道端鈴成

エッセイと書評など

虐殺の戦後史(1)概観

2010年01月10日 | 思想・社会
「世界人類が平和でありますように」という白い柱をギリシャ・クレタ島のイラクリオンで見て驚いた事がある。日本の各地にあるあれだ。世界平和を祈るのは良い。しかし、平和の実現のために、いったい具体的に何をしているのかといぶかしく思った。第二次世界大戦後も、世界では、戦争や紛争、虐殺が引き続いて起きてきている。まず何が生じているのかを知らなくてはいけない。そして、原因は何か、どんな対策が可能かを分析してそれを実施せずに、平和の念仏を唱えているだけではあまり意味はないだろう。

戦争や紛争、虐殺が生じたケースで、特別にそこの人が愚かだったり、悪辣だったりするわけではない。同じ人間が起こしたことだ。複数の条件がそろえば、どこの地域でも、日本でも全く無縁とは言えない。ここでは、戦後に生じた、とくに悲惨な虐殺の例について、要因を分析し対策を考えてみたい。部族対立、宗教対立、利権対立、イデオロギー対立、拡張主義などの要因を検討できるように、ルワンダ、ボスニア、ダルフール、カンボジア、チッベトの五つのケースをとりあげる。下に、基本的事実と、対立の基本要因、国際社会の対応、加害側の心理について各ケースを一覧した表を示した。被害者の数などは、時期や情報源によって見積もりに差がある場合もあるが、ここではおおよその目安をしめした。それぞれのケースについての具体的な説明は、機会をあらためて行いたい。加害側の心理をとりあげたのは、虐殺の防止のための対策という観点からは、加害者側の心理の解明が重要だからである。加害側の心理や他の要因についての解説は機会を改めて行いたい。

五つのケースを比較すると、対立の内容に関しては差があっても、虐殺が生起してしまうには、いくつか共通の要因をクリアしていることが分かる。これは、航空機や工場での大惨事が、複数の条件をくぐり抜けて生ずるのに似ている。安全人間工学では、こうした考えを事故のスイスチーズモデルと呼んでいる。虐殺問題についても、安全人間工学にならって、スイスチーズモデルに基づく対策を考えることができるかもしれない。ここでは、ごく簡単にアイデアだけをリストアップする。

1.多重防御とひやり、はっとミスへの対応
安全人間工学の安全対策を援用すれば、多重防御とひやり、はっとミスへの対応となる。虐殺に関連する要因はより複雑だが、整理すると下のようになる。

A.状況要因 
・政治的軍事的不安定
・We/They対立
B.加害側の心理
・自己正当化のイデオロギー
・権威への従属
・間化
C.国際社会
・国際社会の対応

防御対策はこれら複数の層で行う事になる。具体的な解説は機会をあらためて行いたい。安全人間工学では、大惨事にいたる前の小さなミス、ひやり、はっとミスの報告と要因分析、対策を重視する。例えばルワンダの虐殺では、その前にも小規模な虐殺が生じている。特定の要因におけるアラームもある。安全人間工学でのひやり、はっとミスへの対応は、虐殺への対策でも有効だろう。

2..非暴力主義は有効か?共産主義イデオロギーの評価
ボスニアやダルフールの例で示されているように、加害側への組織されない中途半端な反撃は事態をさらに悪化させることが多いようだ。しかし、非暴力主義が有効かと言うと、チベットのケースのように、必ずしもそうも言えない。結局、加害側の侵犯の意図を牽制できるだけの力とその行使の意図の明確化が必要となる。これは、A.状況要因とC.国際社会が関わる問題である。非暴力主義、およびカンボジア、チベットのケースに関わる共産主義イデオロギーの評価についても、また別途に論じたい。