T.NのDIARY

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1587話 [ 「思い出が消えないうちに」の粗筋 5/? ] 12/3・月曜(曇・雨)

2018-12-01 14:01:17 | 読書

 「あらすじ」

 [第二話 「幸せか?」と聞けなかった芸人の話]

 <主要人物>

 林田コータ―、轟木ゲン、轟木世津子、時田ユカリ

 <概要>

 この3日間、お笑い芸人・林田コータ―が何かの目的があって、「喫茶ドナドナ」に通い詰めていた。

 一方、相方の轟木ゲンは失踪の噂が立っていた。

 二人は、今年、轟木の妻で5年前に亡くなった世津子の夢でもあった、芸人グランプリに優勝していた。

 三人は、小学校からの幼馴染で、喫茶ドナドナの時田ユカリとも顔見知りのであった。

 林田は、優勝のニュースを知ったユカリがアメリカから「おめでとう」と絵ハガキを送ってきたので、轟木にも送っただろうから、過去に戻って、世津子に知らせるために、必ずここに来るだろうと思っていた。

 3日目にドナドナを出るときに、轟木が店に来るだろうから、過去に戻らせたくないので、老紳士が席を外すようだったら、ぜひ知らせてくれと言って店を去る。

 その日の夕方、轟木がドナドナに現れて、過去に戻りたいと、流に頼み、怜司の前で、林田に、過去に戻る前にメールを打つ。

 過去に戻った轟木は、世津子にグランプリに優勝したことを知らせて、お前が死んでしまったので、俺も生きていく意味がないので、コーヒーを飲みほさなさずに、このまま死んで行くと言う。

 しかし、世津子は、「私が死んだら終わりなんて言わせない。私はずっとゲンちゃんのそばにいるので、いつまでも私を幸せにしてほしい」と、轟木を未来に帰す。

 轟木は、亡き妻を幸せにするために、人生を生きると2030年への現在へ戻った。

 

 <詳細なあらすじ>

 1.   <序章>

「喫茶ドナドナ」の青い空と函館を望む大きな窓からも、眼下に広がる紅葉が見えて秋はやってきた

 そのせいか、カップルが増えたと、カウンター席に座る松原菜々子は思った。

 そのカップルたちに紛れて、年齢40代後半くらいのひょろりと背の高い男が一人、ここ三日ほど通い詰めている。朝はオープンから来て、閉店までいる。不審者と思われてもおかしくない。

 そんな怪しい男の向かいの席に、例の「100の質問」の本を持っている時田幸がいた。カウンターの中では時田数が仕事をしている。そして、菜々子の隣ではランチ中の村岡沙紀がいた。

 しかし、警戒心は誰からも感じられなかった。何故なら3人ともその男は(過去に戻るために来た客)だと思っているからだ。

  カランコロロン(喫茶店の入口のカウベルの音)

 入ってきたのは、客ではなく、アルバイト店員の小野怜司である。東京から戻ってきたのだ。流から、帰ってきたのだから休んでもいいよと言われたが、日曜日なので、これから混むだろうからと厨房に入った。

 怜司は早速に、テラス席にパフェを運んだ。

 カウンターへ戻ってきたら、菜々子から、「オーディションはどうだったの」と聞かれ、「今回のネタはかなりいい線いったと思う」と胸を張って答えた。

 怜司はお笑い芸人を目指していて、時々、デビューを夢見て東京にオーディションを受けに行っている。だが、これまで一度として受かったためしがない。(第四話と関連)

