T.NのDIARY

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1622話 [ 「ファーストラブ」のあらすじ 9/? ] 2/27・水曜(曇)

2019-02-26 11:11:53 | 読書

 『「ファーストラブ」のあらすじ

 第八章 初恋の人

[信頼してた初恋の相手、小泉裕二]

 面会所に入りながら、裁判も近づき、あと何回ここに来るだろうと思った。それだのに、環菜は母親のことをあまり語らず自分が悪いといったことばかり言う態度に、終始している。

 私は、こちらだってプロだ、いつまでも好き勝手にことは言わせないと思いながら対応する。

「私からいくつか質問があります。あなたの腕の傷のことだけど、お母さんに自傷癖があることを打ち明けたことは?」

 環菜の顔色が変わった。

 振り払うような口調で、『いえ』と否定した。

 私が「どうして?」と訊く。

『どうしても、なにも。ていうか、何の話だか分かりません』

「じゃ、質問を変えます。デッサン会に来ていた五十嵐さんという人に、元彼の話をしていたそうだけど、その元彼って誰? フルネームはまだ覚えている?」

 さすがにびっくりしたようだったが、

『それは、12歳のときに付き合った人で』と、こちらからの質問に、『足を怪我したときにコンビニでアルバイトしてた大学生に助けられた』と少しづつ話し出した。

『………。 あんなに優しくされたことはなかったから。恋愛で一番いい思い出なんです、私の。………。三か月ほど付き合っていて裕二君と言います』 

 あとは、手紙に書きますと濁した。

 最後に、もうひとつ質問させて、

環菜さん、あんたは本当にお父さんを殺すつもりだったの?」

 数秒、数十秒、環菜は沈黙する。沈黙は退出の合図だった

 環菜からの手紙が意外にも三日後の職場に届いた。

【 真壁先生

  裕二君との話を書きます。私の初恋の相手で、はじめての彼でした

  ………。

  母が留守のとき、私は鍵をかけたまま、昼前まで寝てしまい、帰宅した父に

 もの凄く怒られ、耐え切れなくなった私は、財布だけ掴んで家を飛び出しました。

  ………。

  雪の降る中、転んでひざを擦りむきました。………。

  コンビニの店員さんが絆創膏を貼り終えるのを見ていました。

  たぶん私は、そのときには、もう彼を好きになっていたんだと思います。

  胸の名札に、小泉、と書かれていました。

  ………。

  あの晩の出来事が夢だったか現実だったか、今では私にもよく分かりません。

  狭いけど片付いた部屋で、甘いコーヒーを飲ませてもらったこと。

  布団が一つしかなくて一緒に寝ることになったこと。

  彼に、ぎゅってしたいって言われたから、付き合うならいいよ、と答えたこと。

  ………。

                    聖山 環菜 】

 手紙を読み終えた私は、パソコンで小泉裕二という名を検索した。

 しかし、ダメだったので迦葉に依頼した。

 迦葉は、本当のことが知れるなら、探してみる価値があると思うと言って了解した。そして、南羽さんが証拠として油絵を亭主っしてくれることになったと告げた。

 1週間もしないうちに、迦葉から、小泉裕二君が見つかり、和光市のゲームセンターの店長をしているらしいとの電話があった。

 私は辻さんと一緒に、小泉さんが指定する区民会館へ赴き、彼と面会した。

 私は、「環菜さんに告訴する意思はありません。話したくないことは伏せていただいても結構ですから、当時のことを話してもらえないか」とお願いする。

 小泉は、『今は家庭も持っていて、ネットから個人情報が洩れて特定されないとも限らないから、お断りします』と言う。

 私は重ねて発言した。

「私は臨床心理士として、環菜さんの内面に何が起きていたかを知るために、こうしてお話を伺いに来ました。小泉さんが環菜さんと出会った雪の晩に何があったのか。それを知ることで、少しでも環菜さんの回復に役立てたら、と思っていたのです」

