すんけい ぶろぐ

雑感や書評など

太宰治「人間失格」

2005-11-16 08:43:42 | 書評
放浪編 その四


最初は、抗議の意味で家出をしたのですが、数日間放浪しているうちに、「オレは自由だ!」と監獄を脱走した囚人のような気持ちになってきました。

もう、いっそ、本当に家族と縁を切ってしまおうか、と。

が、自由といっても、ベースキャンプがないと落ち着かないものです。(貯金は適当にあったのですが)

上野不忍の池ほとりで、ホームレスのおじさんに混じってベンチに座りながら、太宰治「人間失格」を読みつつ、「この人たちのベースキャンプは、どこなんだろう?」などと考えておりました。

すると、パーキンソン病の手の震えのおさまらないオジイサンに、宗教を勧められました。

平日の昼間から、いい年をした男が「人間失格」を読んでいるのですから、そりゃ、かっこうのターゲットだろうねぇ…………。

ともかく、病人ということで無下に断るの心が痛み(後、暇だったので)、なんとなーく、話を聞きながら、「人間失格」のことを考えていました。

 いまはもう自分は、罪人どころではなく、狂人でした。いいえ、断じて自分は狂ってなどいなかったのです。一瞬間といえども、狂った事は無いんです。けれども、ああ、狂人は、たいてい自分の事をそう言うものだそうです。つまり、この病院にいれられた者は気違い、いれられなかった者は、ノーマルという事になるようです。
 神に問う。無抵抗は罪なりや?
 堀木のあの不思議な美しい微笑に自分は泣き、判断も抵抗も忘れて自動車に乗り、そうしてここに連れて来られて、狂人という事になりました。いまに、ここから出ても、自分はやっぱり狂人、いや、癈人という刻印を額に打たれる事でしょう。
 人間、失格。
 もはや、自分は、完全に、人間で無くなりました。
太宰治「人間失格」132頁 新潮文庫

「オレは駄目人間だから、女にもてない。太宰は人間失格だが、女にもてる。この差は、なんだ?」
などと、ホームレスのおっさんたちに紛れ込み、かつては特攻隊を志願し、今では難病の苦しみを和らげるために信仰を道を選んだオジイサンの話を聞きながら、バカなことを考えている三十歳の家出人にも、秋の太陽は誰彼を隔てることなく優しい光を差し出してくれていました。(オワリ)


人間失格

新潮社

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