木村忠啓の大江戸百花繚乱

スポーツ時代小説を中心に書いている木村忠啓のブログです。

肥桶ひとつ 中身の値段は?

2008年04月27日 | 江戸の風俗
お待たせの第2段(????!)
お食事前の方と、興味のない方は、くれぐれもお読みにならないように。
前回は、渡辺信一郎氏の「江戸のおトイレ」から排泄の「小」についてピックアップしたが、今回は、「大」である。氏の筆は淡々としているが、ますます冴え渡る。

お姫さまでも 左お捻じり

「ほとんどの辞書には載っていないが」と断りを入れながら、「江戸時代で、左ねじりとは、人糞の異称であった」という。
今風に言ったら、「アイドルでも 左ねじり」であろうか。高貴なお姫様でも、排泄は人並みであろうと言う句である。「お捻じり」と「お」を付けているところが丁寧である。
寛政年間の小咄集「軽口四方の春」からの「奥様の野遊び」と題された小噺もえぐい。
断っておくが、尾篭な話である。以下、引用。

れきれきの奥様、野遊びにお出になされた時、とても顔色が悪く見えたので、腰元どもが心配して、「どこかお悪くございませぬか」とお尋ねすれば、「いやいや、どこも悪くはないが、うらむきへ行きたい」とおっしゃるゆえ、「そんなら、ここなる野雪隠へなりともお出になさりませ」とお薦めする。お入りになると、じきに出られたから、なぜにと問えば、「下に大きなばばがしてある。後に入った人が、わたしのだと思うと恥ずかしい」。腰元が「それならば、下に延紙をたんと撒き散らして置いて、その上になさりませ」と言うと、奥様は成るほどとて入る。しばらくして、殊の外不満足な顔をして出て来られる。腰元がどうでしたかと聞くと、「お前の言う通りにしたが、紙の上にしたわたしのばばは、下のよりもまだ大きかった」

この「江戸のおトイレ」は、厚い本ではないが、薀蓄はすさまじく、江戸のトイレ百科事典と言ってもいいような内容である。おならに関する項目も面白いのだが、女郎屋の次の句も凄い。

女郎屋の後架 摘入汁(つみいれじる)に海苔

後架はトイレ、摘入汁とは魚肉と小麦粉をすりつぶして団子状にして煮た汁である。女郎がよく食べたらしい。この句の作者は、物好きにも穴の中をしげしげと眺めたのであろう。
この先も渡辺氏の知識はとどまるところを知らないが、これ以上は、引用するのを遠慮しておく。

最後に同著の中から、薀蓄をひとつ。
長屋の後架に溜まった汚物は、近隣の農家が引きとり、代価が支払われた。その代価は、大家の取り分になったのであるが、どのくらいで取引されていたのであろうか。
渡辺氏は、幕末近くの「守貞漫考」と、それより九十年以上前の「武野俗談」の二書を引いて、類推している。前書によると、十軒の肥代が年二、三分。後書によると、百軒の肥代が年八両とある。一両=四分=四千文であるから、一軒当たりに換算してみると、前者が三百文、後者が三百二十文。肥代は、時代によって大きな隔たりがあったというが、平均してみると、こんなものなのであろう。
ここで、私流であるが、一両=12万円と考えると、一軒当たりの年間肥代は9000円、月750円(二十五文)となる。そばが十六文であるから、一軒当たりの肥代では、月二杯は食べられなかった計算になる。
蛇足ながら、現代では、吉野家の牛丼が確か380円だったと思うので、牛丼二杯くらいの値段か。
さて、渡辺氏であるが、汲み取った肥桶、一つあたりの単価まで弾き出している。それによると、1つの桶が三十三文であるということだ。先ほどの計算式を当てはめると、桶ひとつ1000円という計算になる。

参考:渡辺真一郎「江戸のおトイレ」 新潮選書

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