T.NのDIARY

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1715話 [ 「ノーサイド・ゲーム」を読み終えて 20/? ] 8/27・火曜(雨・曇)

2019-08-27 11:11:02 | 読書

 「第四章 セカンドシーズン」 -4ーー

(悪人・脇坂の裏をばらすM&A代理人・峰岸)

 インパルス戦があった週末が明け、月曜日の朝だった。

 いま君嶋は不機嫌な表情でデスクの固定電話を睨みつけている。その横には朝からずっと読みふけっていた書類が置いてあった。

 その書類は今年の2月、カザマ商事買収が流れることになった取締役会の議事録で、この日の朝、経営戦略室の元部下から内々で送らせたものだった。

 どうかされましたかと、多英が尋ねた

 君嶋は、土曜日の試合で滝川さんと会って、そのとき、どうも引っかかることを聞いたのだと、滝川とのやり取りを話しはじめた。

「脇坂さんがカザマ商事の不正を暴露した報告書には、資金が引き出された銀行口座の明細まで添付されている。ところが俺の調査は横浜マリンカントリーの青野さんの証言が中心で、唯一の物証は、3億円の受領書のコピーだった。脇坂さんは、俺の報告書になかった証拠を入手していたんだ。こいつを一体どこで手に入れたのか、全く分からない」

「今の電話、もしかして脇坂さん、ですか」

 察した多英に、「ああ。本人に聞いてみた。しかし、役員でもない君には関係ないだとさ」、と答えて続けた。

「通帳のコピーがどういう経緯で脇坂さんの手に渡ったのか。風間社長本人と近いところに情報源がない限り、こんなものを入手するのは不可能だ」

 通帳の名義人はカザマ商事社長・風間有也社長だった。

 定期を解約して集めた資金3億円が現金で引き出されている。その経緯が明らかにされていた。

 

 君嶋は青野さんに電話をした。

「風間社長の通帳のコピーが ? 」

 電話に出た青野の声は、怪訝なものを含んでいた。そして、「最初にカザマ商事が買収を持ちかけたとき、風間社長が脇坂さんに挨拶くらいはしたと思いますが、その後のやり取りは代理人を通していましたし」

 青野の言う通りで、M&Aの場合、代理人が行う。

 当案件に当たっては、トキワ自動車が代理人として指名していたのは、中堅のM&A専門業者の東京キャピタルだった。

 東京キャピタルは、君嶋も経営戦略室時代に何度か使ったことのある会社で、社長とも面識があった。

 青野との電話を終え、次に電話をかけた相手は、東京キャピタル社長の峰岸飛呂彦であった。

「カザマ商事の件で聞きたいことがあるんだが、脇坂と風間社長が直接やり取りしたことはあったか」

「例の取締役会での一件ですね。風間社長の個人的な情報まで把握していたという」

 峰岸は商売人らしく察しのいいところを見せた。

「何か聞いているか」

私も後で知って不審に思いまして。それで、風間社長に直接問い合わせてみたところ、少々意外な話を聞いたんですよ」

「意外な話 ? 」

 電話ではお話はできないとのこと、その日の午後7時に東京キャピタルの本社で会うことにした。

 

「第四章 セカンドシーズン」 -5--

(根岸が脇坂の悪の物証を届けることを約束する)

「意外な話って何だ」

「脇坂さんの学歴ってご存知ですか。――明成学園大学付属高校なんですよ。滝川さんが明成に入ったのは大学からですが、脇坂さんは高校時代にだけ明成に在籍していて、風間社長と同級生だったんです。大学は家庭の事情で国立に進んだということです」

 峰岸は続けた。

「ここからが重要なところですが、高校時代の同窓会に出た風間社長に、滝川さんの情報を教えたのは、他ならぬ脇坂さんだったそうです。酔った勢いで会社を売却したいと言ったところ、それなら滝川に話を持ちこんでみろと」

 その事実は少なからず君嶋を驚かせた。カザマ商事買収に関して、当時君嶋は高すぎることを理由に否定的な見解を示していたが、それについて脇坂はどっちつかずの態度であった。そもそも事の発端をつくったのが脇坂なら、そのあいまいな態度にも合点がいく。

脇坂と風間社長に面識があることを滝川は知っているのか」

「いえ、脇坂さんからは黙っていてくれと言われたそうです」

 峰岸は意味ありげに答えた。「話せば社内で面倒なことになる、自分たちが判断する立場だからと」

 風間と親交があるのなら社内で明らかにするのが本来の姿で、脇坂には他意である。

「最初から、裏で脇坂さんが風間社長にいろいろアドバイスをしていたらしいですが、風間社長が欲張って1千億円を提示したのは誤算だったようです。脇坂から価格を下げろと言われたそうなんですが、欲の皮が突っ張ってしまって聞き入れなかったと風間社長はおっしゃいました」

 実際、それがネックとなり、最初の時は、話がまとまらなかった。

「風間社長によると、森下教授の買収や、結局、会社の売値をトキワ自動車の許容範囲まで下げたものも脇坂さんのアドバイスだそうです。でも、脇坂さんは最初から風間社長を利用する目的だったんじゃないですか」

 峰岸にそう言わせるのは、商売人の収穫だろう。「脇坂さんがそこまでして風間社長を助けると思えないんですよね。脇坂さんは風間社長を救おうとしたわけではない。単に、自分の道具として使っただけなんじゃないですか。滝川さんを陥れる罠として。最初から買収を成功させるつもりなんかなかったんです。ただそのためには、買収に反対するだろうあなたが居ては邪魔だった。だから、あなたを横浜工場に飛ばしたんでしょう」

 君嶋の異動後、再び、カザマ商事の買収案が持ち上がり、今度は正式な買収方針が決まった。脇坂の計画が成就する見込みがついたのだ。そうなってしまうと今度は、経営戦略室の力不足が気になったというわけだ。だから、一旦は切り捨てた君嶋に、戻って来ないかと声をかけたのだろう。都合の良い話である

 重苦しい沈黙のあと、峰岸は言った。「ここだけの話、脇坂さんは本当の悪人ですよ」

「その悪人とあんたは仕事しているじゃないか」

「今は脇坂さんからトキワ自動車への出入りを禁止されましたから、動いていません」

 君嶋は決意した。

「脇坂の悪にきっちりとカタを付ける。ただ、伝聞だけでは弱い。証拠が必要だ。頼まれてくれるよな」

「見返りは、トキワ自動車さんと取引復活でよろしくお願いします」

 案の定、峰岸は乗ってきた。

 峰岸からひと通りの「証拠」が君嶋のもとに届けられれたのは、その翌々週のことであった。

 

 「第四章 セカンドシーズン」 -6-- に続く

 

 

 

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