このところよく読ませていただいている白井智之さんの最新作、「エレファントヘッド」の
順番がようやく回ってきました。
現実逃避な白井ワールドへ引きずり込まれること必至の作品群、この作品もご多分に漏れず、
加速度を増して磨きがかかっているようです。相変わらずグロい描写は日常茶飯事で、
こちらの都合はお構いなしにレッドゾーンまで振り切っているにもかかわらず、これが
不思議なことに、あまり不快な思いをせずに読み進められるのです。語り口を間違えば、
嫌悪感しかないはずなのに… いつものことながら、よくぞこんな筋書き、トリック
(殺人手段)を思いつくものだと感心こそすれ、猟奇的な表現には目をつむれるのです。
しかもこの作品では、脳内世界や精神世界の領域にまで踏み込んでいることで、
設定がさらに細分化、高度化し、私の頭ではついていくのが大変でした。主人公の
精神科医が分裂して、時間軸がずれた世界で複数存在し、要所要所でたびたび合流、
合議して行く末を決める様子は、たとえばアニメ作品の「乙女ゲームの破滅フラグ
しかない悪役令嬢に転生してしまった…」で、ヒロインのカタリナ・クラエスが5人の
人格を駆使して脳内会議を繰り広げる場面とオーバーラップしてしまいました。
白井さんは、このアニメから着想を得たってわけではないんでしょうけどねえ。
それぞれが微妙に別人格、誰が誰なのかごっちゃになり、私の理解が追いつかず、
ついていけていない場面もありました。
事の真相が明らかになるにつれ、相当陰惨な事件だったことが判明しだします。
エグい犯罪(犯行手口)であるにもかかわらず、なぜか陰にこもらず、さらっと
読み飛ばせるのは、白井さんの筆力がなせる業か、それともポップでライトな
語り口が、残忍さ、暗さを紛れさせるのか? 朝日新聞の書評には、「持ち味の
グロさ満載なのに、なんと美しい本格ミステリーなのかとため息をつく」と
あります。
どこまで連れて行ってくれるのか、次作にも期待しかありません。
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