最近、興味深い人間を目撃する機会が増えたので、
試みに「にんげん図鑑」シリーズを展開してみようと思う
記念すべき第1弾は「段ボールの蓋を閉めない女」
横澤夏子的なシリーズに育ったらいいな。…知らんけど
最近、職場近くの小さな事務所を閉めるという仕事をした。
雑居ビルの2室を使った小さな事務所。
異動して早々の引っ越し業務にため息が出かかったけれども、
物量も事務量も知れていて、
正直、自分の家の引っ越しよりなんぼか楽だった。
その、引っ越し作業での出来事。
この事務所、ほかの組織との寄合所帯だったので、引っ越しもよその会社の人との共同作業。
カウンターパートに当たるA子さんは、多分私よりちょっと年上。
きりりとつり上がった細い目にしっかりアイメイク、
細身の体型にきれいめの服装で、見た感じは隙がなく、
ただ、初対面の時から声だけはガラガラで、ひどい風邪を引いているようだった。
そんなに喉が辛いんだったら、無理してしゃべらなくても、
と思ったのは最初の内だけで、
結局その後1月近く経っても、カスッカスの声に変わりはないので、
あれは、彼女の地声なのかも知れない。
年不相応な(とは限らんけれど)細い身体と、それを覆い隠すような外見と、
カスッカスの声に代表される不健康さ。
ちょっと甘えたようで、すぐに誰かの悪口や噂話につながるねっとりとした京都弁。
正直、最初から印象は良くなかったのだけれど、
どうやら私の前任者は働きが良くなかったらしく、
彼女の方に分がある、という評価が大勢を占めていたので、
「最初は謝っといてな」と言われ、下手に出るしかなかった。
けれども。
最初の1週間で気が付いた。
どうやら、彼女の方にもだいぶ問題があることに。
考えたり、調整したり、物事を進めたりするのが得意でなく、
人の話もあまり耳に入っていなくて、何度も同じ主張をする一方で、
目の前の出来事に振り回されがちで、
やるべきことを一つずつ片付けていくことがとても苦手だということ。
にもかかわらず、それらを人のせいにし、自分は被害者だと信じさせることに
一定期間、成功していたようだ、ということに。
ビルからの退去期限はひと月後と決まっていたし、
作業がほとんど進んでいなかったので、
私は、4月に入るとすぐに、作業をリストアップして、片っ端から片付けて行った。
A子さんはほかにもたくさん仕事を抱えているらしく、
レスポンスは超絶悪く、電話にもほとんど出ない。
時々、居留守を使っているのは分かっていたけれど、
催促されるのが嫌になる位、返事が滞っていたのだもの、仕方がない。
それで、新人の私が、物品リストから何から作成し、引っ越し業者も手配し、
一応おうかがいを立てながら全部お膳立てして、迎えた、荷造りの日。
A子さんは、部下を二人引き連れてやってきた。
・・まあ、ここまでは想定の範囲
キレイなおべべを汚すのも嫌でしょうし、たくさんの作業を一人でやるのも苦痛なはず。
この時までには、荷物の仕分けはある程度できていたので、
作業は別々に進めることにした。
2時間ほどすると、A子さん「会議があるから」と途中退席。
バタバタと忙しそうに帰っていった。・・まあ、これも想定の範囲。
多分、次の会議にも少し遅れて「ごめんなさい」と言いながら、忙しそうに入っていくのだろう。
驚いたのは、残って作業をしていた二人が帰る間際のこと。
せっかく荷造りした段ボールの蓋を閉じていない。
「A子さんが最後に確認してから閉めると言っているので・・。
多分、休日出勤して確認しようとしてるんじゃないかと思いますぅ。」
と従順そうなB子さんが言う。
部下に仕事を任せて出て行ったはずなのに、
荷造りすら任せ切れずに、自分で最後に確認する、って一体なんだ
しかも、翌週、荷造りの仕上げのため、事務所に向かったら、
段ボールは、相変わらず、フタが開いたままだった。
おかしい。
どうやら、A子さんは、休日出勤して中身を確認し、フタをする、
という作業に至らなかったらしい。
そうやってまた、部下を引き連れてやってきた。
…なんのこっちゃ。
忙しそうにして「もう仕事がいっぱいあるんですよ~」と嘆くA子さん。
深夜や休日にメールの返信をくれるA子さん。そんなに働いているのに、
電話一本で済む用事が済んでいなくて、どんどん積み上がっていくA子さん。
そりゃ、そうだ。
人に任せて終わりにできる仕事を、絶対手放せなくて、
あの日、フタをしてしまえば、終わったはずの仕事のために、
もう一度みんなで来るなんて。そりゃ、仕事も倍かかるはずだ。
一つの仕事に2倍も3倍も時間を掛けて、
他人にやらせて、他人に頼って、
それなのに、他人を信用していない。
ひっさびさに、こんなに仕事ができひん人見たわ・・
と、正直思うけど、
こんなに「自分」にがんじがらめで
「自分はできる」と証明してみせなきゃ不安で
だから仕事を抱え込み過ぎて(いや、自業自得なんやけど)、
できるはずのことも出来なくて、いつもアップアップしているなんて。
と、気の毒にも思う。
まあ、けれども、彼女は私の同情なんていらないだろうし、
そういうことに気付きもしないだろう。
アップアップでいつもマックスがんばっている自分、
に生き甲斐を感じているのかもしれない。
あのね。でもね、フタは、早めに閉めた方がいいよ。
