こんな物語り・・・聴いて下さい。
たった一人で死の宣告を受け、たった一人で死んでいこうと決めた人が、自宅に帰って10日ほどたちました・・・
「自分でできる事は自分でさせてください。」
そう言っていた彼の目は、すでに遠くをぼんやりと見つめたまま、しろく濁り始めていました。
「こんばんわ!○○さん!」2度ほど玄関で大きく声をけると、「はい・・」と、一度はわずかに返事がありましたが、それからは何も語らず、なにも聴こえないようでした。
前夜、8時過ぎに3度目の訪問をすると、たくさんの人の気配が・・・
ドアを開けると、先生、二人のヘルパーさん、そして初めてお会いした隣のおばさんに囲まれて、しっかりと目を開けてお話をするKさんが、とても穏やかなお顔でそこにいました。
夕方来た時は、痰がうまく出しきれずにずいぶん苦しんで、吸引をしたりうがいをしたりしながら、やっと多量の痰を出せて横になっただ時には、肩で荒い息をしていました。
血圧も80ほどしかなく、酸素を3ℓまで上げ、しばらくすると眠りにはいって行きました。
呼吸は、先ほどのゴロゴロは無くなり、静かに穏やかになっていたものの、そこに忍び寄る死の影は濃く、夜8時のヘルパーさんが来るまでの無事を祈って静かにドアを閉めました。
O先生に報告をすると、夜には往診してくれると言ってくれました。
どうやら、ちょうどみんな一緒になってしまったようです。
ヘルパーさんは、時間をだいぶ過ぎても、そこにいてあれこれと手を貸してくれていて、いつも暗い部屋は、暖かな光に包まれてました。
ちょっとお酒が入った隣のおばさんは、それでも涙を流しながら、「先生、何とかしてやって下さいよ。」と詰め寄りました。
「頑張んなよ。ほら、お酒も用意してあるよ。あたしがちゃんと見てやるから、頑張んなよ」と言ったり、手をさすったりしてくれました。
「誰もいません。」
「友達もいません。」
そう言っていたKさんにも、私たち以外に涙を流してくれる人がいた。
それがお隣りの酔っ払いおばさんでも、Kさんんはどれほどうれしい事か。
ヘルパーさんたちも、あれこれとお世話をしてくれます。
足の踏み場もないすさんだ部屋は、今ではKさんの布団を何人かで囲めるほど整頓されています。
酸素のブクブクという泡の音。
人の気配。
心配する人のまなざしが、どんなふうにKさんには感じられるのか・・・
先生は、「お酒、もちろん飲んでいいですよ。みんなで、同じ方向を見てKさんの苦しみを取る事を最優先に考えて行きましょう。」
そして、そこでヘルパーさんと先生と、明日の予定を確認しました。
先生が帰ってっから、Kさんはどうしても自分でトイレに行くといい、ヘルパーさんと二人で抱えて連れて行きました。
トイレが終わると、また苦しくはなりましたが、寝る前に座薬を入れて酸素を横に置くとうとうとと眠りに入りました。
最後に彼が言った言葉は、「ヘルパーさん・・明日の朝は何時に来るの?」
「9時には必ずきますから、それまでゆっくり休みましょう。お休みなさい。」
そして、静かな寝息を聴いてドアを閉めました。
今日は、朝昼とヘルパーさん、午後から先生が訪問し、夕方私が尋ねました。
けれど、彼はもう何も語らず、なにも見ていませんでした。
何度も声をかけましたが、わずかに動く瞼以外に反応はなく、けれど彼には私の声かけが届いているのではないかと、そんな気がしました。
昨日の夜「明日の朝は何時に来るの?」と聴いた彼は、どんな思いで朝を待ったのでしょうか?
何故、そうまでして一人を選んだのでしょうか?
