T.NのDIARY

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1621話 [ 「ファーストラブ」のあらすじ 8/? ] 2/26・火曜(晴)

2019-02-25 14:19:50 | 読書

 『「ファーストラブ」のあらすじ

 第七章 殺意に疑問

[環菜は父親刺殺の件について口を閉ざしていると迦葉に告げる]

 三が日が終わると、日常が戻ってきた。

 自宅で夕食の水炊きを囲んでいると、辻さんから電話があり、南羽さんから手紙が届いたのですが、明日、朝から出張で、できるだけ早くご相談がしたくて、近くで打ち合わせができないかと言ってきた。

 ファミレスのテーブルで、南羽さんからの手紙を見せられ、この先の取材について僕だけでは判断に迷ったとのことで私の意見を求められた。

 南羽さんからの手紙の大要は、次のようなものでした。

【 辻 憲太様

  ………。

  デッサン会に五十嵐という学生がいて、五十嵐は、下ネタばかり言う空気の

  読めない美大生でした。

  五十嵐が休憩中に聖山の娘さんから、携帯番号をゲットしたと自慢していました。

  そして、冗談だろうが、「中学生なんてロリコンじゃん」とも言った気がします。

 「だって本人言ってたんだよ」とか、「元彼とすることしたって」などと。

  ………。

  急にそのことを思い出したので、当時の空気を正確に伝えるために、

  メールをしました。

                    南羽 澄人  】

 読み終えた私は、「デッサン会が教育に悪い環境だったことは確かですね」と答えた。

 そして、私は、香子が言っていた「デッサン会の美大生が環菜さんに迫っていた」と言う話の整合性もとれたとも思い、手紙に視線を落としたまま、「元彼」と呟いた。

 環菜からそれらしい話を聞いたことはない。

 彼女は以前、別に好きで付き合った相手は、なかった、と言い切っていたが、一方で気にかかった台詞があった。

 ⦅私、信頼した相手なんて……あのときだけ。⦆(第四章、面会所で)

 印象的だったので、はっきり記憶している。その元彼が「あのとき」とは限らないが、年齢から考えれば、すくなくとも、最初の交際相手だった可能性はある。

 私は、「環菜さんに直接聞いてみます」と言った。辻は、お願いしますと頭を下げてから呟いた。

「デッサン会はどういう空間だったのか……僕にはますます想像がつかなくなってきました。そこにいたときのの環菜さんの気持も」と。

「私たちが今からタイムスリップして参加することはできないが、ただ、今も目に見えるものが一つしっかりと残っていますよ」と告げて、続けた。

「自傷行為の傷跡です。始めたきっかけは、まだ分かっていません。それでも時期を考えると、継続的に自傷を行っていた原因の一つには、このデッサン会のストレスも含まれると私は思います」

 それぞれの断片的な物語を、頭の中で一本に編み直す。考える。整理する。纏める。残りの謎と問題は何だろう。

 環菜は小学生の頃から、デッサン会にモデルとして参加していた。小学校を卒業したときに母親が留守にした際、最初の自傷行為に及んだ。

 中学生のときには、言い寄ってきた五十嵐に、元彼がいて肉体関係もあったことを語っている。

 環菜と五十嵐がどこまでの仲だったのか定かでないが、香子の話では、環菜は嫌がっていたという。そこまでの信頼関係があったとは考えにくい。

 そして、環菜は次第にモデルの役目をさぼるようになり、父親から止めるように告げられた。思春期以降は不安定な恋愛関係を繰り返しながらも、大学に進学し、女子アナを目指していた。その試験も二次試験まで進んだのだから、本人もそれなりに手ごたえを感じていたはずだ。

 そうすると、やっぱり分からないのは父親を殺す動機なのだストレスのかかり過ぎていた思春期前後なら、まだ説明がつく。しかし、なぜ今だったのだろう

 いくら父親が就活に反対していたとしても、事前に辞退させるまでには至っていない。現に当日、環菜は一度は面接会場に現れている

 にもかかわらず、自ら試験を放棄して、包丁を購入し父の職場を訪ねた。しかも犯行当時の動機を本人が説明できず、まるで突然、人格が入れ替わったかのように―—ーそこまで考え、私は愕然とした。

「辻さん。ちょっと失礼します」

 と断って、迦葉に電話をかけた。

「迦葉君。環菜さんは、そもそもちゃんと殺意があったことを認めている?」

「ああ、認めているよ。トイレに呼び出して、刺しましたって」

「それは本当に環菜さんがトイレに誘導したのかな。あの子、父親にそんなことを頼めるような間柄だった?」

「それはたしかに不自然だけど、検察側の供述調書にもはっきりとそう書かれているし、俺も事件直後に本人に会って、そこは訊いているし」と言ってから、「大事な話みたいだし、北野先生と一緒だから、こっちへくるか」と言う。

 私は、辻さんに南羽さんからのメールについて礼を言って別れ、迦葉からメールされた新宿の飲食店へ出向いた。

 私は、美術学校の柳澤先生に会ってから、今日までの流れを説明する。

「デッサン会って、そんな状況だったんですか? それは軽い虐待じゃないですか」、と北野先生が眉根を寄せた。

 迦葉が、「由紀。その元彼っていうのは、当時の環菜ちゃんの状況をリアルタイムで聞いている可能性高いよな?」と言って、私に、「ちなみにどうするつもりでいる」と訊ねた。

 私は、「なんとか探して、話を聞きに行こうと思っている。ただ、まず環菜さんに話してからにするつもり。だから迦葉君はこの件は彼女に伏せておいてほしいの」と言い、迦葉は了解した。

 その後、私は、「そういえば環菜さんの殺意の件だけど、もし仮に、今から環菜さん自身が殺意を否定したらどうなる?」と切り出した。

 迦葉たちは、「最初の供述と180度主張を変えれば、かえって刑期がのびる可能性はあります。ただ、それでも被告人がそう主張するなら、殺意はなかった方向で戦いますよ」と応えて、迦葉から、「どうして今このタイミングで言い出した? なにか根拠でもあるのか?」と訊ねられた。

根拠というか、やっぱりどこか引っかかってるの。環菜さんは、まだ本当は言いたいことがあるように見えるの。自分の心を開いてないように思えるの

 私は、迦葉に、明日仕事の合間に環菜を訪れることを告げた。

 

     第八章」に続く

 

 

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