日々気になる事を記します。共感してくださる方もそうでない方もちょっと立ち止まって考えて頂ければ、うれしいです。
http://takedanet.com/2011/03/33_4343.html
原発 緊急情報(33) なぜ、雨の後、放射線が下がらないのか?
(簡単ですがご質問が多いので、解説をしておきます。春休みも終わりに近づき、今後、お子さんをどうしたらよいかとお考えの方も、このことは直接的ではありませんが、大きな参考になりますので、お読みいただければと思います。)
20日前後に降った雨の後、各地の放射線の濃度が大きく上がりました。その後、放射線の濃度が下がらないのでご心配になっている人が多くおられます。
まず原理原則を話します。
福島原発から出る放射線物質は、核爆発で起こったものですから、多くの放射性物質を含みます。その中にはヨウ素のように半減期の短いものと、ストロンチュームなどの放射性物質のように半減期が30年のものとがあります。
半減期の短いものは最初の段階でどんどんなくなっていきますし、半減期の長いものはずっと放射線の強さは変わりません。
原子炉から近い福島県で降るものは、放射線の濃度は高いのですが、まだ半減期が短いものが多いので、放射線は減少していきます。
これに対して、東京などの遠いところは、福島原発から出た後、かなり時間がたって東京に流れてきて、しかも東京の上空にしばらく滞留してから雨で落ちてきますので、半減期の短いものはすでにあまりないのです。
核爆発でできる放射性物質の多くは半減期が30年ぐらいありますから、一旦雨で地表に落ちるとそのあと急速に減少するということはありません。
ただ、東京の場合にはコンクリートやアスファルトで覆われていますので、激しい雨が降ればあらい流されるかもしれません。雨が降らなければ、原則的には道路や壁等に放射性物質がついていますので、なかなか放射線が減らないということになります。
このようなことに多くの方が疑問に持つのは、 NHK 等で「福島の放射線の減少だけを説明している」ということにもあります。
現在、東京など福島原発からやや遠いところは、放射線は規制値より少し低いところにあります。しかし、急速には減っていかないでしょう。
(平成23年3月27日 午前9時 執筆)
武田邦彦
http://takedanet.com/2011/03/post_aea1.html
放射線の専門家に自重を求める
テレビ出られて福島原発の放射線について「安全だ」と言っておられる専門家の方に自重を求めたいと思います。
わたくしたち原子力の専門家は、原子力や放射線の正しい利用を進めるために、国際的な勧告や放射線障害防止に関する法律を厳しく守ることを進めてきました。
決してレントゲンや CT スキャン等だけを参考にして安全性を議論してきたのではありません。また、1年間の被曝量で規制値を決めても、それは1年間ずっと続く場合だけではなく、規制値を超える場合には、危険があると考えて良いということだったのです。
委員会では、半減期はもとより、元素の種類による身体への影響等極めて詳細で厳密な議論を経て決めてきたのです。
確かに国際的な基準になっている空間の線量率が1年に1マイクロシーベルトという数値、WHO が定める食品の放射性物質の量など、日本の委員会では厳しすぎるという意見があったことは確かです。
しかしわたくしたちはそのような議論を経て、現在の基準を作ってきたのです。
特に私が問題だと思うのは、3ヶ月に1.3ミリシーベルトを超える場所は「管理区域」として設定し、そこでは放射線で被爆する量を管理したり、健康診断をしたりするということをわたくしたちは厳密に守ってきました。
福島市においては瞬間的な線量率が1時間に20マイクロシーベルと程度まであがり、現在でも毎時10マイクロシーベルトのレベルにあります。この線量率は、文科省の測定方法を見ると外部被爆だけであって、規則に定める外部被曝と内部被曝の合計ではないと考えられます。
今後、内部被曝などを考えると、毎時数マイクロシーベルトの状態が2、3年は継続すると考えられます。
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一方、福島市には、幼児や妊婦も生活しておられます。また、1時間だけの被曝量を言っても、その人たちは24時間ずっと生活をしているのです。たとえ屋内にいても換気をすればあまり差はありません。
放射線障害防止規則による妊婦の被曝量の限界は毎時約0.5マイクロシーベルトですから、私達専門家は福島県の東部の多くの市町村において、妊婦等の避難を勧告する立場にあるのではないでしょうか。
現在ではむしろ政府より放射線の専門家の方が「安全だ」ということを強調しているように見えますが、むしろ放射線の専門家は国際勧告や法律に基づいて、管理区域に設定すべきところは管理区域に設定すべきといい、妊婦の基準を超えるところでは移動を勧めるのが筋ではないかと思います。
その上で、政府や自治体がどのように判断するかというのは放射線の専門家の考えるところではないとわたくしは思います。
政治家やメディアでは「国民を安心させなければいけない」と言っていますが、現実に法律で定められた規制値を超えている状態を安全といい、それで安心していいというよりもむしろ、現実をそのまま伝えて判断を社会に任せるべきと思います。
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また我々は学問的立場で考えていますので、各々の専門家に各々の考え方があることは十分に知っています。
わたくし自身が国際勧告のレベルは少し厳しいと考えている人間ですが、しかし、放射線防護に関する日本の法律も50年を経ています。その間、十分に検討を尽くされてきたのです。わたくしたちは原発問題とか社会問題とは切り離して、厳密に放射線と人体への影響を考えて発言していかなければいけないと思います。