乾ききった口を閉めらせ、閉じた瞳に目薬をさし、かすかに震える肩をくるんで、しばらくそばにいました。
このまま置いて行きたくない思いが胸を締め付けます。
どんな人生を送ってきたとしても、どうしてこんな最後を選ばなければいけなかったのか。
いつも帰る時は、電気を全部消して下さいと言っていました。
でも、今日は消せませんでした。
暗闇に、置きたくなかった。
「お休みなさい。また、来ますから。」
そしてドアを閉めました。
どうしてこんなに悲しいのだろうと、涙が止まりませんでした。
2時間後には、今度はヘルパーさんが来ます。
ヘルパーさんもまた、特別な思いでドアを閉めるのでしょう。
今夜も、彼はたった一人で夜を過ごすのです。
それが、彼が選んだ最後の過ごし方なのですから・・・
たった一人で死の宣告を受け、たった一人で死んでいこうと決めた人が、自宅に帰って10日ほどたちました・・・
「自分でできる事は自分でさせてください。」
そう言っていた彼の目は、すでに遠くをぼんやりと見つめたまま、しろく濁り始めていました。
「こんばんわ!○○さん!」2度ほど玄関で大きく声をけると、「はい・・」と、一度はわずかに返事がありましたが、それからは何も語らず、なにも聴こえないようでした。
前夜、8時過ぎに3度目の訪問をすると、たくさんの人の気配が・・・
ドアを開けると、先生、二人のヘルパーさん、そして初めてお会いした隣のおばさんに囲まれて、しっかりと目を開けてお話をするKさんが、とても穏やかなお顔でそこにいました。
夕方来た時は、痰がうまく出しきれずにずいぶん苦しんで、吸引をしたりうがいをしたりしながら、やっと多量の痰を出せて横になっただ時には、肩で荒い息をしていました。
血圧も80ほどしかなく、酸素を3ℓまで上げ、しばらくすると眠りにはいって行きました。
呼吸は、先ほどのゴロゴロは無くなり、静かに穏やかになっていたものの、そこに忍び寄る死の影は濃く、夜8時のヘルパーさんが来るまでの無事を祈って静かにドアを閉めました。
O先生に報告をすると、夜には往診してくれると言ってくれました。
どうやら、ちょうどみんな一緒になってしまったようです。
ヘルパーさんは、時間をだいぶ過ぎても、そこにいてあれこれと手を貸してくれていて、いつも暗い部屋は、暖かな光に包まれてました。
ちょっとお酒が入った隣のおばさんは、それでも涙を流しながら、「先生、何とかしてやって下さいよ。」と詰め寄りました。
「頑張んなよ。ほら、お酒も用意してあるよ。あたしがちゃんと見てやるから、頑張んなよ」と言ったり、手をさすったりしてくれました。
「誰もいません。」
「友達もいません。」
そう言っていたKさんにも、私たち以外に涙を流してくれる人がいた。
それがお隣りの酔っ払いおばさんでも、Kさんんはどれほどうれしい事か。
ヘルパーさんたちも、あれこれとお世話をしてくれます。
足の踏み場もないすさんだ部屋は、今ではKさんの布団を何人かで囲めるほど整頓されています。
酸素のブクブクという泡の音。
人の気配。
心配する人のまなざしが、どんなふうにKさんには感じられるのか・・・
先生は、「お酒、もちろん飲んでいいですよ。みんなで、同じ方向を見てKさんの苦しみを取る事を最優先に考えて行きましょう。」
そして、そこでヘルパーさんと先生と、明日の予定を確認しました。
先生が帰ってっから、Kさんはどうしても自分でトイレに行くといい、ヘルパーさんと二人で抱えて連れて行きました。
トイレが終わると、また苦しくはなりましたが、寝る前に座薬を入れて酸素を横に置くとうとうとと眠りに入りました。
最後に彼が言った言葉は、「ヘルパーさん・・明日の朝は何時に来るの?」
「9時には必ずきますから、それまでゆっくり休みましょう。お休みなさい。」
そして、静かな寝息を聴いてドアを閉めました。
今日は、朝昼とヘルパーさん、午後から先生が訪問し、夕方私が尋ねました。
けれど、彼はもう何も語らず、なにも見ていませんでした。
何度も声をかけましたが、わずかに動く瞼以外に反応はなく、けれど彼には私の声かけが届いているのではないかと、そんな気がしました。
昨日の夜「明日の朝は何時に来るの?」と聴いた彼は、どんな思いで朝を待ったのでしょうか?
何故、そうまでして一人を選んだのでしょうか?
乾ききった口を閉めらせ、閉じた瞳に目薬をさし、かすかに震える肩をくるんで、しばらくそばにいました。
このまま置いて行きたくない思いが胸を締め付けます。
どんな人生を送ってきたとしても、どうしてこんな最後を選ばなければいけなかったのか。
いつも帰る時は、電気を全部消して下さいと言っていました。
でも、今日は消せませんでした。
暗闇に、置きたくなかった。
「お休みなさい。また、来ますから。」
そしてドアを閉めました。
どうしてこんなに悲しいのだろうと、涙が止まりませんでした。
2時間後には、今度はヘルパーさんが来ます。
ヘルパーさんもまた、特別な思いでドアを閉めるのでしょう。
今夜も、彼はたった一人で夜を過ごすのです。
それが、彼が選んだ最後の過ごし方なのですから・・・