木村忠啓の大江戸百花繚乱

スポーツ時代小説を中心に書いている木村忠啓のブログです。

注文の多い客

2007年05月14日 | 江戸の味
 時折、朝から米をがんと食べたくなる時がある。
 そんな時は駅前の「松屋」に行って納豆定食を食べる。
 家でも同じようなものが食べられるのだが、「外食をする」という儀式によって、無意識のうちに生活に変化をつけようとしているのかもしれない。
 今朝も、その「時折」の日だった。
 少し早めに家を出て、「松屋」に向かう。
 大阪にいた頃は、毎日ベンツで「吉野家」に乗り付けるおじさんとか面白い人がいたのだが、こちらではあまり見ないな、と思っていた。
 それが今朝のこと。
 僕が納豆定食を食べていると、かなり年輩の男性が入ってきた。
 年の頃で70は越えている。
 ダークグレーのスーツに、紺のネクタイ。顔には黒縁の眼鏡を掛けている。
 パシッ、という感じでもないが、よれてもいない。
 どこかのお偉いさんとも、隠居してやることの少なくなったおじさんとも判断つきかねる。
 への字に結ばれた口のせいで、頑固そうに見えることは確かだ。
 その老人は、食券を買わずに椅子に腰掛けた。
 「お客さん、食券をお願いします」
 若い店員から、お約束通りの声が掛かる。
 「いや、販売機ではあかんのや」
 それに対し、関西弁が返った。
 「???」
 考え込む店員に対し、
 「とろろ二つ、生卵、ごはんに、みそ汁つけて」
 と老人は慣れた口調でそう言うと、千円札を手渡した。
 「はあ」
 とよく飲み込めない店員に、
 「とろろはその容器じゃない。そっちの大きいやつに。海苔はいらん」
 と言ったかと思うと、
 「ごはんはもう少し入れて」
 と、自宅のように老人は注文をつけた。
 その間にも客は入り、店員はかなり困窮していた。
 やっと、注文の多い客をさばききったかに見えた店員だが、
 「お釣り、はようくれんか」
 老人の一言に奥に応援を求めに行ってしまった。
 
 僕も一回、こういった注文をしてみたいのだが、なにか恥ずかしいやら、めんどくさいやらで未だしたことがない。
 「ご飯とみそ汁、漬け物ね」
 なんともJAPANESE LIKEじゃないですか。
 みなさんも、一回チャレンジしてはいかがですか?