2020年東京五輪・パラリンピックでは、大会終了後の景気後退をいかに回避するかも焦点だ。1964年の前回東京五輪では巨額のインフラ投資が実施されたが、大会後は反動で深刻な不況に見舞われ、倒産企業数は3倍に急増。政府は年末に決める来年度の予算編成で20年大会後をにらんだ景気対策を視野に入れる見通しで、予算獲得に向けた駆け引きは既に始まっている。

 64年大会経費の総額は民間資金も含めると9873億円で、当時の政府一般会計予算の約3割に達した。ただ、このうち大半は東海道新幹線や首都高速道路などのインフラ整備費。これらは日本の経済成長や社会生活を支えるレガシー(遺産)として、今日に至るまで重要な役割を果たしている。

 しかし、五輪投資は負の足跡も残した。翌年には「特需」の消失を一因とする「(昭和)40年不況」が発生。倒産企業数は開幕前年の1738社から6141社に急増し、経済成長率は63年度の10.4%から65年度の6.2%へと落ち込んだ。政府は景気対策の財源として戦後初の赤字国債の発行に踏み切り、現在まで続く国の借金依存に道を開く形となった。

 20年大会でも約3兆円の関連投資が予定され、終了後の「景気の崖」を危ぶむ声は少なくない。政府が6月下旬にまとめた経済財政運営の指針「骨太の方針」では、自民党一部議員の強い働き掛けで「五輪後の経済成長を確かにする」ための公共投資が盛り込まれた。財務省幹部は「事業の必要性はしっかり精査しなければならない」と安易な財政拡張は容認しない構えだ。

 ◇64年五輪で劇的変化=通信、テレビ、トイレ事情も

 1964年の東京五輪は、五輪史上初めて競技記録がリアルタイムで伝えられ、カラーテレビの普及や下水道整備も一気に進むなど、生活に密着する品々が大きく変わる転機となった。2020年大会でも次世代通信規格「5G」や高精細な映像など、革新的な技術が身近な存在となることへの期待は大きい。

 64年大会で日本アイ・ビー・エム(IBM)は、それまで数カ月を要していた公式記録の集計・確定作業を、コンピューターを使い即時に分類・計算し、速報する世界初のシステムを構築。その後の産業界が、生産性向上に向け相次ぎ導入していくオンライン化の端緒となった。

 開会式、閉会式のほか、柔道、バレーボールなど8競技がテレビでカラー放送された。当時、カラーテレビは1台50万円前後(21インチ型)と高額で販売は伸び悩んでいたとされるが、「競技をカラーで見たい」という人々の思いがその後の需要を喚起したことはよく知られている。

 下水道の整備は水洗トイレの普及を後押し。旺盛な建設需要に対応するため、浴槽、洗面台、トイレが一体となった「ユニットバス」もこの時期に誕生した。和式に比べ設置しやすい洋式トイレが採用され、現在では国内で一般世帯普及率が8割に達するという温水洗浄便座がヒットするベースがつくられた。

 TOTOは、20年大会の観戦のため訪日する外国人に温水洗浄便座などを体験してもらい、「快適な日本のトイレ文化を世界に発信していきたい」としている。 』