T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

葉室麟著「散り椿」! -5/?-

2014-06-24 08:22:54 | 読書

「襲撃」

 庄屋の吉右衛門を斬った者の正体は分からないまま年の瀬にとなり、正月になった。

 正月三日になって、藤吾の屋敷に美鈴が訪ねてきた。そして、破談の話を聞かされたのは年が押し詰まってからで、父から、近く、別の方との縁談を勧めたいと言われましたが、私は別の方との縁談はお断りし、藤吾さまとのお話をお待ちしたいと思っていますが、よろしいでしょうかと言われた。藤吾はもちろんですと言いきった。藤吾は、近いうちに篠原家を訪ねてみようと決意した。

 翌日、郡奉行所に出仕すると、どことなく騒(ざわ)めいていた。奉行が罷免されるらしいとのことだった。武居村の吉右衛門が斬られるなど領内に不穏な動きがあることの責を負わされるらしいとの噂であった。

 藤吾は奉行に呼ばれた。藤吾から罷免の話はまことですかと尋ねると、昨日、執政の評定で決まったものの、まだ公(おおやけ)にはなっていない。そのわけは、江戸におられる殿の御裁可を仰ぐ立場の榊原様が罷免を認めていないからだと言う。

 ご家老は、ご世子様が三月にお国入りされるそれまでに、我々をことごとく排斥しておきたいのだ。しかし、榊原殿は味方も多く簡単にはいかないので、ご家老は榊原殿を揺さぶる手段を必死に探しておられる筈だ。采女殿の弱みは、父上が賄賂を受け取った疑いをかけられ、取り調べの最中に亡くなったが、実際に誰が遣ったのか判らないのだ。それで、ご家老は密かにそれを調べさせておられるらしいのだ。いずれにしても、ご家老は、そなたも自分の派閥の者だと思うておるまい。そろそろ腹をくくらねばなるまいと言われ、藤吾は、承知しておりますと引導を渡された。

 藤吾は部屋に戻り文書を見ると、結び文が挟まれているのに気づいた。以前と同様、「永福寺にてお待ちいたし候、蜻蛉」とあった。

 城内の執政の間で、玄蕃と采女は向かい合っていた。先程まで執政で評定が行なわれていたのだが、玄蕃が采女と二人で話がしたいと言いだしたのである。

 玄蕃は、今回は、山路の罷免だけで、わしは引き下がる。そなたの職を辞せよとまでは言わぬ。それで手を打たぬかと取引を始めたが、采女は、私の職とは別の話だし、山路の罷免も殿の御裁可を得たわけでなく認められていないと言う。 玄蕃は、別の話に切り替え、そなたの父の死には不審があると思っている。不幸の極みの行いではないかと思っているが、もし、そうだとすれば、わしがしたこととは比べものにならないと言うと、采女は仮の話にはお答えしても詮無いことでありますと言う。玄蕃は、今日は、これで打ち切り、あらためて評定を開き、そのおりに、そなたに見てもらいたいものがある。それは、そなたの息の根を止めるもの(?)であるのは確かだと言った。

 この日の夕刻、新兵衛は酒を飲みながら惣兵衛の世間話を聞いていた。その数日前に、土蔵の中で惣兵衛から大切なものを見せられた。それは、鷹が峰様から頂いた起請文と千賀谷家の紋が入った煙草入れで、今となってはこれが私を守ってくれる物ですと言った。新兵衛は、この品物のために、わしを守り役に雇ったのかと思った。

 惣兵衛が部屋を出た後、新兵衛は考えをめぐらせた。起請文は藩の重役から受け取ったものであろう。それは、平蔵の不正を証(あか)し立てるものだ。新兵衛はその不正を質そうとしたために、篠と藩を出されたことを思い出していた。

 その後、江戸から京へと10数年、艱難に耐える日々だったが、不思議に、どのように辛くとも、篠は笑顔を絶やさなかったし、恨み言も一度も言わなかった。

 最後に、病床にあった篠は、自分が死んだら故郷の椿を見に帰って欲しいと新兵衛に頼んだ。新兵衛が戸惑っていると、わたしは実家の椿の傍で、想いをかけたおひとにお会いしたいと願い続けてきましたと言って、采女のことを話し始めた。そして、采女のことを話し終えた後、『ひとがひとを想うとはどのようなことなのか、わたしは榊原様の想いによって初めて気づかされました。わたしにも、ひとへの想いはあると分かったのです。』 その想いがいままで自分を支えてきましたと篠は頬を微かに紅潮させて言い添えた。新兵衛は、思わず、そなたの頼みを果たせたら褒めてくれるかと尋ねると、篠はお褒めいたしますとも、と答えてくれた。篠が亡くなった後、新兵衛は、采女の恋文を見つけ、嫉妬に苦しんだ。

 国許に戻るとはしても、場合によっては采女を斬るかもしれない。しかし、采女を斬れば篠は哀しむだろう。だから自分にはできないことだ。椿の花を見たら、采女に合わずに国を出よう。新兵衛はそう心に決めていた。それがいつの間にか藩内の不穏な情勢に巻き込まれていて、先日も、采女に会った時に、新兵衛は刀に手をかけようとしていた。(篠の心情は後述の「迷路」と「面影」で明らかになる)

 同じ頃、藤吾は永福寺にいた。小頭から、紙問屋田中屋に押し入り、あるものを奪うのでついて来いと言われた。新兵衛が用心棒をしているので、そなたを選んだのだと言われた。

 田中屋に着くと、先客の賊(上士の家士であった)3人と新兵衛が斬り合っていた。、その場の見張りは藤吾に任せ、小頭は土蔵に走った。土蔵のほうで悲鳴が上がった。悲鳴を上げたのは惣兵衛で、小頭が急所を外して斬りつけたのだ。

 3人の賊を斬った新兵衛は土蔵に走った。藤吾も後を追った。土蔵の入口にいた小頭と新兵衛は斬りあい、小頭の頭巾が取れて、顔を見せたのは十五郎だった。十五郎は、この事を漏らせば蜻蛉組は容赦しませんと言って闇の中に独り消えた。

 藤吾は、新兵衛の指示で田中屋の家人と共に医師を呼んで惣兵衛の傷の手当てをした。

 新兵衛は、惣兵衛の懐に手を入れて、例の煙草入れと起請文を取出し、しばらく預かっておくと言った。

 永福寺に戻ろうとした藤吾は、小者から用が済んだので家に戻られよと言われ、家へ戻った。

 既に新兵衛は家に戻っていて、藤吾は新兵衛から無造作に煙草入れに入った書状を見せられた。それは起請文で、奥平刑部から惣兵衛宛ての中味は「違変無く申し合わせ候」とあるだけだった。新兵衛、藤吾ともに、その扱いに決めかねていた。

 

                              次章に続く

 

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