ある国で特許が許可されると、他の国でもそのまま特許を取得できる。そのような知財ボーダーレスを図る世界レベルでの特許相互承認制度の構想がときどき新聞記事になります。
この制度の実現性は定かではありませんが、将来もし制定されたらどうなるのか?
そんなことを、大手家電メーカーで特許ライセンスを担当するケンさん(弁理士。米国弁理士試験合格)とメールで意見交換しました。
以下、その内容を要約したものを掲載しておきます。あくまで二人の想像の話ですので、その点はご了承下さい。でも、今から10年、15年後に世間でこのような議論が交わされていたら面白いですね。
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<世界特許相互承認制度>
1.制度の概要
本制度に加盟するいずれかの国(審査国)で審査を受けて特許された場合に、特許明細書の翻訳文を所定期間内に提出することで、他国(承認国)でも特許が認められる。翻訳文は、承認国の言語である。
2.日本企業の審査国選定
(1)主たる審査国は日本となる
日本企業は、大部分の特許出願を日本特許庁に提出し、ここで審査を受ける。
これにより、現在の外国への出願及び審査に要する費用を削減できる。その削減分を承認国で特許を取得するための費用(特許された明細書の翻訳等)に回し、外国特許の件数を増加させることも考えられる。
(2)時には米国を審査国にすることも
案件によっては、米国を審査国とし、日本を承認国として選択することもあり得る。
米国特許庁で審査を受ける利点は、非自明性の基準が低く一般的に日本よりも特許になりやすいこと、米国特許判例に詳しいパテントアトーニーが拒絶応答を行えば将来の訴訟への備えとなること等が挙げられる。
例えば、将来的に規格必須特許としてパテントプールに申請する可能性がある特許出願は、権利行使よりもむしろ権利化することが大切であるため、特許になりやすい米国が審査国として選択されるであろう。
なお、米国を審査国とする場合は、権利行使の舞台を米国に限るものと予想される(日本の係争で日本特許が無効と判断され、そのことが米国での係争に不利な影響を与え兼ねない懸念が一つの理由)。
但し、相手方が和解を望むのであれば、日本の特許ポートフォリオも含めてライセンス収入を得ることも考えられる。
3.出願対策
日本を審査国とする場合、海外の弁理士・特許弁護士が審査に全く関与しないことになる。
したがってその分、知財部員及び事務所所員は、日本での出願及び審査時に他国のことも考慮しなければならず、責任と役割は今よりも大きくなる。
例えば、日本明細書の作成や拒絶応答の際に各国の判例を踏まえて権利範囲を狭める記述を回避したり(dedication to the publicの法理等)、無理なく翻訳できる日本語で明細書を作成したりすることが必要となる。
4.検討課題
①翻訳により生ずる争点
翻訳により作成された承認国の特許クレームは、審査国の特許クレームと同一でなければならないはずである。
しかしながら、競合他社を牽制する目的で実質的に権利範囲が広がる翻訳クレームを意図的に作ったり、単なる誤訳により意図せず権利範囲が変動したりすることもあり得る。
権利行使を受けた側の対策として「原文と翻訳の不一致」をつく手が考えられるが(例えば無効審判のような手段で)、異なる言語間では同一性の判断が極めて困難なこともあり、新たな争点が生じると思われる。
②承認国間の審査レベルの相違
現状では、日本企業が米国で特許を取得するよりも、米国企業が日本で特許を取得する方が困難である。この点にのみ着目して言えば、相互承認制度は米国企業に有利になると思われる。
各国間の不平等を無くすには実際の審査レベルを均一にすべきであるが、果たしてそれはなし得るのだろうか。
June 13, 2007 by Ken & Toyo
この制度の実現性は定かではありませんが、将来もし制定されたらどうなるのか?
そんなことを、大手家電メーカーで特許ライセンスを担当するケンさん(弁理士。米国弁理士試験合格)とメールで意見交換しました。
以下、その内容を要約したものを掲載しておきます。あくまで二人の想像の話ですので、その点はご了承下さい。でも、今から10年、15年後に世間でこのような議論が交わされていたら面白いですね。
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<世界特許相互承認制度>
1.制度の概要
本制度に加盟するいずれかの国(審査国)で審査を受けて特許された場合に、特許明細書の翻訳文を所定期間内に提出することで、他国(承認国)でも特許が認められる。翻訳文は、承認国の言語である。
2.日本企業の審査国選定
(1)主たる審査国は日本となる
日本企業は、大部分の特許出願を日本特許庁に提出し、ここで審査を受ける。
これにより、現在の外国への出願及び審査に要する費用を削減できる。その削減分を承認国で特許を取得するための費用(特許された明細書の翻訳等)に回し、外国特許の件数を増加させることも考えられる。
(2)時には米国を審査国にすることも
案件によっては、米国を審査国とし、日本を承認国として選択することもあり得る。
米国特許庁で審査を受ける利点は、非自明性の基準が低く一般的に日本よりも特許になりやすいこと、米国特許判例に詳しいパテントアトーニーが拒絶応答を行えば将来の訴訟への備えとなること等が挙げられる。
例えば、将来的に規格必須特許としてパテントプールに申請する可能性がある特許出願は、権利行使よりもむしろ権利化することが大切であるため、特許になりやすい米国が審査国として選択されるであろう。
なお、米国を審査国とする場合は、権利行使の舞台を米国に限るものと予想される(日本の係争で日本特許が無効と判断され、そのことが米国での係争に不利な影響を与え兼ねない懸念が一つの理由)。
但し、相手方が和解を望むのであれば、日本の特許ポートフォリオも含めてライセンス収入を得ることも考えられる。
3.出願対策
日本を審査国とする場合、海外の弁理士・特許弁護士が審査に全く関与しないことになる。
したがってその分、知財部員及び事務所所員は、日本での出願及び審査時に他国のことも考慮しなければならず、責任と役割は今よりも大きくなる。
例えば、日本明細書の作成や拒絶応答の際に各国の判例を踏まえて権利範囲を狭める記述を回避したり(dedication to the publicの法理等)、無理なく翻訳できる日本語で明細書を作成したりすることが必要となる。
4.検討課題
①翻訳により生ずる争点
翻訳により作成された承認国の特許クレームは、審査国の特許クレームと同一でなければならないはずである。
しかしながら、競合他社を牽制する目的で実質的に権利範囲が広がる翻訳クレームを意図的に作ったり、単なる誤訳により意図せず権利範囲が変動したりすることもあり得る。
権利行使を受けた側の対策として「原文と翻訳の不一致」をつく手が考えられるが(例えば無効審判のような手段で)、異なる言語間では同一性の判断が極めて困難なこともあり、新たな争点が生じると思われる。
②承認国間の審査レベルの相違
現状では、日本企業が米国で特許を取得するよりも、米国企業が日本で特許を取得する方が困難である。この点にのみ着目して言えば、相互承認制度は米国企業に有利になると思われる。
各国間の不平等を無くすには実際の審査レベルを均一にすべきであるが、果たしてそれはなし得るのだろうか。
June 13, 2007 by Ken & Toyo