茨城県日立市にあった大煙突が建つまでの、公害と主に農民たちによる抗議、闘いの歴史を描く、史実に基づく小説。主な登場人物には実在したモデルがいる。
進学を志しかつその力もありながら、祖父の死により断念し地元で家を継ぎ村を率いることを余儀なくされた主人公と、企業側の人間でありながら理路整然と煙害の原因を追究し、誠実に対応する技術者。それ以外にも、こちらが普通ではと思えるような、農民を言いくるめ酒を飲ませて抱き込み、抗議活動をうやむやにさせようとする企業側の人間も登場する。
企業による公害(煙害)に、学のない農民はそれまでムシロ旗を立てて一揆の行動に訴えるしかなかったが、ここで暴力に訴えず企業の非と責任を追及し、損害賠償だけでなく根本的対策まで求める冷静な姿は、当時の日本としては初めてのスタイルだった。幸い企業側も真摯に対応し、失敗を繰り返した対策は最終的に大煙突による高空への拡散と、その排煙状況の観測結果で操業をコントロールする方法でいちおうの決着をみた。私企業で高層気象観測まで行いこの判断を下した社長もまた、人物と言える。美談で片付けるだけではダメだろうと思うが、それでも足尾公害などに比べればマシな結果をもたらしたのだと、評価するしかないのだはないか。
日立市のシンボルとも言われた大煙突は、残念ながら1993年に大部分が倒壊し、現在は1/3程度である50mあまりの高さしかない。
2024年4月10日 船を待つ六島前浦港(岡山)にて読了
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