特に核分裂生成物に汚染された土地は、長寿命半減期の元素によって線量率は直ちに下がらないと考えられます。このような場所に長く生活しなければならない子供たちのことも考えて発言をお願いしたいと思います。
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むしろわたくしたちは、福島原発の事故がもたらす新しいこと、例えば東京のようなコンクリートとアスファルトで固まったところにどのくらいの残留放射線が残るかとか、福島第一、3号機のようにプルトニウムを燃料として用いている原子炉の放射性物質の影響等を至急検討する必要があると考えています。
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2011年3月26日のあるテレビの番組を見ていましたら、今まで「安全だ」と断言していた人が「私の言っている「安全」というのは東京だけだ」と最後にご発言になったのに強い違和感を覚えました。
東京が人口も多く、重要なことはわかりますが、最も危険なのは福島県とその周辺であり、安全だと発言されるには福島県の人のことを考えなければならないと思うからです。
わたくしの経験では、原子力や放射線を扱っている方々は決して不誠実な人ではありませんでした。むしろ会議等を行っている時にわたくしは、皆さんが十分に考え放射線の身体に対する影響を少しでも減らそうと努力されていると思っていました。
その我々の専門家の雰囲気をぜひ思い出していただきたいと思っています。
(平成23年3月26日 午前9時 執筆)
武田邦彦
http://takedanet.com/2011/03/post_9ba3.html
「安全な原子力推進派」は異端? 私のスタンス
「どうしたら被ばく量を減らせるか」という重要なときに基本的な話をするのは何となく気がひけますが、メールのご質問も多くありますので、原子力の推進と反対についてわたくしの考えを述べます。
原子力には推進派と反対派がいて、推進派の中でも、何が何でも推進という人と安全な原子力を推進したいという人と2種類があります。
反対派の方も、原子力は安全じゃないから反対と、人生観や思想的に絶対に反対という人たちがいます。
つまり、
1) 何が何でも推進
2) 安全な原子力なら推進
3) 原子力は不安全だから反対
4) 何が何でも反対
のグループがいるという訳です。
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日本社会は少し過激になるところがあり、現在の原子力関係では、「何が何でも推進」と「何が何でも反対」の人達が力が強く、私が考える妥当な見方、つまり上の2と3は排斥されるのです。
わたくしは「安全な原子力なら推進」という考えです。つまり、これから原子力を推進していくためには、事故が起これば推進することができないというのがわたくしの考えです。
わたくしは原子力安全委員会専門部会で「地震で倒れるような原発をよくない」と主張したのですが、そのような考えは現在の原発の議論の中では「異端」なのです。
また、現在の原発の地震指針は、原発を守るようになっていますが、付近住民の被曝についても、付近住民を被曝からどのように守るかという点でも、汚染された状態の生活をどうするかということも全く考えられていません。
福島原発の受け入れに当たって、福島県は近くの住民に、逃げる手段を作ったり、子供のいる家庭に安定ヨウ素剤を配ったり、汚染されたときに農家がどのように生活するかということを考えてなかったと思います。
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東電は原発をつくり、それを運転することが使命ですが、自治体は住民を守ることが使命です。従って自治体が「原発は安全だ」という東電の約束をそのまま受け取ること自体がおかしいのです
飛行機を例に取りますと、飛行機を飛ばすときには万全を期して墜落しないようにします。しかし、人間のすることですから墜落することもあります。
飛行機に乗ると、毎回、スチュアーデスが非常時に取るべき行動を乗客に説明します。その乗客はその飛行機が墜落したら命を失うかも知れないのですから、説明は大変にシビアです。それでも飛行機が落ちる事のことを考えて防御するというのが責任者のやるべきことなのです。
福島県の知事は東電に対して腹を立てているようです。もちろん、東電の失敗を責める必要はありますが、自分たちも住民の安全を守ることを考えていなかったということから出発しないと福島県の人は被害を大きくするのではないかと心配しています。
自治体の役割は、「そこに住む人たちの命を守る」ことです。命を守ることを東電に預けるのではなく、自分たちでパラシュートを用意する必要があったのです。
福島県とか福島市という自治体は何のために存在するのでしょうか。このような非常時でこそ、住民の命を守って欲しいものです。
これは全国の原発を持つ自治体にもいえることです。原発の安全性は国の方で保証するのですが(当てにならなくても自治体では判らない)、各自治体は原発が仮に事故を起こした時に、できる限り住民が守る計画をもっていなければならないとわたくしは考えています。
良く原発を受け入れる自治体が独自に「安全の検討」などをしていますが、それより「非常時の対策」を作るのが第一の役割と考えられます.
自治体は電力会社を信用してはいけないのです。それは電力会社が悪いのではなく、そのような役割を負っているのです。
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わたくしにしてみれば、「安全な原発推進派」というのは「墜落しない飛行機は賛成」というのと同じですから、当たり前のように感じますが、それが異端になるという日本の状態を変えなければならないと思っています。
(平成23年3月25日 午後10時 執筆)
武田邦彦