[見張りの日々]
曲者の兇賊と医師・吉野道伯(渡辺丹後守の腹違いの弟)の繋がりを把握する。
1章
高橋勇次郎に油断があって、曲者の一刀は、高橋の左股を切り裂いた。しかし、高橋を信じてなかった同心・沢田が、みよし屋から尾行していたので、沢田の助けで二の太刀は避けられた。
曲者三人は逃げた。
<なぜ、高橋は襲われたのか>
2章
同心・松永が、「突きとめました。突きとめました」と繰り返し、笹屋へ駆け込んだ。
「駕籠の武士は、湯島天神下の武家屋敷の奥の瀟洒な門の中に消えました。 近くの絵師・石田竹仙を訪ねて、その屋敷は、以前は表御番医師を務めていた吉野道伯という者の屋敷だそうです」
と平蔵に報告した。
表御番医師は幕府の医官で、権威も大きく、大名家の治療にもあたるが礼金は莫大なものである。
平蔵は、吉野道伯と聞き、権兵衛酒屋を襲撃の折り、捕えられて役宅内の牢屋で心の臓の発作で息絶えた浦田浪人が言い残した「よ、し、の」のことではないかと思った。
そこへ、同心・沢田が高橋勇次郎が襲撃され、一命は取り止めたと報告した。
平蔵は、このわしを討った高橋の口を塞ぎ、曲者どもヘリ関わりを消してしまおうとしたのであろうという。
3章
翌朝、平蔵は、虚無僧姿で笹屋を出た。 行き先は、父親の時代から懇意にしている表御番医師の井上立泉の屋敷だ。
平蔵は立泉から驚くことを聞いた。
「先ごろ亡くなられた七千石の大身・渡辺丹波守様は、道伯殿の腹違いの兄だと聞き及んでいます」
丹波守直義の父直幸が、どこかの女に産ませて成人したのが道伯ということである。 期せずして、長男直義も、奥向きの女中に子を産ませ、これが永井家の伊織である。
「のちに、道伯殿が御番医になってより、腹違いの兄の丹波守と対面の事があって以来、交誼が絶えなんだと聞いています」
4~5章
平蔵は、お熊の店へ寝泊りするようになってから五日ぶりに役宅へ戻った。
その翌日の午後、同心・小柳と密偵の五郎蔵の報告が入った。平蔵を満足させるものだった。
一昨年の秋、高級小間物補・平松屋宗七方へ兇賊どもが押し込み、家族・奉公人合わせて10人ほど惨殺し、金品を奪って逃走している。
その平松屋が、渡辺丹波守屋敷へも出入りしていたので、平蔵は、丹波守屋敷に限定して出入りする大商人を洗うように命じた。
そして、吉野道伯屋敷の見張りを引き揚げ、丹波守下屋敷の見張りに念を入れるように指示した。
6章
三日後になって渡辺丹波守屋敷へ出入りの商人の大半が判明した。
その中に、平蔵が、これぞと思う商家が二店あった。 呉服太物商・伊勢屋と菓子鋪・加賀屋である。
中屋と平松屋の犯行から推してみて、盗賊どもの格好の餌食になりそうに思われるものである。
与力・佐嶋に、この二店の見張り所を設けるように命じた。
7章
平蔵は、網をしかけた場所を一つ一つ見廻ってみようと思い立って役宅を出た。
まず、丹波守下屋敷へ行ってみた。
同心・松永から、道伯の小者が丹波守下屋敷に連絡〔つなぎ〕にあらわれましたが、下屋敷から浪人は外へ出ていないと報告した。
そのとき、権兵衛酒屋を襲った浪人が一人入って来て、しばらくして出て来たので、平蔵は、密偵の駒蔵を連れて後を尾けた。
次の節「汚れ道」に続く