『回復って、環菜ちゃん、そんなに悪いんです?』

 彼は不意を衝かれたように訊き返した。

「精神状態は余り好くありません。それでも状況を考えれば、落ち着いているほうと思います。ただ、彼女の記憶にはいくつか欠陥が見られます。それを埋めに来たんです。小泉さんのことは、初めてできた恋人だと私は聞いています。彼女と初めて会った晩から別れるまでのことをお話しいただけますか?」

 彼は、コンビニの前で環菜が蹲ってるのを見たのだと話し出した。

 

『怪我の手当てをして………。ファミレスで一緒に軽く飯食って、その後どうしたいかと訊いたら、一緒に連れて行ってほしいって言われて、俺のアパートに連れて帰りました。

 寝るときになったら布団が一組しかないことに気づいて、一緒でもいいかと訊いたら、いいよって普通に明るく言われたから。布団の中でも、最初は冗談半分だったが、足まで寒いっていうから爪先挟んであげたりして。遊んでいたつもりが、ふざけて抱き合ったりしてるうちにエスカレートして、つい服の中まで触っちゃったみたいな。

 でも、そのときに俺を見た目が誘ってるとしか思えなくて。明け方まで、そのまま触ったり止めたりを繰り返していました。

 ………。

 それでも最後まではさすがにまずいって俺が、朝になったら帰りなよって言ったら、環菜ちゃんのほうから突然、「慣れては、いるけど」と言い出して。………。

 そうしたら彼女が急に、今までのなんだったのって問い詰めてきて。俺もどうしていいか分からなくなって、逆にどうしたらいいのって訊いたんです。そうしたら、「付き合うならいいよ」て言われたから、罪悪感もあって、いいよってOKしたんです。

 それから数か月間は、うちのアパートが親と喧嘩したときの避難場所になっていました。いつも部屋でゲームして、あとは……適当に。

 ………。

 それで次に環菜ちゃんに会ったときに、もう別れたいって言ったんですよ。

 泣かれて、すげえ粘られて、

「裕二君と別れたら、もう一生、誰のことも信じない」とまで言われました。

 ……、別れなかったら俺が警察に捕まるって言ったら、ようやく分かってくれて。

 ……、駅まで送りました』

 

 話が終わると、彼は息をついた。

 私は責める口調にならないように気をつけて、彼に質問を始めた。

「あなたは、環菜さんが誘っている眼をしていた、と言いましたよね。でも先にそういう目で彼女を見たのはあなただった可能性はないですか?」

 彼は曖昧にしたいような気配を滲ませて、

『でも無理強いは、してないです。それはほんとに』と自己弁護した。

「環菜さんが慣れているけど、と言ったのはたしかですか?」

『はい確かに言ってました』

「あなたが彼女と付き合っていたときに、他の男性のことで性的に虐待されたとか打ち明けられた記憶はありますか?」

『虐待て言えるか分からないけど……。付き合い始めてから、二人で交換日記してて、そこにたまにちょっと変なことが書いてあって、今日も絵のモデルをして、終わったあとに誰々さんがべたべたしてきて嫌だったとか書いてあった気がするんだよな』

「その日記は、最後にどちらの手元に?」

『環菜ちゃんだったはずです』

「小泉さん。あなたはさっき、無理強いはしなかったと言ってましたよね。それを信じたいと思っています。ただ、もう一度確認させてくださいね。環菜さんとの好意は本当に同意の上でしたか? もちろん同意の上だったとしても、彼女自身が実際はまだ、性的な行為の意味そのものを理解していなかったと思いますけど」

 彼は何といっていいか分からないという顔をして黙り込んでしまった。

 ………。

 私たちは、大変参考になる話でしたとして席を立った。

 外に出てから、辻さんから尋ねられた。

「聖山さんはどうして今も小泉さんのことを大事な恋人のように言うのかなと、疑問なんです」と。

 私は、少し考えてから、救いがなくなるからじゃないでしょうかと答えた。

母親の不在時に、父親に家を追い出されて。助けてくれた男性に信頼を裏切られたなんて救いようがないから。だから、物語を変えたんだと思います。あれはちゃんと恋愛で、自分も相手のことが好きで同意の上で、愛情もあったと。ない場所にないものを求めたんだと思います」

        第九章」に続く

 

 

 

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