食の歴史 by 新谷隆史ー人類史を作った食の革命

脳と食を愛する生物学者の新谷隆史です。本ブログでは人類史の礎となった様々な食の革命について考察していきます。

ペンシルベニア・ダッチの食-独立前後の北米の食の革命(5)

2021-09-22 22:42:31 | 第四章 近世の食の革命
ペンシルベニア・ダッチの食-独立前後の北米の食の革命(5)
今回はアメリカ独立戦争(1775~1783年)を戦った13植民地のうち、ニューヨーク・ニュージャージー・ペンシルベニア・デラウェアから構成される「中部植民地」の食について見て行きます。

ハドソン川とデラウェア川流域に築かれた中部植民地は穀物の生産性が高く、カリブ海やヨーロッパに食料を輸出することで栄えていました。

この中部植民地の中でペンシルベニアはアメリカの独立運動が始まった地であり、アメリカの歴史をリードしてきた、とても重要なところです。

独立運動の実質的な始まりは、1774年に11植民地の代表がペンシルベニアのフィラデルフィアにあるカーペンターホールに集まり、「権利の宣言」などを決議したことだとされています。そして1776年に、フィラデルフィアにある独立記念館(Independence Hall)で独立が宣言されました。フィラデルフィアは1790年から1800年まで、合衆国の首都にもなりました。

ペンシルベニアという名前は、この地の所有者だったイギリス人ウィリアム・ペンにちなんで名づけられました。彼は他国民や原住民に寛容な社会を目指したため、ペンシルベニアにはイギリス人に加えて、オランダ人やスウェーデン人、そしてドイツ人などが移住してきました。中でも「ペンシルベニア・ダッチ(Pennsylvania Dutch)」と呼ばれたドイツ語圏の人たちは、手工業などの分野で様々な技術を持っていたため、植民地の中でとても活躍しました。なお、「ダッチ」はオランダのことではなく、その当時はドイツ人(Deutsch)を意味していました。

今回は、このペンシルベニア・ダッチの食を中心に見て行きます。

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ペンシルバニア・ダッチの人々は食べることが大好きだ。腹いっぱい食べることを身上としており、食べ残すよりも胃袋が破裂する方を良しとする。このため普通は捨てられる豚肉などのくず肉を使った料理「スクラップル(Scrapple)」が開発された。

その作り方は次の通りだ。

ブタの頭や心臓、肝臓、その他の切れ端を、骨の付いた状態で茹でてスープを取る。肉は骨と脂肪を取り除いて取っておく。スープで乾燥させたトウモロコシを粉にしたコーンミールを煮てペースト状にする。肉もつぶして同じ鍋に戻し、セージやタイム、黒胡椒等の調味料を加えたのち、大きなカマボコのように形を整える。冷やして固めれば出来上がりだ。食べる時には薄く切り、フライパンなどで焼く。


スクラップル(Garrett Zieglerによるflickrからの画像)

スクラップルの原型はローマ時代以前にさかのぼると言われており、一部のペンシルベニア・ダッチがペンシルベニアに持ち込んだと言われている。植民地が始まるとすぐに人気が出て、中部を代表する料理となった。

ジョージ・ワシントンもベンジャミン・フランクリンも、独立運動でフィラデルフィアに滞在していた頃は、このスクラップルを何度も食べたと言われている。現在中部ではスクラップルを朝食に食べるのが普通で、朝食付きのホテルに泊まると必ず出てくるらしい。

スクラップのように、ペンシルベニア・ダッチの人々は豚肉をよく食べる。元旦には、この一年が良い年になりますようにという願いを込めて「グッドラック・ポークアンドザワークラウト(Good luck pork and sauerkraut)」という料理を食べる習慣がある。

この料理は、ローストした豚肉をザワークラウト、タマネギ、ニンジン、スパイスなどとともにじっくり煮込んだものだ。


グッドラック・ポークアンドザワークラウト

また、ペンシルベニア・ダッチの人々は甘いものも大好きだ。その代表が「アップルバター(apple butter)」だ。

アップルバターは、すりつぶしたりんごをアップルサイダー(リンゴジュース)や水、砂糖、クローブやシナモンなどのスパイスと一緒に長時間かけて煮込むことで、りんごの糖分がカラメル化して濃い茶色になったものだ。バターの名が付いているがバターは含まれておらず、とろりとした状態がバターに似ているため、そう呼ばれる。リンゴの糖分が濃縮されているためとても甘く、保存性も高い。アップルバターはパンに塗ったり、調味料として料理に加えたり、焼き菓子の材料として使われたりすることが多い。

アップルバターのルーツはドイツ北西部・ベルギー北東部・オランダ南東部にまたがる地域であり、中世に修道院が考案したとされている。ただし、このアップルバターにはスパイスがほとんど入っておらず、ペンシルベニアのものとは少し異なっている。このようにスパイスをよく使用するのもペンシルベニア・ダッチの特徴と言われる。


アップルバター(cgdsroによるPixabayからの画像)

ペンシルベニア・ダッチの人々は、祝い事では7つの甘味と7つの酸味を出すことが伝統となっており、アップルバターはその定番となっている。

すっぱい料理として代表的なのが「ゆで卵とビーツのピクルス(Pickled beet eggs)」で、祝い事の食事の前菜として供されることが多い。これは、ゆで卵とビーツを酢、砂糖、クローブで作ったつけ汁に漬けたものだ。赤紫色がお祝いの特別感を醸し出している。




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