哲学チャンネル より 中世の人々と最後の絆【自由からの逃走#4】を紹介します。
ここから https://www.youtube.com/watch?v=WKtBCCdKRAc
動画の書き起こし版です。
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こんにちは。哲学チャンネルです。 近代において中世を評価する際にはネガティブな印象を持たれることが多かったといいます。 個人的自由は欠如しており、価値観も前時代的な暗黒期である。 多くの場合はそのように考えられてきました。 しかし他方では、中世の人々は孤独ではなかった。 とフロムは考えます。 社会に束縛されてはいたけれども 社会が要請する役割を果たすことで帰属感を得ることができましたし 実生活においてはそれなりに個人の自由もありました。 特に、神の存在はそれらの帰属感をより一層深めるものでした。 フロム的に解釈をするならば、 中世の人々に課せられた束縛は、単なる服従ではなく 第一次的な絆だったと考えることができます。 まさに子供が親から独立する前の段階だったということですね。 だから逆にいえば【個人というアイデンティティ】は まだ存在していなかったとも考えられます。 イギリスの歴史家であるリチャード・ヘンリーは 中世の仕事事情について、以下のように述べました。 「現在機械的である多くのものは、 当時は人間的で親密で直接的であった。 そして、個人に適した標準以上に あまりに大きな組織は存在する余地がなかった」 「経済的利益は生活の真実の営みに従属していること。 また経済的活動は人間的行為の一面であって 人間的行為の他の面と同じく、道徳律に結びつけられている」 職人はギルドで結びつけられていました。 親方は一人二人の弟子を持ち 親方の数は社会の必要性と一致していたのです。 だから過度な競争は起こりませんでした。 必死に仕事をする必要はありましたが 自分の手仕事で十分に生活ができましたし 自分がどんな仕事をして、誰に価値を与えているのか はっきりと理解することも可能でした。 同業同士の争いは禁止され、 仕入れや技術や価格について協調が求められました。 成長はありませんが安定はあったのです。 商人もあくまでも個人でした。 小売りと卸売りはまだ存在せず、 仕入れと販売は一人の商人によって行われました。 彼らは事業の全体を把握していましたし、事業も安定していたのです。 中世末期、イタリアからこの状態が変化します。 経済システムの発達、中央集権、社会の統一、政治団体の乱立などが影響して それまでの既得権益であった階級の力が弱まり、 人々が重視する価値は、階級から富へと変化していきます。 一説には、少し前にはじまったグローバリゼーションによって シルクロードを経由し中国から腺ペストが持ち込まれ 『黒死病』として蔓延したことによる経済混乱も 変化の一因とされているようです。 既得権益の崩壊、感染症の流行、格差の拡大。 そういう意味では現代と非常に似通った状態なのかもしれません。 この一連の流れにおいてなされた文芸復興がいわゆる【ルネッサンス】です。 ルネッサンスの恩恵を受けたのは上流階級でした。 かれらはそれまでの第一次的な絆から解放され 個人としてのアイデンティティを手に入れました。 それは同時に孤独の獲得でもあり 彼らの中で競争が起こる原動力になったのです。 絆から解放されたことによって足りなくなった帰属感を埋めるために 彼らは世の中に名を残すことによってその不足を補おうとします。 この時代の人々は名誉欲に飢えていました。 労働者階級はルネッサンスの恩恵を受けず、 むしろ過酷な労働環境にさいなまれることとなりました。 職人はギルド内で競争をするようになり それまでの安定は消え、格差が現れました。 一方は資産を増やし、もう一方は生活に困窮する。 組織も大きくなり、自分がしている仕事の全容を把握できなくなりました。 商人の世界も様変わりしました。 大きな商事会社が生まれ、独占の傾向が現れます。 かのルターはこの現状について「商業と高利貸しについて」という批判を出しています。 こうして個人のアイデンティティが成立しはじめるのと同時に 個人は孤独感にさいなまれ、それを埋めるように競争に精を出し始めます。 それに呼応して時間観念も変化しました。 能率が価値を占めるようになり、一分一秒が重要になったのです。 ニュルンベルクにある時計台は 16世紀以降、15分おきに鐘を鳴らすようになりました。 まさにこのとき、人々の時間に対する価値観が変わったのだと言えるでしょう。 資本は召使いを辞め、人間の主人になりました。 それまでの仕事は生きることと同義だったはずです。 そして資本も生きるための道具の一つでしかありませんでした。 しかしいつの間にか資本は人間を支配するようになります。 人間は資本のために働き、競争をし、奪い合います。 もちろん、中世から近代にかけてのこの変化は 自由の獲得であり、束縛からの解放でもあります。 それがなければ現代の発展はあり得ませんでした。 しかしその結果、協同は競争に 仲間は敵に 安定は孤独に様変わりしました。 ルネッサンスはある意味上流階級の自由の物語でした。 一方で中間層は保守的でありながら上流階級に不満を持つ微妙な位置にいます。 彼らはルネッサンスにおいて恩恵を受けることは少なく とはいえ第一次的な絆からは強制的に解放されているので 格差と孤独にさいなまれていたのです。 そんな彼らが紡いだ自由の物語が【宗教改革】です。 次回は宗教改革について触れていこうと思います。
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