こぶた部屋の住人

訪問看護師で、妻で、母で、嫁です。
在宅緩和ケアのお話や、日々のあれこれを書き留めます。
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さすがだね。お父さんは。

2013-07-30 22:03:58 | 訪問看護、緩和ケア
このところ衰弱が激しくて、危篤状態が続いていたYさん。

担当のナースが訪問するとすでに意識もなく、下顎呼吸が始まっていたそうです。

ここ数日、妻は入院をさせるか入所をさせるかで大きく揺れていました。

苦しそうな夫を見ているのが、とても辛かったのです。

支えてくれる家族はなく、たったひとりで危うい呼吸の夫を、どんな思いで看ていたのでしょうか。

「こんなに良くしてもらっているのに、入院させたいなんて、申し訳なくて言えないですよね。でも、こんなに辛そうなのに、何もできないで見てるのが辛いんです。」担当ナースにそう打ち明けてくれました。

家で看取ることが絶対良いわけじゃない。
我慢しないで、入院先を探しましょうね。

そんな話をした矢先、すでに命の火は消える寸前になっていました。

退院した日に「やっとここまで戻って来れたな。」そう言った夫の言葉を思いだし、残り少ない時間をやはり家で過ごさせたいと、妻は言いました。
「また、気持ちが変わってしまうかもしれないけれど、今はここで見送りたいと思います。」と。
「だれでも、気持ちが揺れて当たり前です。いつでも話は聞きます。出来るだけのお手伝いをします。だから我慢しないで、なんでも言ってくださいね。」

そしてこの日、Yさんは担当ナースの訪問を待っていたかのように、訪問時間の中でその生涯を閉じたのです。

妻は、「こんなにあっけないななんて・・」そう言いながらも、取り乱すこともなく、担当ナースと死出の身支度を整えました。

訪問から帰って、Yさんの死を知った私は、そのままYさんにお別れをしに行きました。

髪を洗って綺麗に整え、藍色のアンサンブルの着物を着たYさんは、うっすらと笑みを浮かべて、とても穏やかな表情で眠っていました。


「頑張ったね、お父さん。ちゃーんと逝きどきを考えてくれたのね。奥さんひとりじゃない時に、これ以上奥さんが疲れすぎないうちに、一番いい時間を選んで逝くなんて、やっぱり、奥さんのこと、大事に思ってたのね。さすが、かっこいいねお父さん。」

妻は「あの時、どこにもやらなくて良かった。どこかに入院させてたら、わたしきっとすごく後悔してたと思うの。本当にここで見送れて良かった。」何度もそう言っていました。


いいご夫婦です。
頑固おやじの見本みたいなYさんの、それでいていたずらっ子のような満面の笑顔を、私たちはわすれません。
そして、Yさんに寄り添って、いつでもYさんの心配ばかりしていた、頑張り屋の奥さんも。

もう1人の担当ナースが、やはり訪問後にお別れに向かいました。

やがて、ステーションに戻った彼女はぐちゃのぐちゃの顔で、泣きながら帰ってきました。
うちに就職してかれこれ一年近く立ちましたが、今でも担当の患者さんとのお別れは、彼女にとっては身内同然とても苦しいものなのです。

人の死に慣れる必要はないよ。
その感受性が、優しさとなって患者さんへの支援につながっているのだから。
お別れに泣いたからって、プロとしてやれることはちゃんとやっているのだから。
一緒に泣いてくれる人がそばにいるのも、嬉しいものです。

寂しくなるけど、私たちの大好きだったYさんが、これからはずっと上の方から、愛する奥さんを見守ってくれることを信じてお別れです。
いってらっしゃい。