T.NのDIARY

写真付きで、日記や趣味をひとり問答で書いたり、小説の粗筋を纏めたブログ

1201話 [ 「鬼火」を読み終えて 5/? ] 5/28・土曜(曇・晴)

2016-05-26 12:58:39 | 読書

[ 闇討ち ]

    権兵衛酒屋の女房・お浜の自害、薬種鋪・中屋幸助方への兇賊の押し込み、

   そんな中、平蔵は、兇賊どもの平蔵暗殺計画の裏をかく。

1章

 平蔵が居間へ出て行くと、与力・佐々木徳五郎が、「お浜が自害いたしまして……」と告げた。

 訳も聞かずに、平蔵は廊下に出た。

 土蔵傍の一間に行くと、お浜の側で見張りをしていた同心・島田慶次郎が申し訳もないことをと言ってうつ伏すようにしていた。

 小刀だけを差した島田が、きちっと、お浜の枕元に座ったまま、うとうととしているところへ、お浜が、いきなり飛び掛かり、小刀を鞘ごと抜き取った。 お浜は、自分の身を投げ出すようにして離れ、手にした小刀を己の心の臓に突き立てて、おのが体重をのしかけるようにして伏し倒れたのだ。

 お浜は完全に息絶えていた。 それにしても女ながら見事な自害である。

 絶対に失敗することのない方法を知っていたこともそうだが、それをやってのけたというのが、単なる居酒屋の女房にできる業ではないのである。

 平蔵は、佐々木に、「島田から目を離すな。このうえ、役宅で自害が起こってはたまらん」と言う。

 平蔵は、寝所に入ったが眠るどころでない。

(あの婆さんは、何も、何も話したくなかった。己の命を断っても、話したくなかった……)

 自分の前の亭主の友次郎のことが発覚し、弥市を訪ねてきた老武士の身許も分かった。 さらに自分の過去のほんの一部分を知っていた笠屋の勘造が何者かに殺害された。 これらのことを平蔵から聞いてお浜は、いよいよ自害の決心を固めたと看てよい。

(わしがしたことが……)、臥床の中で、平蔵は何度も舌打ちを繰り返した。

<お浜は、なぜ自害しなければならなかったのか>

<お浜は、どこで〔武家屋敷か〕自害の方法を知ったのか> 

2章

 異変の知らせが、盗賊改方の役宅へ届いた。

 牛込の薬種鋪・中屋幸助方へ盗賊が押し込み、家族・奉公人を合わせて23名を殺害し、逃走したのだ。 引き込みをしたものはいないようで、奉公人は、鼻と口に粘土を押し込まれ、心の臓を一突きに刺され、即死していた。家族は、金蔵を案内させたのだろう、猿轡をかまされたうえで刺殺されていた。

 牛込の中屋といえば、家伝の「順気剤」という高価薬の効能が素晴らしく、町屋のみか、大名や武家屋敷への出入りも多く、金蔵の中で、小判が唸り声をあげているなどという評判を、平蔵も耳へ挟んだことがある。

 このような凶暴な犯行は、久しく堪えていただけに、押し込みの計画が盗賊改方の耳へも聞こえず、目にも入らなかったことは、その責任は重く大きいと、平蔵は言って、盗賊改め方の総員を役宅に集めるよう、与力・佐嶋に言い渡した。

 夕暮れになって、高橋勇次郎が役宅を尋ねて来た。

<中屋に押し込んだ盗賊と権兵衛酒屋の亭主夫婦や平蔵を襲った曲者どもは同じ一味か

3章

 高橋勇次郎は、平蔵に、大野弁蔵が、今日、昼過ぎに三州屋にやって来て、貴方様を亡き者にする手筈が整ったと言って帰ったと告げた。

 平蔵は、こちらから、この企みに乗って身を晒し、暗殺されたように見せかけ、相手に油断させてみようと思い、与力・佐嶋と井関録之助を呼んで、高橋も聞いていてくれと傍らにいてもらい、手配の打ち合わせをした。

4章

 平蔵は、翌日から、密偵の彦十を高橋浪人の同居人として、三州屋に住み込ませた。そして、同心・酒井に、三州屋からの連絡に手落ちのない方法を考えるように指示した。

 その一方で、与力・佐嶋に、押し込みのあった中屋への探索を進めることを命じた。

 佐嶋は、五日後に、中屋の情報を持ち込んだ。

「中屋の出入先に、旗本・永井伊織の名があった」とのことである。

 永井伊織と言えば、元盗賊と推理された権兵衛酒屋の亭主・弥市の……いや、永井弥一郎の実弟ではないか。 

 弥一郎が理由不明の失踪を遂げたのち、七千石の大身・渡辺丹波守の奔走によって、伊織は永井家の当主となることを得た。(「旧友・第8章」) その後、19歳の長男の他に一男一女をもうけた。 いまはその程度の程度の情報しかないが、何か匂うので、平蔵はもう少し、両者の関係の探りを入れることを命じた。

