読書日記

いろいろな本のレビュー

ヒトラーに抵抗した人々 對馬達雄 中公新書

2016-01-05 09:37:09 | Weblog
 最近ヒトラーとナチスドイツに関する本が多く出版されている。狂気の独裁者に民衆が取り込まれていく中で、レイシズムによる民族撲滅が起こり、未曾有の犠牲者を出したことの反省を踏まえ、現代の政治の鑑としたいという思いがあるのだろう。逆に言うと、それほど昨今の国内外の政治状況が危惧されているということだろう。
 ヒトラーは合法的に権力を掌握したと言われるが、戦後、ナチ犯罪人の裁判の中で、反ナチ抵抗の問題を正面から受け止めた検事長のフリッツ・バウアーは犯罪人の論告の中で次のように述べる、曰く、「第三帝国」はその形式からすると、権力を不法に手中にした合法性を欠く権力であった。その権力を正当化する授権法には全投票の三分の二が必要であったが、違憲的手段で共産党の議席を無効と宣言し、それを可能にしただけである。しかも43年には失効するはずのものが、総統命令で延長された。だが、ヒトラーにその権限はなかった。ヒトラーとその政府は法的根拠もなくドイツに存在していたのであると。そうであるならば、ナチに対する反逆罪は存在せず、反ナチ抵抗運動は当然のこととして正当化されるという論法である。
 ヒトラーこそは非合法に権力を掌握し、ドイツを破滅に追い込むサタンであるという認識はドイツ人の中にも湧きおこって、これを亡きものにしない限りドイツ並びに世界に明日はないと考え暗殺計画が立てられた。しかしどれも失敗に終わり、関係者は厳罰に処せられた。特に1944年7月20日に行なわれたヒトラー暗殺の軍事クーデターは映画にもなって有名だが、軍人の家族に対しても連座制が実行され悲劇になった。しかしこの状況の中で命を賭して立ちあがった勇気ある人々の存在は、人間の尊厳を実証するものとして称賛に値する。
 暗殺計画の首謀者を裁く民族法廷で被告のハンス=ベルント・フオン・ヘフテン(H)と裁判官のローラント・フライスラー(F)のやりとりの一部をあげる。
 F ところで、国民が苦労し軍の幾多の指揮官たちが命がけで闘っている中で、総統への忠誠を逸脱することを、裏切りというのではないかね、貴殿はそうは思わないのか?
 H ご指摘の忠誠の義務を私はもうとっくに感じてはいません。
 F なんと!貴殿が忠誠を感じないとはっきり言うのであれば、裏切りではないか。
 H いいえ、違います。総統の世界史的な役割についてですが、要するに総統は巨大な悪の実行者だというのが、私の考えてきたことです。
                          (以下略)
 ヘフテンの言葉に我々は勇気づけられる。また反ナチ市民グループ「クライザウ・サークル」のメンバーのアドルフ・ライヒバインが処刑前に11歳の娘に宛てた手紙は「いつでも人には親切にしなさい。助けたり与えたりする必要のある人たちにそうすることが、人生でいちばん大事なことです。だんだん自分が強くなり、楽しいこともどんどん増えてきて、いっぱい勉強するようになると、それだけ人々を助けることができるようになるのです。これから頑張ってね、さようなら。お父さんより」涙なくしては読めない手紙である。
 ヒトラーの巨悪とはこれら市民一人一人の人生を奪ったことを指すのだ。政治は個人を無化するから怖ろしい。
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