「もう諦めたら。怜司君、才能がないよ」

 沙紀の歯に衣着せぬ物言いは健在である。

「そんなことないですよ」と、怜司も負けていない。

 菜々子は、「才能ないよ。でもそれでも諦めないのは才能だよ」と、変な励ましをする。

 しかし、こんな会話もいつものことで、怜司には暖簾に腕押しなのかもしれない。

 その怜司の目が、ふと、向かいに座るサングラスの男を捉まえた。

「林田さん?」と、怜司が呟いた。

 相手の応えがなかったので、

「お笑いコンビ、ボロンドロンの林田さんじゃないですか」と尋ねると、男は「あっ」と声を洩らした。

 男の名は林田コータ―。ここ数年、人気上昇中のお笑い芸人である。

「芸人グランプリ、優勝おめでとうございます。俺、知ってますよ、5年前に轟木さんがグランプリで優勝するって宣言してるんですよね。ホント、すごいです」と、怜司は爛々と目を輝かせる。

 怜司の言葉の後に続いて、すぐに菜々子が、何かを思い出したかのように、

「ボロンドロンって、グランプリ優勝後、先月あたりから轟木さんが行方不明なんじゃなかったっけ」と呟き、首を捻った。

「はい」と、ボロンドロンの林田だと認めることも含めて、男は蚊の鳴くような声で呟いた。

 ボロンドロンの轟木の失踪が報じられたのは半月ほど前のことだった。しかし、ニュースで扱われたのは数日ほどで、あとは他のニュースにかき消されていた。

「ここに来られたのは、何か訳があるのではないですか」

 声をかけたのは数である。

 この3日間、林田が何の目的もなくこの喫茶店に来ていたとは思えない。目的はきっと過去に戻るためだろう。その理由が相方の失踪と関係していることは容易に想像できた。

「私は、あいつがここに来るかも知れないと思って待ってたんです」

「その、失踪なさった方をですか」

「はい」と、林田は数の問いかけに答えた。

「なぜ」と、沙紀が訊ねる。

 どうして失踪した相方、轟木がここに来るかも知れないと思ったのか、と……。

「世津子に会うために」

 沙紀が、「それは誰ですか」と続ける。

「5年前に亡くなった、あいつの奥さんです」

 だが、しかし、そうだとしたら、なぜ林田は轟木がここに来ると思ったのか、林田は、なぜ轟木を待っているのかという疑問が残る。これは、沙紀や怜司が漠然と感じた疑問である。

 林田は、その疑問の答えをぽつりぽつりと語り出した。

 

「私と轟木、そして世津子は、この町で育った小学校からの幼馴染みでした」

 つまりは、地元の人間である。であれば、ここが過去に戻れるという都市伝説のある喫茶店であること。そして、ルールについても知っている。また、時田ユカリとも顔見知りである可能性だってある。

 話は続く。

「小さい頃から世津子はお笑いが好きで、我々に、東京に出て芸人を目指せといって背中を押してくれたのも世津子手でした」

 幸も林田の語りに耳を傾けていた。

「何のツテもありませんでしたから、本当に生活は大変でした。3人で小さなアパートを借りて、コントライブに出て日銭を稼ぐ日々でしたし、世津子は、そんな私たちを支えるために昼は家庭教師をしながら、夜は銀座でホステスとして働いて、我々の生活を支えてくれたんです。すべては、私たちが、いや、轟木が芸人として生きていけるように、と……」

 話はまだ続く。

「5年前、私たちはボロンドロンとして、ようやく深夜番組のレギュラーを勝ち取り、轟木は世津子に結婚を申し込みました。レギュラーを勝ち取ったといっても、まだまだ貧乏でしたが、あのときの世津子の幸せそうな顔は今でも忘れられません。なのに……」

 林田はここで言葉を詰まらせた。 世津子の死である。

「世津子は、信じられないほど呆気なく亡くなりました」

 菜々子が目を伏せた。

「次は芸人グランプリ優勝……。それが世津子の最期の言葉になりました」

 愛する妻の残した遺言。それが芸人グランプリの優勝だとすると、それを二か月前に達成してしまった轟木を支えていたものがなくなってしまっのだ。

 妻を失った悲しみが深ければ深いほど、そして、妻の願いを叶えようという思いが強ければ強いほど、その喪失感は大きいに違いない。

「燃え尽き症候群とでも言うのでしょうか……、芸人グランプリを制するまでのあいつは鬼気迫るものがあったのですが、世津子の残した夢を実現させてしまったあと、本当に廃人のようになってしまって、毎日、浴びるように酒を飲むようになりました」