 権兵衛酒屋一件に関わる曲者どもと、中屋方に押し込み皆殺しにした兇賊どもは、その犯行から平蔵の脳裏の中では一つになっているし、永井伊織も、権兵衛酒屋の亭主と中屋幸助の両方に関係するとすれば、何かあるではないかと疑っているのである。

 その後の佐嶋の調べによると……。

 中屋では大金を奪われたのみか、奇怪なことに、帳簿や書付などもかなり失われていた。 また、伊織の女子が、高価な「順気剤」を2年間飲み続け、治癒したとのことであった。

<兇賊どもは、中屋から、なぜ、帳簿や書付を盗んだのか>

5章

 同心・酒井から、三州屋との連絡手順の準備完了報告を受けて、平蔵は、江戸市中の微行見廻りを始めた。

 日に一度、高橋勇次郎からの大野弁蔵の動きの報告が役宅に届けられる。

 その手順は、高橋の手紙を持って、彦十が三州屋の近くの正慶系寺に行く。 そこには、井関録之助と密偵の由松が待機していて、由松が役宅へ走ることになっている。

―中略―

 平蔵が市中見廻りを再会して五日目の夜更け、与力、佐嶋が中屋の情報を平蔵に告げた。

「渡辺丹波守屋敷へ、「順気剤」を1年前から持ち込んでいた」とのことだ。

 服用していたのは、前当主の先ごろ病没した丹波守直義で、いまは、直義の長男・直照が家督を継いでいる。

 平蔵は、権兵衛酒屋に詰めている五郎蔵をつかって、渡辺屋敷に探りを入れるよう佐嶋に告げた。

 いままでの曲者の動きから見て、曲者の見張り場所が、権兵衛酒屋の近くにあるのではないかと、平蔵は推測していたので、明日の見廻りは、権兵衛酒屋から出発しようと考え、ついでに、担務換えを五郎蔵に伝えようと思ったのだ。

6章

 翌朝、平蔵は、久し振りに権兵衛酒屋を訪れた。

 平蔵は、五郎蔵に、ここは代わりに密偵の宗六が詰めるから、役宅へ戻って、与力・佐嶋の指示を仰げと言って交替させた。

 密偵のおまさが、この家は、いまでも何処からか見張られているような気がしてなりませぬ、平蔵に注意するよう伝える。

 これより、およそ半刻ほど前に、三州屋へ大野弁蔵があらわれ、高橋勇次郎に、

「今日、おぬしとおれの二人で、殺〔や〕る。 いいな」

 と言って帰った。

 彦十は、裏口から、正慶寺の井関録之助へ知らせに駆けた。

7章

 平蔵は夕暮れに権兵衛酒屋を出た。

 吉祥時門前を通り過ぎた平蔵は、目に見えぬ人の気配を感じた。 この辺りに入ると、日が暮れれれば通る人とてない。

 曲者が急に走りかかって来て、平蔵の背中へ刃を打ち込んだ。

 身体をかわした平蔵は、曲者の右腕の肘から下を切り飛ばした。

 そのとき、浪人・大野弁蔵と高橋勇次郎が斬りかかった。 高橋の気合声に合わしたように平蔵は刀を掬うようにして草原へ飛び込んだ。

 高橋が後を追い、裂ぱくの気合い声を上げた。それに合わせたように、平蔵の「むうん」と言う唸り声がした。

 高橋の後ろから、大野と別の浪人が近寄って殺ったかと声をかけた。 高橋が、喉笛を撥ね切ったので即死だと告げた。

 そのとき、「人殺し!」と二人の大声がした。 浪人たちは、高橋を除き、平蔵は死んだと確信して逃げた。

                                                 

                       次の節「丹波守下屋敷」に続く

 

 

 

 

 

 

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1200話 [ 「鬼火」を読み終えて 4/? ] 5/27・金曜(曇・晴)

2016-05-26 08:38:08 | 読書

[ 旧 友 ]

   平蔵の旧友・井関録之助が旧友の旗本・清水源兵衛の話から、

  元盗賊と推理された権兵衛酒屋の亭主・弥市と旗本・永井伊織と大身旗本・渡辺丹波守の

  関わりを掴む

1章

 思いもかけぬ大音声が夜の闇を切り破った。 

「何をしているのだ。人殺しか?」並大抵の大声ではない。

 刺客二人の逃げる足音が遠ざかったので、頭を上げた五郎蔵は、目の前に坊主頭の井関録之助を見て、助かったと思った。

 井関は、若き日の平蔵や岸井左馬之助と共に高杉道場で剣術を学び、平蔵が弟のように面倒をみてやった者だ。 しかし、井関の父の所業で家名断絶になり、録之助は托鉢坊主になって全国を歩き、ときどき江戸に戻り、盗賊改方の手助けをしていたのだ。

