読書日記

いろいろな本のレビュー

送り火 高橋弘希 文藝春秋

2018-10-11 09:25:32 | Weblog
 第百五十九回芥川賞受賞作である。本小説はいわゆる「転校生もの」のカテゴリ―に入るが、抒情が乾いた感じで無駄な感情移入がない分読みやすく、淡々とした記述は作者の才能を感じさせる。「転校生もの」では、選考委員の山田詠美氏が多くの作品を残しており評価が高い。例えば『ひよこの眼』という作品は高校の教科書にも載っており、高校生に感動を与えている。私自身はこの作品はあまり好きではない。作為が見え見えだからだ。
 中学生の歩(あゆむ)は父親の転勤で青森県の片田舎の中学校に転校してきた所から話が始まる。青森は父親の出身地で、これが最後の田舎回りで、卒業後は首都圏の高校に入る予定だ。歩は以前東京で暮らしたこともあり、いわば都会人の田舎探訪という趣向だ。歩の入った中学は統廃合寸前で、三年生は20人足らず、一二年生は複式授業というありさま。従って多数の生徒にまぎれるということができず、交遊関係で退路がなく全面的に向き合わなければならない。その生徒の中で、晃がグループのボスという感じで歩むに接近してくる。普通だったら転校生はいじめに遭うことが多いが、このグループで苛められているのは稔である。晃はグループを率いていかさま花札をし、稔が負けるように仕組んで、罰として食べ物を買ってくるように命じる。晃は一見優等生的で暴力的ではないところが不気味だ。いつ歩に牙を剥くのか読者はスリリングな気持ちで、話の筋を追うことになる。この辺がうまい。都会人が田舎の土着人に遭遇してその暴力性に遭遇するというのはハリウッド映画にもよく出てくる。古くなるが、サムペキンパー監督の『わらの犬』(ダスティン・ホフマン主演)などがその好例である。田舎に引っ越した若夫婦がそこの不良に襲われるという話だ。
 本編も晃がどのようにして歩に攻撃を加えるのかと思っていると、最後はその中学の卒業生たちが広場に集まり晃や稔などの後輩を集めて、いろんな道具を使って曲芸を強要するという場面になった。歩もここに呼ばれ、クオーツの腕時計を横井という男に取られる。稔と仁村という男が花札の罰ゲームで曲芸をさせられているが、稔は手に持った道具で、晃を攻撃しようとする。稔の復讐を恐れた晃は子どものように泣きながら逃げていった。実は晃は学級のリーダーではなく、先輩たちからいじめられる、ただの弱虫のいじめられっ子だったのだ。そして稔は「お前が一番気に入らなかったんだ」といって歩に襲いかかってきた。中学の卒業生たちを中心に繰り広げられる暴力の宴という感じでこの小説は終わる。その描写力は素晴らしく、映画を見ているような錯覚を覚えるぐらいだ。「転校生もの」としては稀有な作品と言ってよい。
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