活字の海で、アップップ

目の前を通り過ぎる膨大な量の活字の中から、心に引っかかった言葉をチョイス。
その他、音楽編、自然編も有り。

料理ひときわ エエ器  味な人たち

2010-03-04 23:56:37 | 活字の海(新聞記事編)
記:門上武司(食雑誌「あまから手帖」編集顧問)
写真:望月亮一
2010年2月9日(火)毎日新聞勇敢 3面 夕刊ワイドより
コラムタイトル:味な人たち
サブタイトル:料理ひときわ エエ器
取り上げられた人:佃達雄(古美術商)



先日。
初めてのお店で、ランチを食した。

南欧風?の。
白漆喰とチャコールブラウンの樫の木で作られた、シンプルな壁。
天井から吊るされた照明も、決して華美なものでなく。
落ち着いた店内の雰囲気と、よくマッチしたものが配されている。


やがて。
出てきた料理は、意表を衝いた和テイスト中心のもの。
でも、それが不思議と違和感無く味わえる。

それどころか。
両者のアンマッチが、思わぬ相乗効果を生んで。
視覚と味覚に幸せなマリアージュをもたらしてくれる。

その、両者の出会いを取り持ってくれるもの。
それが、”器”である。


どんなにおいしい料理でも。
それが、プラスチックのお皿に盛られていれば。
雰囲気としては、大幅原点間違いなしである。

勿論、TPOというものはあるけれど。

河原でのバーベキューや、花見のブルーシートの上では、そうした
容器こそが食欲をそそるツールともなろう。

そうした場に、魯山人の器を出したとしたら。
不可能ではないにせよ、合わせるシチュエーションを作るのには、
大変なコーディネートの準備が必要となるだろう。
#それはそれで、決まれば物凄く格好いいんだけれど。


当たり前の話なのだけれど。
器というものは、視覚、触覚、舌覚いずれにも絡んでくるものであり。
料理において、とても大きな位置づけを占めているものである。

その器を大事にしない料理など、有り得てよい筈が無い。


そう。
言うことは、簡単なのだけれど。


実際に、お店を切り盛りする人の身になってみれば。
自分のお店に合った器を、予算の範囲内で探し出し、揃えることは
生半な努力で出来ることではあるまい。

勿論。
時間と費用が無限に使えるのであれば、そうした苦労も半減するのだろうが。
実際には、開店までの限られた時間と予算を持って。
それらを選択し、取り揃えていくには。
お店の立地、仕入先、メニュー、客層、営業時間…。
その他、考えねばならぬこと、準備せねばならぬことが山積する料理人は、
多忙過ぎる身である。

そうした人をサポートしてくれる存在として、筆者がお勧めする人。
それが、今回取り上げた佃達雄さん。

古美術商という肩書きから。
骨董品ばかりを相手にしているような印象もあるが。

そして、それは実際のところそうなのだけれど。

そうした骨董の中から、本当にお店に合ったものを選び、アレンジする。

そうした目利きが出来ることも、この人の凄いところなのだろう。

勿論それは、高価なものを取り揃えるという意味ではない。

その店の財布事情に合い、かつその店の雰囲気に合った。
そうした一品を探し出してこなければならないのである。

この人の語った台詞が、格好いい。

「ただ店はスキッとして、エエ器があれば気持ちがいいでしょう。
 エエ器は高いだけの器やありません。
 そこに合ったモンということです」


この古美術店。
なんと、週に土曜の午後しか開かない、という。

他の曜日は、骨董探しに駆け回る日々なのだとか。
依頼人から注文を受けて、その品を探し回る。
そうした日々は、確かに骨董屋としての時間だろう。

でも。
それだけではなくて。
先に挙げたようなポリシーを以って。
飲食店のプロデュースまで行うこともある、というのだから。

お願いした場合に、どれほどのコンサル料金が必要なのかは不明
だけれど、もし僕が万一お店を開くようなことがあれば。

是非、お願いしてみたい。

そう、思わせる力を有している。

そんな、魅力を持つ古美術商。
それが、佃さんのお店である。


そのお店には。
いわゆる、商品を陳列する棚というものは無い。

お客は、たたきから入ると、その奥にある和室に座って、器を眺め、
吟味をする。

あくまで、日常の空間で器を見つめることで、その器の本質を見抜いて
もらう。

そして、そこで気に入ったら買っていただく。


そうした、亭主の考えなのだろうか。

だとすれば。
なんと、素敵なお店ではないか。

(この稿、了)


(付記)

冒頭で紹介したお店。
それが、大阪は天満橋にある、「隠れ家食堂チアリ」である。


興味を持っていただけた方は、是非一度お足運びを。

決して、後悔はさせません。

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