2章

 岡場所のみよし屋からの情報をもって、御家人・石塚が役宅に駆けつけた。

 平蔵は、同心・沢田と密偵二人を石塚家に待機させることにした。

 これまで、後手後手に回ってしまい、曲者どもに機先を制されていた盗賊改方が、始めて、探索の手掛かりを掴むことを得た夜になった。

 一つは、みよし屋の妓およねによってもたらされた二人の怪しい浪人である。いずれ、浅吉が浪人の住まいの情報を持ち込むだろう。

 もう一つは、五郎蔵が、権兵衛酒屋を訪ねた老人の武士の行方を突き止めたことであった。

 井関録之助と助けられた五郎蔵が役宅に戻って来て、五郎蔵は、平蔵へ、老人が入って行った屋敷は、六百石の旗本・清水源兵衛のお屋敷でしたと報告した。

 傍らにいた録之助が、その家の家督をした子供は、私より3歳年下で、私がいた菊池道場の同門でしたので、その方は、御隠居の三斎様かもしれないと、平蔵に告げた。

3章

 夜が更けてから、平蔵はお浜が寝ている牢屋へ行ってみた。

 権兵衛酒屋を何回か尋ねた老人が誰か知っているかとか、おまえは、昔、友次郎の女房だったそうだなと聞いてみても知らないというだけだった。 そして、笠屋の勘造が殺害されたぞと知らされると、お浜の肩が衝撃に震えた。しかし、何も自白することはなかった。

4章

 浅吉が、役宅へ真っ直ぐに駆けてきて、平蔵に、二人の浪人の行き先を報告した。

「二人の浪人は、上野山下で右と左に別れたので、高橋浪人を尾行することにした。高橋浪人は、茅町の飯屋・三州屋へ入ったので、自分も入って小女に聞くと、二階で住み暮らしているとのことでした」と。

 平蔵は、浅吉に、気持の小判一両を渡し、与力・佐嶋に、三州屋には密偵・相模の彦十を連れて、わしが出張ってみると告げた。

5章

 平蔵が、三州屋の前に行くと、偶然にも、高橋浪人が出て来たので、平蔵が後を尾けた。 

 途中、斬り合いになったが、盗賊改方の長谷川平蔵との名乗りで、高橋の両眼から、たちまちに殺気が消えた。

6章

 高橋浪人は、高橋勇次郎と名乗り、彼に平蔵暗殺のことをもちかけた中年の浪人は、名を大野弁蔵といって、一年ほど前に、彼が道場破りをしているときに知り合ったとのことだった。

 そして、大野が何処に住んでいるのか、いまだに知らなくて、用があるときは向こうから私を訪ねてくるのだと答えた。

 平蔵は、こいつは根っからの悪党でないと踏んで、道場破りよりか、ましな金になるぞ、わしに付いてくるかと問うた。

7~8章

 権兵衛酒屋を訪れたのは、清水源兵衛の父親の三斎様でしたと、井関録之助が、源兵衛から聞いた内情を平蔵に報告した。

「最近まで内証にしていた父・三斎が、去年、権兵衛酒屋で弥市と呼ばれている亭主の永井弥一郎と出会ったといって昔のことを語ってくれた。

 弥一郎は、六百石の旗本で、新御番組頭というお役に付いていたときも、父の三斎と同じお役目で親密な間柄であった。 両人ともお役を退き、弥一郎は、妻が病死した後、突然行方知らずとなって、義弟の伊織殿が永井家を継いだとのことだった。 それもひとえに、渡辺丹波守様のお陰だとも父は言っていた」

―中略―

 平蔵は寝所へ引き取った。

(渡辺丹波守様とその永井弥一郎とは、どのような関係にあるのか?)

 七千石と六百石では身分が違い過ぎる。 それなのに、丹波守は、永井家のために奔走して、弥一郎失踪事件を内密のうちに始末し、弥一郎の弟・伊織を以って家を継がせることに成功した。

 そこのところが合点がいかないが、清水源兵衛にもよく分からぬらしい。無理もないことなのだと平蔵も思った。

 いろいろと考えていた平蔵のもとに、妻の久栄が、「何やら、大変なことが起こりましたとか」と声をかけた。

                                                       

                        次の節「闇討ち」へ続く

 

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