読書日記

いろいろな本のレビュー

昭和陸軍の研究(上・下) 保坂正康 朝日新聞出版

2018-11-03 13:18:03 | Weblog
 日中戦争から太平洋戦争に至るまで日本陸軍は様々な重要事件に関与して最後に敗戦による解体となったわけだが、その官僚制と天皇親政による権力行使の弊害は多くの兵士・民間人の犠牲を生みだした。太平洋戦争末期は陸軍のみならず海軍のありようも俯瞰しての通史となっている。上巻では張作霖爆殺事件と関東軍の陰謀から始まって、満州国建国、日中戦争、ノモンハン事件、真珠湾攻撃、ガダルカナル戦、山本五十六(連合艦隊司令長官)の戦死などが描かれる。下巻ではゼロ戦パイロットたちの戦い、インパール作戦、特攻隊員はいかに作られたか、沖縄戦、を始め敗戦時の指導者の様子、巣鴨プリズンでの軍事指導者たち等々、丹念な取材によるレポートは海軍も含めた旧日本軍の通弊を暴いて見せる。本書は1999年初出の単行本の2018年の選書版である。通読して感じるのは陸軍士官学校・陸軍大学出のエリートが兵士の実態・心情を理解せず、机上の空論に近い作戦を実行したことである。かつて司馬遼太郎はノモンハン事件について、その愚かな作戦を自身の戦車兵の経験をもとに批判していたが、今改めてこの組織の欠点を実感した。ペーパー試験を何番で合格して何番で卒業したかで将来の出世が決まるシステムは官僚制を助長するばかりで、軍隊の指導者を育てることにはならない。海軍兵学校も同じだが、優秀な生徒を兵士にするのだからそこに創意工夫が凝らされないとただの殺人指導者になってしまう。日本陸軍はこの意味で、野郎自大的に中国大陸に攻め込み、満州国を建て、中国の無辜の民を絶望の淵に追い込んだ。無謀な作戦に駆り出された日本軍兵士もある意味犠牲者である。
 この愚かな戦争で指導的立場にいた者は、東京裁判で裁かれたが、逆に責任を転嫁して生き延びた者も多いと言うことが書かれていた。たとえばインパール作戦で生き延びた兵士は戦後、著者のインタビューで「一兵士として牟田口廉也中将をどう思っているか」と尋ねたとき、それまでの温厚な口ぶりは一変して、「あの男を許せない。戦後も刺し違えたいと思っていた」と激高したとある。この無謀な作戦を主導した牟田口中将は陸士・陸大でのエリートであったことを思えば、先ほどのペンを持ったら強いが、後は、、、、という問題になってくる。このような指導者に問答無用の軍隊を指揮させることは非常なリスクだが、当時はそれがまかり通ったのである。シビリアンコントロールが効かないのは非常に怖い。
 本書はいろんな話題を提供してくれるが、私の印象に残ったのは、日本は情報戦においてアメリカに負けていたという話である。山本五十六の戦死はその象徴だと言うのだ。つまり、日本の暗号はすべてアメリカに解読されており、山本長官の日程も敵側に筒抜けで、長官の乗った一式陸攻は敵の戦闘機P38二十四機に待ち伏せされて撃墜された。これは日本にとって大きな痛手だったが、暗号が解読されていることを日本側は知らなかったというのだから恐れ入る。日本は彼の死を客観的に分析して反省材料を見つけ出すべきであったのに、それをやらなかったばかりでなく彼の死を隠蔽しようとさえしたという。これは国民の衝撃を和らげようとする意志の表れだが、撃墜された山本の最期を見た捜索隊兵士たちは、その事実を語らせまいとするかのように、やがて前線に送られていった。それは著者によると、山本の最期の姿は、大本営発表と海軍大臣の放送の枠内で了解されなければならないという意図があったからだという。こういう連中に死を強要されてはたまらない。神風特攻隊はこの人命軽視の極致と言うべきもので、負の歴史として今後も語り継がれることが必要だ。
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