みちのくの山野草

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物見山(10/18、ヤマナシと「やまなし」)

2020-10-24 14:00:00 | 経埋ムベキ山
《1 》(2020年10月18日撮影)

《2 》(2020年10月18日撮影)


 物見山に登ると、東屋の近く、登山路の両脇に2本のヤマナシが生えている。一方がヤマナシで、もう一方がイワテヤマナシだと先輩から教わった。その違いもその時に教わったのだが、老いぼれてしまって忘れてしまった。いずれ、私から見ればそれ程際立った違いはない。
 そしてそもそも、地元岩手の私達はそんな違いなどは意識しておらず、「ヤマナシ」といえばこの投稿したような実のことだ。とすれば、宮澤賢治の童話「やまなし」の「ヤマナシ」もこのようなものを指すと思うのだが、現実はそうではない。というのは、賢治学界では「ズミ(コリンゴ)」のことだというのが通説のようだからだ。
 しかし、「ズミ(コリンゴ)」とは『よくわかる樹木大図鑑』によれば、下掲の通りで、

             〈『よくわかる樹木大図鑑』(平野隆久著、永岡書店)300p〉
その
   実は直径6~10㎜の赤い球形
である。一方、「ヤマナシ」については、同じく『よくわかる樹木大図鑑』によれば、

             〈『よくわかる樹木大図鑑』(平野隆久著、永岡書店)220p〉
ということだが、実の写真はないので、『樹木図鑑』によれば、

             〈『樹木図鑑』(鈴木庸夫著、日本文芸社)297p〉
ということで、「ナシの長十郎を小さくしたような黄褐色の果実」である。つまり、今回投稿した実と同じような実である。なお『樹木図鑑』には実の大きさについての記述はないが、私がいま迄に出会ったヤマナシの実の大きさは直径3~5㎝程である。また、一般には3~9㎝と言われているようだ。しかも、長十郎に似た色のヤマナシと赤いズミだから、その大きさも色もヤマナシとズミとではかなり違う。つまり、この二つを間違う人はほぼいないだろう。

 となれば、岩手県人である宮澤賢治が認識していた「ヤマナシ」とは当然今回投稿したようなナシを指すと思うのだが、通説では、それとは全く異なる「ズミ」が賢治の童話「やまなし」の「ヤマナシ」のモデルだという。全く不思議な世界だ。

 なぜならば、賢治の童話「やまなし」の最後は、
 そのとき、トブン。
 黒い円い大きなものが、天井から落ちてずうつとしづんで又上へのぼつて行きました。キラキラツと黄金のぶちがひかりました。
『かはせみだ』子供らの蟹は頸をすくめて云いました。
 お父さんの蟹は、遠めがねのやうな両方の眼をあらん限り延ばして、よくよく見てから云ひました。
『さうぢやない、あれはやまなしだ、流れて行くぞ、ついて行つて見よう、ああいい匂ひだな』
 なるほど、そこらの月あかりの水の中は、やまなしのいい匂ひでいつぱいでした。
 三疋はぽかぽか流れて行くやまなしのあとを追ひました。
 その横あるきと、底の黒い三つの影法師が、合せて六つ踊るやうにして、山なしの円い影を追ひました。
 間もなく水はサラサラ鳴り、天井の波はいよいよ青い焔をあげ、やまなしは横になつて木の枝にひつかかつてとまり、その上には月光の虹がもかもか集まりました。
『どうだ、やつぱりやまなしだよ、よく熟している、いい匂ひだろう。』
『おいしさうだね、お父さん』
『待て待て、もう二日ばかり待つとね、こいつは下へ沈んで来る、それからひとりでにおいしいお酒ができるから、さあ、もう帰つて寝よう、おいで』
 親子の蟹は三疋自分等の穴に帰つて行きます。
 波はいよいよ青じろい焔をゆらゆらとあげました、それは又金剛石の粉をはいているようでした。
           ◆
 私の幻灯はこれでおしまひです。
             <『宮沢賢治<ちくま日本文学全集>』(宮澤賢治著、筑摩書房)145p~> 
となっているわけで、これを読んでそれが今回投稿したようなヤマナシなのか、それとも赤くてチビっこいズミであるのかは、地元の私達には言わずもがなである。しかも、落下したヤマナシは暫くすると「いい匂ひ」がするようになることは私も知っているが、「ズミ」の「いい匂ひ」には未だ出会っていない。さて、「ズミ」であると主張している方々はいつどんなときに「いい匂ひ」がしたというのだろうか。それとも私の鼻が悪いのだろうか。

 いずれ、「ズミ(コリンゴ)」だと思われている方は、是非現地岩手にお越しになり、地元で「ヤマナシ」と云われているものをまずは直に御覧あれ。そして、併せて「ズミ(コリンゴ)」も、です。いわば、「一次情報(一次資料)」を御自分の目で確かめることができますので。 

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 本書の購入を希望なさる方は、葉書か電話にて、入手したい旨のお申し込みを下記宛にしていただければ、まず本書を郵送いたします。到着後、その代金として当該金額分の切手を送って下さい(送料は無料)。
            〒025-0068 岩手県花巻市下幅21-11 鈴木守
 なお、岩手県内の書店における店頭販売は10月10日頃から、アマゾンでの取り扱いは10月末頃からとなります。
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