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四国八十八ヶ所感情巡礼 車谷長吉 文藝春秋

2008-11-03 11:41:39 | Weblog

四国八十八ヶ所感情巡礼 車谷長吉 文藝春秋



 車谷が夫人の高橋順子と四国八十八ヶ所を二ヵ月半かけて正味徒歩で巡礼した旅日記だ。端々に鋭い世相批判が込められていて、退屈しない。まず徳島と香川のゴミの不法投棄の多さに閉口して、知事は一体何をしているのかと一喝する。そして歩行者優先が保証されていない車優先社会を嘆く。さらに巡礼を車でお手軽に済ます手合いに、絶対極楽浄土へは行けぬであろうと広言する。地獄へ落ちることは必定と。また巡礼を男女の出会いの機会と捉えるともがらにも、いい加減にせいと怒る。まさに感情巡礼の面目躍如足るものがある。
 車谷は究極の私小説作家で、モデルにされた人はひどい迷惑を被ったことが知られている。訴訟問題になったこともある。しかし、この毒が彼の文学の核であり、アイデンティティーである。今回の旅はそれらの人々に対する懺悔の旅でもあるという。内輪の恥を暴露するという病気は今回も健在で、三月十三日(木)の冒頭に「このお遍路にに来てからはじめて、ゆうべ順子さんのお乳とお尻をなでなでした。」とある。これがあるからファンはたまらないのだろう。
 日記には時と場所に関わらず「うんこ」をする記述があり、苦笑を誘う。これは自身、強迫神経症を押さえる薬の副作用で便秘になり、それを防ぐために下剤を飲まざるを得ないので、かような事態になっているとのこと。まさに身を削る思いで文章を紡ぎだす作家の宿命を感じる。彼は人生の岐路で常に苦しい方を選択してきたと言う。多分極楽浄土へ行けるだろう。

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