と、段取り上手な私は、そう思っている。
試みに「にんげん図鑑」シリーズを展開してみようと思う
記念すべき第1弾は「段ボールの蓋を閉めない女」
横澤夏子的なシリーズに育ったらいいな。…知らんけど
最近、職場近くの小さな事務所を閉めるという仕事をした。
雑居ビルの2室を使った小さな事務所。
異動して早々の引っ越し業務にため息が出かかったけれども、
物量も事務量も知れていて、
正直、自分の家の引っ越しよりなんぼか楽だった。
その、引っ越し作業での出来事。
この事務所、ほかの組織との寄合所帯だったので、引っ越しもよその会社の人との共同作業。
カウンターパートに当たるA子さんは、多分私よりちょっと年上。
きりりとつり上がった細い目にしっかりアイメイク、
細身の体型にきれいめの服装で、見た感じは隙がなく、
ただ、初対面の時から声だけはガラガラで、ひどい風邪を引いているようだった。
そんなに喉が辛いんだったら、無理してしゃべらなくても、
と思ったのは最初の内だけで、
結局その後1月近く経っても、カスッカスの声に変わりはないので、
あれは、彼女の地声なのかも知れない。
年不相応な(とは限らんけれど)細い身体と、それを覆い隠すような外見と、
カスッカスの声に代表される不健康さ。
ちょっと甘えたようで、すぐに誰かの悪口や噂話につながるねっとりとした京都弁。
正直、最初から印象は良くなかったのだけれど、
どうやら私の前任者は働きが良くなかったらしく、
彼女の方に分がある、という評価が大勢を占めていたので、
「最初は謝っといてな」と言われ、下手に出るしかなかった。
けれども。
最初の1週間で気が付いた。
どうやら、彼女の方にもだいぶ問題があることに。
考えたり、調整したり、物事を進めたりするのが得意でなく、
人の話もあまり耳に入っていなくて、何度も同じ主張をする一方で、
目の前の出来事に振り回されがちで、
やるべきことを一つずつ片付けていくことがとても苦手だということ。
にもかかわらず、それらを人のせいにし、自分は被害者だと信じさせることに
一定期間、成功していたようだ、ということに。
ビルからの退去期限はひと月後と決まっていたし、
作業がほとんど進んでいなかったので、
私は、4月に入るとすぐに、作業をリストアップして、片っ端から片付けて行った。
A子さんはほかにもたくさん仕事を抱えているらしく、
レスポンスは超絶悪く、電話にもほとんど出ない。
時々、居留守を使っているのは分かっていたけれど、
催促されるのが嫌になる位、返事が滞っていたのだもの、仕方がない。
それで、新人の私が、物品リストから何から作成し、引っ越し業者も手配し、
一応おうかがいを立てながら全部お膳立てして、迎えた、荷造りの日。
A子さんは、部下を二人引き連れてやってきた。
・・まあ、ここまでは想定の範囲
キレイなおべべを汚すのも嫌でしょうし、たくさんの作業を一人でやるのも苦痛なはず。
この時までには、荷物の仕分けはある程度できていたので、
作業は別々に進めることにした。
2時間ほどすると、A子さん「会議があるから」と途中退席。
バタバタと忙しそうに帰っていった。・・まあ、これも想定の範囲。
多分、次の会議にも少し遅れて「ごめんなさい」と言いながら、忙しそうに入っていくのだろう。
驚いたのは、残って作業をしていた二人が帰る間際のこと。
せっかく荷造りした段ボールの蓋を閉じていない。
「A子さんが最後に確認してから閉めると言っているので・・。
多分、休日出勤して確認しようとしてるんじゃないかと思いますぅ。」
と従順そうなB子さんが言う。
部下に仕事を任せて出て行ったはずなのに、
荷造りすら任せ切れずに、自分で最後に確認する、って一体なんだ
しかも、翌週、荷造りの仕上げのため、事務所に向かったら、
段ボールは、相変わらず、フタが開いたままだった。
おかしい。
どうやら、A子さんは、休日出勤して中身を確認し、フタをする、
という作業に至らなかったらしい。
そうやってまた、部下を引き連れてやってきた。
…なんのこっちゃ。
忙しそうにして「もう仕事がいっぱいあるんですよ~」と嘆くA子さん。
深夜や休日にメールの返信をくれるA子さん。そんなに働いているのに、
電話一本で済む用事が済んでいなくて、どんどん積み上がっていくA子さん。
そりゃ、そうだ。
人に任せて終わりにできる仕事を、絶対手放せなくて、
あの日、フタをしてしまえば、終わったはずの仕事のために、
もう一度みんなで来るなんて。そりゃ、仕事も倍かかるはずだ。
一つの仕事に2倍も3倍も時間を掛けて、
他人にやらせて、他人に頼って、
それなのに、他人を信用していない。
ひっさびさに、こんなに仕事ができひん人見たわ・・
と、正直思うけど、
こんなに「自分」にがんじがらめで
「自分はできる」と証明してみせなきゃ不安で
だから仕事を抱え込み過ぎて(いや、自業自得なんやけど)、
できるはずのことも出来なくて、いつもアップアップしているなんて。
と、気の毒にも思う。
まあ、けれども、彼女は私の同情なんていらないだろうし、
そういうことに気付きもしないだろう。
アップアップでいつもマックスがんばっている自分、
に生き甲斐を感じているのかもしれない。
あのね。でもね、フタは、早めに閉めた方がいいよ。
と、段取り上手な私は、そう思っている。