洋と東シナ海も飛び越えて米中首脳も動かした。
▼ブッシュ大統領は日本の核保有について「中国の懸念を知っている」と反応した。中国とて北朝鮮の核保有を深く憂慮しているから、我慢してお手並みを拝見しようと持ちかける。来日したライス国務長官は「核の傘」で日本を守るからと、こちらも真剣だ。
▼米国でなくとも、核開発競争の到来は悪夢である。東アジアで核を独占してきた中国は、とりわけ日本の核論議には過敏だ。胡錦濤主席は北京入りした扇参院議長に、北を激しく非難してみせた。北の暴走には業を煮やしていることを、最大限アピールする。
▼要人の発言はときに、すさまじいパンチ力を持つものだ。かつて橋本首相が「米国債を売却する衝動に駆られる」と軽口を吐いたとたんに市場が乱高下した。意図した発言でなくとも、思わぬ戦略環境を生み出すから注意を要する。
▼実のところ、「中川発言」は国連の制裁決議よりも米中を本気にさせたのではないか。北に対する軍事的な圧力は米国以外に効き目はないし、経済の生殺与奪は中国が握っている。もっとも、薬も過ぎれば毒となるからほどほどがいい。
▼中国は北への貨物検査を実施し、中朝国境には長いフェンスも張った。専門家は北の自壊前に中国の介入だってあり得るという。亡くなった歴史家の木村尚三郎さんが『文明が漂う時』でいった一節が気にかかる。「クオ・ヴァディス・ドミネ?」(主よ、いずこに行き給(たま)う)が、今ほど強く響くときはない、と。
<産経新聞>
中川氏の「核保有論」、民主・鳩山氏「あるまじき発言」(朝日)
民主党の小沢代表と菅直人代表代行、鳩山由紀夫幹事長は17日、党本部で協議し、北朝鮮の核実験について「周辺事態法に基づく周辺事態とは言えない」と結論づけた。中国やロシアも核実験をしていることを念頭に核実験のみでの認定は困難との見方で一致した。
政府・与党は周辺事態と認定するかどうかの検討を進めているが、小沢氏は「核実験を行う意図を持っていることは大変けしからん話だが、それをもって周辺事態と認定するのは極めて無理がある」と述べた。
また、鳩山氏は同日の党の「次の内閣」の会合で、核保有の議論をめぐる中川昭一自民党政調会長の発言について「断じて日本の国民の発言としてあるまじき発言。唯一の被爆国だからこそ、核廃絶の方向で世界をリードしていく日本でなければならない。『あいつが持ったらおれたちも持つんだ』という議論は決して日本から発出してはならない。封印しなくてはならない議論だ」と強く批判した。
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