治しやすいところから治す--発達障害への提言

花風社・浅見淳子のブログ
発達障害の人たちが
少しでもラクになる方法を考える場です。

カーブの先の上り坂 ミッション×2の鹿児島旅行ご報告 その3

2023-09-12 09:41:43 | 日記
翌朝、私たちは7時に朝食。
彼女はすでにチェックアウト。
朝食会場に入るとき「消毒だけおねがいしま~す」とか言われました。鹿児島はまだ2022年なのかしら。
とは言っても私はマスクほど消毒が嫌ではなく、やったふりくらい付き合うのですが、夫は首を振って消毒を拒絶。まともな自己肯定感があれば「やってます感」の演出道具になるのは拒んで当たり前なんですが、なかなかきっぱり断れる人はいない。
さすがに職場でもノーマスクでやり通した人は強いですわ。

鶏飯とカレーとどっちも食べたいな、と迷っていたら
「どっちも食べたら」と夫。
そうだな。
そしてこの判断は後から考えるとつくづく、つくづくよかったです。

8時になっても電話はかかってこない。
無事整理券をゲットしたと思われます。
そして9時半過ぎ、ホテルから港まで自転車を走らせていたとき、ガーミンが着電を告げました。愛甲さん。私は歩道に自転車を乗り入れ、コールバックしました。つながりません。

結局愛甲さんとつながったのは錦江湾の上。フェリーに乗っているときでした。デッキに出て海風を浴びながら、診察がうまくいったことを聴きました。
愛甲さんがいたおかげで、神田橋先生は治療方針等かなり詳しくご説明くださったようです。ありがたいことです。
彼女は今後、健常者として生きていくのです。
その方が治るからです。治るためにこそ、健常者として生きていく。

というわけでほっとして、桜島を走り始めました。
といっても私は病み上がり。別に一周しなくても行けるところまで行くことに。「とりあえず長渕の像が建っている広場を目指そう」と言ったのですが、あっさり着いてしまいます。
もうちょっと先に行こう、もうちょっと先に行こう、と言っているうちに10キロくらいまでは来てしまいました

ここまでくるのもアップダウンがありました。
何しろここは火山なのです。ぐるっと島を囲む国道も、アップダウンが合って当たり前。坂が多いのは、誰のせいでもありません。
これから引き返すと、またあのアップダウンを逆にたどりなおすことになる。
ここで引き返せば往復20キロ。引き返さないとこの先30キロ。難しい決断でした。

グーグルさんに今後の展開を教えてもらいます。
山の裏側(大隅半島側)は山道が続く。そしてでかい山を一つ越えるとそのあとは平らな道で港に着く。
私たちは一周することを決めました。

以前桜島を観光したときに開いていた道の駅や売店、ずいぶんつぶれていました。
コロナ禍は本当に罪深かったですね。
私たちは水はたっぷり持っていたし、自動販売機はあちこちにありましたが、食料の補給はできませんでした。いやそのうち、そもそも食欲がなくなるくらい心拍数が上がったわけですが。
途中かろうじて仕入れた小みかんキャンディーをなめながら、山道を上る。
カーブも多い。

カーブがあると希望を持ちます。
このカーブの先には下り坂があるのではないか。少しは楽ができるのではないか。
それは当たっていることもあれば、上った先にさらに上り坂があって、がっかりしてしまうこともある。
でもこれが人生なのです。
そしてこれが脳の機能なのです。

次の本の著者のドクターに習ったこと。
脳の機能。それは「予測し、現実に直面し、誤差を修正していくこと」なんだそうです。
そうやって経験値を積み、脳は発達していく。
だから失敗は成長のもとなのだそうです。
失敗すると「チャンスだ」とドクターは喜ぶそうです。

これだなあ、と思いながら必死で山道を走りました。
あのカーブを曲がれば、ラクになるかもしれない。
でも、カーブの先も上り坂かもしれない。
そして、遠くから見ると、きつい上り坂に見えても、案外するっと上れてしまうこともある。

私がたどってきた道もそうだった。
ここを乗り切れば楽になる、と思っていたらさらに試練が待っていたり
大変だ、と思ったら案外するっと乗り切れたり。
それは異常なことでもなく、不幸なことでもなく
それが人生なのでしょう。

そして今、明日から健常者として生きる彼女にも教えてあげよう。
カーブの先にあるのは、さらなる上り坂かもしれない。
そこでがっかりする。そして誤差を修正する。それが発達なのだと。
TODOリストに終わりはない。でもそれが生きているということなんだと。

「最後には平らな道になる」というグーグル情報にしがみついて走ってきましたが
最後の最後に漁村的な風景が出てきたとき
そうだこれがジャパンだった、と思いました。
山があり、たまには下りもあるけど、それは山の終わりじゃない。
漁村的な風景が出てきて初めて、本物の平らな道になる。それがジャパン。今後、どこを走ってもそうでしょう。
山の中の下り坂に、ほっとしないようにしよう。
こうやって私の脳みそは一つ誤差を修正しました。

港に着き、ふたりでどや顔2ショット自撮りをしました。
そして自転車をたたんでいると、地元のおばあさんが話しかけてきました。「それ自転車なの? どこから来たの?」「これで今島を一周してきたんです」「一周って・・・疲れたでしょう」おばあさんはぺちぺちと私を叩きました。島の人で、今船で帰ってきて、お迎えを待っているんだそうです。外から来た人にこんなに人懐こくて、でもなぜかマスクをしているおばあさんズがいっぱいいる令和五年の夏の不思議。

フェリーに乗る前、「ソフトクリーム食べる?」と夫がききました。いや、いらない。今は何も固体は食べたくない。とにかくホテルに帰ってお風呂に入りたい。
私たちはフェリーで本土に向かい、そこからまた自転車でホテルに帰り、お風呂に行く前に、一口だけビールを飲みました。乾杯。

それからまたお風呂&洗濯。湯上りの部屋でテレビを見ながら洗濯機が終わるのを待ちます。
そしてスマホでぽちぽちLINE。彼女の旅をスポンサーしてくれたご実家に診察結果のご報告です。
ご実家としても、長年悩んでいた。何かしてやりたかった。でも、医療は一生治らないとしか言わない。
それ、嘘ですから、と私は言いました。そして介入しました。その仕上げとして、鹿児島に行きましょうと言いました。
ずっと何かしてあげたかったから、こういうチャンスが出てきたときには、喜んで旅費を出してくれたのですね。
報われる方向に向かうようでよかったです。

ガーミンが記録していた当日の記録。





ごらんのとおり、島はただ丸くそこにあり、道はただその周りを走る。それにアップダウンがあるのは、誰のせいでもありません。
丸いのでカーブがあります。カーブの先に待っているのが上りなのか下りなのか、それはわかりません。
でもそれは残酷なことでもなんでもない。
ただこの世界が三次元なだけ。
そしてその空間を自力で移動するのが人生というだけです。

平らな道や下り坂はすいすい走れます。
上り坂はひいひい言いながら上ります。
ガーミンが私のすいすい・ひいひいを記録しています。
これを見てわかるのは
上りでも下りでも永遠には続かない。
普通に健常者をやっている私たちの脳は、日々の生活を通じてその学習を自然に積んでいるはずです。

洗濯も済み、やっとおなかが空いてきました。
夫は焼酎をボトルでとりました。さつまあげ、鶏刺、カツオたたき、黒豚餃子、きびなご、と言った薩摩の味で乾杯!
獲得標高はしまなみ海道を越えるサクイチ(桜島一周)。
思いがけず成し遂げてしまった私たちは祝杯を上げました。
美味しい、美味しいお酒でした。

続く


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