根尾の淡墨桜
中将姫誓願桜
この時期のメディアに溢れる桜前線や見頃スポットの紹介。それらを見聞きするたびに
思い出すのは、かつて住んでいた岐阜県の桜たちです。ここ数年は桜の咲く時期に岐
阜を訪ねる機会が巡ってきません。そこで、かの地にある有名な桜にまつわる話を、私
の「こころ旅」として綴ります。
1.根尾の淡墨桜(うすずみざくら)
国指定天然記念物で「山梨県・山高の神代桜」「福島県・三春の滝桜」と並ぶ日本三大
桜のひとつです。福井県との県境にほど近い岐阜県本巣市・旧根尾村にある淡墨桜は
樹高16.3m、幹径9.91m、枝張り東西26.9m、南北20.2m、樹齢1500年以上と推
定されるエドヒガンザクラです。大正時代に枯れ死の危険にさらされるも山桜の根を接
ぎ木して再生復活。さらに昭和34年の伊勢湾台風の被害によって無残な姿になりまし
たが、昭和42年に作家の宇野千代さんがその姿に心を傷め、再生を呼びかけたのが
契機となり、各方面からの多大なる尽力により現在の姿に回復しました。蕾の時はうす
いピンク色、満開の時は白色ですが、散りぎわには淡い墨色になります。花は小さめで
す。
かつて偶然手に入れた「真清探當証(ますみたんとうしょう)復刻版」で読んだ内容は
歴史の授業で学んだこととはかなり異なっており、面食らいながらも、興味を引かれる
ものでした。後に雄略天皇となる大泊瀬幼武(おおはつせのわかたけ)王により殺害さ
れた市辺押磐(いちべのおしは)皇子の遺児たちが顕宗天皇・任賢天皇となるまでのこ
とが詳細に書かれ、その中に男大跡王(後の継体天皇)が登場します。その男大跡王が
都に向けて根尾を出立する際に、お手植えされたのがこの淡墨桜であると記述されてい
るのです。淡墨桜の太い幹を眺めながら、遠い五世紀の時代に思いを馳せるひとときも
捨てがたいものでした。
前回、私が訪ねたのは早朝の6時前。たまたま地元テレビ局の生中継とぶつかり、「お
はようさんじゃ~!おはようさん!」とテンションの高い声で、派手な衣装に身を固めた
「現代によみがえった信長さん」が登場したのにはビックリ。満開の淡墨桜のそばで、ご
当地グルメや温泉を紹介していました。最後のさよなら画面には飛び入りで参加して、
カメラに向かって手を振ったことも思い出のひとつです。
2.中将姫誓願桜(ちゅうじょうひめせいがんざくら)
岐阜市・願成寺の境内にある桜で、山桜から突然変異した珍しい種類と言われていま
す。樹齢は1200年程度とされ、平安時代初期に中将姫が病気の治癒をこの寺で祈り、
この桜を植えたという伝説を持つ桜です。樹高8.1mで幹径150cm 、最大の特徴は花
びらが普通の花より長く、20~30枚の花弁を持った八重咲きであること。個人的な感
想ですが、花そのものに関しては、この中将姫誓願桜が最も美しいと思っています。
この桜の種は米粒ほどの大きさで、地元の保存会などが蒔いても発芽せず、接ぎ木で
しか増やせなかったそうです。ところが、なんと!宇宙を旅した種子から二世が誕生した
のです。平成20年、北海道から沖縄まで13地域の名木14種類の種が若田光一さん
搭乗のスペースシャトル・エンデバーで国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」
に運ばれました。宇宙を旅して戻ってきた中将姫誓願桜の種子は248粒のうち2粒だけ
が発芽したのです。宇宙パワーの神秘がなせる技でしょうか。現在、願成寺の境内で立
派に育っています。
語り継がれている伝説を荒唐無稽なものと切り捨てるのではなく、そこに込められた
人々の想いというものを感じ取りたいものです。歴史の彼方に埋もれた謎が見え隠れす
る伝説に彩られた桜。宇宙パワーで発芽した桜。桜にはロマンが似合います。
機会があれば、そのほかの桜たちも紹介したいと考えています。
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