ここしばらく、バッハはパルティータ集(BWV825~830)と、ヴァイオリン+オブリガートチェンバロのソナタ(BWV1014~1019)ばかり聴いております。
ヴァイオリンソナタの方はかなりの枚数の録音があって、気づく度に1~2枚購入してますが、未聴の録音がまだまだたくさんあります。その一方、パルティータの方はチェンバロでの録音が意外と少なく、むしろピアノで演奏した録音の方が多いくらいです。ということで、パルティータの方からネタにしてみようかと思います。と言いつつ、続くかどうか・・・
まずはブランディーヌ・ヴェルレ(Blandine Verlet)の2種類の録音から。ヴェルレさんは1942年パリ生まれとのことですので、今年ちょうど70歳。ラルフ・カークパトリックやユゲット・ドレフュスなどに師事し、1963年にミュンヘンのコンクールで優勝経歴があるそうです。
1970年代からフィリップスへ録音を始め、その後アストレ(ASTREE)から多くの盤をリリースしています。しかしながら、契約の関係か、現在はほとんどが廃盤で入手が難しい状態です。日本では演奏家としてよりも、その録音の優秀さが高く評価されたことでオーディオマニアからの注目を集めたと思われます。
さて、フィリップス盤(写真右)は1977年の録音。6曲のパルティータの他に「フランス風序曲ロ短調BWV831」が納められています。これだけが1978年録音です。使用楽器はブックレットに書かれていないので不明。多の録音と比べてみるとエムシュの楽器ような気がします。BWV831は同じ音源のアナログ盤によるとW.ダウドによるブランシュのコピーが使われています。
この時期の彼女の録音はどれもそうなのですが、非常に緊張感の高いとげとげしさすら感じさせる演奏で、2枚を通して聴くとかなり疲れます。
アストレ盤(写真左)は2001年の録音。フィリップス盤に比べてかなり余裕と円熟味を感じさせる演奏で、緊張感もほどほどです。使用楽器はハンス・リュッカースのオリジナル。録音も格段に良くなっています(ただし、アストレとしては並)。ただ、曲によって調律がかなり気になります。普通は演奏する調によって調律をし直すはずですが、それをせずに全曲弾いたのではないかと感じるくらい変な響きが気になりました。特に3番(イ短調)で目立ちます。何か事情があったのか、楽器のコンディションなのか、それとも最初からの意図なのかはわかりませんが、それが気になって作品への集中感が薄れてしまうきらいがあります。
というわけで、私としてはフィリップス盤に軍配を上げたいと思います。
CD№ PHILIPS 442 559-2 , ASTREE E8849
ピノックのトッカータの記事に、ヴェルレのトッカータを紹介しましたが、もう聴かれていましたか。失礼しました。
そのパルティータは、ゴルトベルク変奏曲、イタリア協奏曲、フランス風序曲とともに、「クラヴィア練習曲全集」(オルガンは別アーティスト)としてフィリップスからリリースされた8枚組のレコードから、CDに落としたものだと思います。後のはまだ聴いておりません。
ヴェルレの調律はいつも物議をかもします。ベルクマイスターだとすれば、おっしゃるように曲によっては変更しないといけない調もあると思いますが、その和音の独特の響きが、古典調律の面白さでもあります。もし、グールドの1/12平均律で耳が慣れている方には、おかしく聴こえると思います。第3番が特に変だというのは聴いてみます。ゴルトベルクは推薦しません。主題のアリアをこね回し過ぎです。
それから、フィリップスとアストレの録音の差ですが、確かにアストレの録音はチェンバロの繊細な音をよく表現している点では軍配が挙がると思いますが、フィリップスも悪くはないと思います。特にトッカータは優秀です。