 そんな轟木を見ても、林田はおそらく何もできなかっただろう。このときばかりは、悲しいというより、悔しいというふうに顔を歪めた。

 

「でも、なぜ、今、轟木さんがここに来るかもしれないと思ったんですか」

 菜々子の質問に、沙紀も相槌を打った。

 林田は、バッグから一枚の絵ハガキを取り出し、4日前に届いたものですと菜々子に差し出した。

 手渡された絵ハガキには、アメリカのモニュメントバレーをバックにユカリが写っていて、そこに、「芸人グランプリ、一番、優勝、一等賞。おめでとう。世津子ちゃんも喜んでるわね」との言葉が記されていた。

 林田は、「そのハガキを見て、思い出したんです。『過去に戻れる』というこの喫茶店のこと……」と、説明した。

 俺の自宅に絵ハガキを送ってくるぐらいだから、「きっと、あいつの下にも届いているはずなんです、だから……」と思ったのです。

「轟木さんもこの喫茶店のことを思い出して、その、亡くなった奥さんに会いに来るのではないか、と」

 数が聞くのに、林田は明確に「はい」と答えた。

  カランコロロン

 数は入ってきた人物を認めると、「……麗子さん」と、呟いた。(第三話と関連)

 布川麗子は、時々、この喫茶店にやって来る客の一人である。麗子の妹が去年まで観光シーズンの繁忙期だけ、この喫茶店でアルバイトをしていたのだ。色白でどこか儚げな雰囲気の麗子は、店の入口で店内をゆっくりと見回しているだけで、席につこうとはしなかった。

 麗子は、「雪華は?」と、消え入りそうな声で囁いた。

「え?」と、菜々子が驚いて怜司を見返した。

 すると不意に、「今日は、まだ来られてませんよ」と、数が答えた。

 麗子の視線が数をとらえた。

「また来るわ」と言って、麗子はゆらりと踵を返し、店を後にした。

  カランコロロン

 怜司と菜々子は何が起こったのか分からない表情で顔を見合わせている。

 沙紀だけが立ち上がり、カウンターの上にランチ代を置くと、「ありがと」という言葉を残して、麗子の後を追うように店を去った。

  カランコロロン

「数さん、雪華さんは確か、ふた月前に……」と、菜々子が怪訝な表情で囁いた。最後は何を言ったのか聞き取れない。

「ええ、だけど今は……」と言って、林田を見た。林田との話の途中である。

 林田はもう何も話すこともなく、これから店内が混んでくるのを気遣って、「今日は失礼します」と立ち上がった。

 会計を済ますと、「もし轟木がここに現れたら、あの黒服の老紳士が席を立つ前に連絡いただけますか」と言って、名刺を残して去った。

  カランコロロン

 林田が去った後、店内は一時忙しくなったが、せいぜい一時間ほどであった。

 怜司と菜々子が、カウンターで一息ついていると、不意に数が、

「先生の話だと……」と語りかけてきた。先生というのは精神科医である沙紀のことだ。

 数が、麗子が妹の雪華を尋ねたのに対して、「今日はまだ来ていない」と答えた。しかし、雪華は二か月前に亡くなっていたのだ。怜司と菜々子も知らないわけがないので、なぜ数が嘘をついたのか、気になっていた。

麗子さんは、まだ雪華さんの死を受け入れられてないそうです。それで麗子さんの話に合せるように、先生から頼まれれていたんです」と説明した。

 つまり麗子は、亡くなった妹を探しさまよっているということである

 怜司と菜々子は、そうだったのですかと、悲しそうに呟いた。

 

 「2.    <轟木が、過去に戻るつもりでドナドナに来る、しかし、>」に続く」 

 

 

 

 

 

 

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