ショートシナリオの館

ボケに抵抗するため、日常生活の中から思いつくままに書いています。月2回・月曜日の投稿を目指します。

氷上の舞姫

2014-02-10 08:08:12 | 日記



厳しい寒さが続く時期に、冬眠をしない動物村の子供たちが楽しみにしているのは、

村のはずれにある小さな池に張った氷の上で遊ぶことです。


ミミ :池の氷が十分な厚さになったから、今日から使用できるようになったんだって。

ポン吉:ようやく許可がおりたんだね。待ちかねてたよ。

コン太:早朝に行けば、僕たちだけで氷の上を独占できるぞ。

     行くのは明日だ。いいね。


翌朝、3人組はまだ薄暗いうちに出発しました。池に到着したミミたちの目に飛び込

んできたのは、全面に氷が張り詰めた池の真ん中で、きれいな衣装をまとって、くる

くる回りながら軽やかに踊っている人間たちです。


ミミ :大変!人間がいるわ。早く村に戻って、皆に知らせなくっちゃ。見つからな

     いように、ソ~っと動くのよ。

ポン吉:ちょっと待って、何だか変だよ。姿は人間のようだけど、ちっちゃ過ぎないか

     い?僕たちよりもかなり小さいよ。

コン太:それに空中に浮いてるぞ。人間は宙に浮いたり飛んだりすることはできないと

     長老が言ってたじゃないか。変だよ。このまま隠れて、しばらく様子を見よう。

ミミ :確かに人間とは違うみたい。だったら、あれは何なの?

ポン吉:ねえ、以前、早朝の花畑で出会った花の妖精さんに似ているとは思わない?

ミミ :そういえば、なんとなく雰囲気が似ているわ。透き通るような青い衣装が素敵ね。

コン太:僕はもっと近くで見たいな。

ポン吉:コラ、コン太、背中に乗るな!押すな、危ない。ワ~ッ!


3人組は凍った池の上に転げ出てしまいました。氷上の踊り子たちは突然現れたミミた

ちの方を不思議そうな顔をして、じっと見つめています。


ミミ :ごめんなさい。踊りのじゃまをするつもりはなかったの。あなたたちが本当にきれ

     いだから、もっと近くで見たくなっただけなの。怒らないでね。

舞姫A:あら?!私たちのことが見えるの?それに、私はあなたの言葉を理解できるわ。

     あなたには私の言葉が通じているのかしら?

ミミ :ええ、ちゃんと通じているわよ。

舞姫B:それは不思議ね。私たちの言葉は仲間以外にわかるはずがないのだけど。

舞姫A:もしかしたら、あなたたちは動物村の仲良し3人組じゃない?雪ダルマの

     レイニーからあなたたちのことを聞いたわよ。

ポン吉:水の精のレイニーを知っているの?

舞姫C:もちろん知ってるわ。私たちも水の精だから、レイニーは仲間なの。あなたたち
   
     は彼を助けてあげたんですってね。

舞姫A:私たちは「氷上の舞姫」って呼ばれているのよ。あなたたちに会えて嬉しいわ。

コン太:うわ~、照れちゃうな。はじめまして、僕はコン太です。よろしく!

ミミ :今、空中に浮かんで踊っていたでしょ。どうしてそんなことができるの?

舞姫B:私たちの体はとても軽いのよ。日が昇り、温度が高くなると、上昇気流が生まれ

     るから、その気流に乗って空中に浮くことができるの。私たちは踊るのが得意な

     のよ。

ミミ :もっと踊っているところを見ていたいな。

舞姫C:見ているだけじゃ、つまんないでしょ。一緒に踊りましょうよ。

     さあ、こちらへいらっしゃい。

ポン吉:よ~し、転ばないように頑張って、池の中央まで行くぞ。みんなも行こうよ。

舞姫B:私たちの念力であなたたちを浮きあがらせてあげるから、ちょっとだけ飛び

     上がってごらんなさいな。

    
3人組が「イチ・ニのサン!」と掛け声をかけてジャンプすると、驚いたことに軽々と舞姫

たちの高さまで浮きあがったではありませんか。

3人組は大興奮です。宙に浮いたのは初めてです。その時、どこからともなく音楽が流

れてきました。3人組は舞姫たちと手をつないで、優雅なワルツの調べに合わせて一緒

に踊り始めました。


ミミ :夢みたい。私は舞踏会のお姫様だわ。もっと毛づくろいをしてくればよかったな。

舞姫C:日が高くなり始めたから、そろそろ私たちは帰らなくちゃならないわ。

     またいつの日か会いましょうね。

ポン吉:もっと踊っていたいな。こんな経験、初めてなんだもの。いいのかな?

舞姫A:いいわよ。3人で手をつなぎ、輪になってごらんなさい。

     どんな踊りでもできるわよ。私たちはこれで帰るわね。

     じゃあ、さようなら。

コン太:ちょっと待って!僕たちは宙に浮いているんだよね。どうすれば降りられるの?

舞姫B:心配ないわよ。踊りながら、つま先をじっと見つめればいいの。じゃあね。


しばらくして踊り疲れたミミたちは舞姫に言われた通り、つま先をじっと見つめました。

すると突然、大きな笑い声が聞こえてきたのです。慌てて周りを見回すと、動物村の子

供たちが3人組を指さして、大笑いしているではありませんか。

誰もいないとばかり思っていた3人組はビックリしました。しかも、自分たちは池のほとり

の土の上に尻もちをついていたのです。氷の上で優雅に踊っていたはずなのに、一体

何が起きたのでしょう?

ついさっきまで、舞姫たちと一緒に空中で踊っていたのが本当のことだったのか、はたま

た夢だったのか、全くわからなくなってしまいました。

状況をよく呑み込めないまま、その場にいたたまれなくなった3人組は池に向かって走

り、氷の上に思いっきり体を投げ出して、それぞれ別々の方向へ散って行きました。
コメント
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